感染症の脅威から世界を守る―G7保健フォローアップ・サイドイベント

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs

2023.10.10

感染症の脅威から世界を守り、世界中の人々のより健康な未来を目指すには何が求められるのかー。日本はこれまでも長年、グローバルヘルス分野における国際社会の議論や取り組みをけん引してきましたが、さらに今年はG7議長国として議論をリードしています。9月21日、国連総会の機会に開催されたG7保健フォローアップ・サイドイベントでは岸田首相が開会挨拶を行い、JICAの田中理事長も登壇。田中理事長は、ワクチン等の必須医薬品への公平なアクセスを実現するために国際社会が協力すべきことや、各国の体制強化に向けた取り組みを後押しする新たな円借款制度の創設、グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブにJICAが参画することなどを力強くアピールしました。

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9月21日、国連総会の機会にニューヨークで開催されたG7保健フォローアップ・サイドイベントに登壇した田中理事長。

パンデミックを踏まえた世界の動き

2020年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、全世界でおよそ8億人が感染し7百万人が死亡するなど(WHO、2023年9月6日現在)、甚大な健康被害をもたらしました。感染防止のための行動制限や、それによる保健医療サービスの縮小、学校の閉鎖、経済活動の停滞なども含めると、社会・経済へのダメージは計り知れません。

新型コロナウイルス感染症は同時に、人種や居住エリアによる死亡率の違い、男女による自殺増加率の違い、職業・雇用形態による所得減少率の違いなど、社会に存在する多くの不平等もあぶり出しました。新型コロナウイルス感染症があぶり出した不平等の1つに、世界規模の健康危機におけるワクチンや診断薬、治療薬等の必須医薬品へのアクセスに関する国家間の不平等があります。特にワクチンについては、原因となるウイルスが同定されてから1年以内に有効性の高いワクチンが製品化され人類の英知が示された一方で、低所得国への普及が著しく遅れ、グローバルな危機における国際連帯への信頼が大きく揺らぎました。WHOによると、2020年末にワクチン接種が開始された後、高所得国では2021年12月までに国民の70%への接種が完了しましたが、一方で低所得国では2022年3月になっても10%に留まりました。

このような健康危機における不平等を是正し、健康危機に対する予防、事前の備え、対応を世界的に強化するための国際協調の有り方が、国際外交の様々な場で議論されています。例えば、世界保健総会では、健康危機に際して各国が協調して取り組むためのルール作りが進み、2024年までに結論を出すべく検討が進んでいます。また、財政負担が難しい途上国政府を支援するためにG20等での議論を踏まえて世界銀行にパンデミック基金 が新設され、各国や地域での対応強化に向けた資金供給が始まっています。

G7広島サミットでの合意

グローバルヘルスは日本が議長を務めたG7広島サミットでも主要課題の1つとして集中的に議論され、日本のリードの下、大きく3つの合意に至りました。

1点目は、世界的な保健医療問題に取り組むための仕組み・組織(グローバルヘルス・アーキテクチャ)の強化です。開発途上国にとって健康危機の予防や事前の備え、さらには危機発生時に生じる莫大な財政ニーズに応える資金を予め持続的に確保することは容易ではありません。そのため、健康危機の予防や事前の備えを主眼とする世界銀行のパンデミック基金に加えて、健康危機が発生した際に迅速に資金を供給できる仕組み(サージ・ファイナンス)を、各国による国内資金動員、既存の国際的枠組みの強化、新たな国際的資金動員枠組みの創設の3つを合わせて取り組む方向性が示されました。

2点目は、すべての人が、十分な質の保健医療サービスを、必要に応じて経済的困難を被ることなく受けられるようにすること、すなわちユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて、G7が協力して取り組む道筋がグローバルプランとして策定されました。さらに、UHC達成に向けて公的資金だけで必要な財源を確保することが難しいことから、「グローバルヘルスのためのトリプルI(インパクト投資イニシアティブ)」を発表。財源確保に向け、インパクト投資などを含めた民間投資を拡大するための枠組が承認されました。

3点目は、保健医療分野で進むイノベーションの成果を世界で必要とする人々に公平にいき渡らせるための仕組み作りです。特に健康危機時においてワクチン、治療薬、診断薬、感染防護資材等の必須医薬品類を低中所得国の人々にも公平に届けるための枠組み「MCMに関するデリバリー・パートナーシップ」を設立することが合意されました。

これらに加え、岸田首相から、日本はグローバルヘルスに関し、2022年から25年までに官民合わせて75億ドル規模の貢献を行うとの表明がなされました。

国連総会サイドイベントでの表明

グローバルヘルスのための国際協調推進は、その後の国際場裏でも続けられています。日本政府は国連総会の開催に合わせ、9月21日に各国首脳や国際機関の長などを招き、国連ハイレベル会合でサイドイベントを開催。必須医薬品類への公平なアクセスの実現や、UHCに向けたインパクト投資の推進などについて議論を行いました。

イベントのオープニングでは、岸田首相が登壇し、健康危機発生の防止や事前の備えの強化、また、健康危機発生時の迅速な対応を支援するために日本が新たな資金協力メニューを創設したことを発表。さらに、「グローバルヘルスのためのトリプルI」の正式な立ち上げが宣言されました。

また、その後のイベントでJICAの田中理事長は、必須医薬品類の公平なアクセスを実現するために国際社会が協力すべきこととして、現場ニーズの迅速な共有に基づく協調した対応、健康危機発生時の迅速かつ規模感のある資金動員、平時からの各国や地域の対応能力の強化の3点を指摘。特に、健康危機発生時の資金動員については、新型コロナウイルス感染症対策において6,500億円を上回る緊急円借款を供与したことを紹介した上で、岸田首相の発言を受け、新たな借款スキームとして公衆衛生危機スタンドバイ借款 (注) を創設したことを紹介しました。さらに、これまでの協力の経験も踏まえ、平時からの健康危機への対応力強化の必要性に触れ、各国の取り組みを後押しする成果連動型借款の創設も紹介。上に述べた「グローバルヘルスのためのトリプルI」についても、設立メンバーとしてJICAが参画することを表明しました。

健康危機発生時における資金供給メカニズムの強化については、G7の開発金融機関を中心とした協力の動きもあります。9月20日には、米国国際開発庁および国際開発金融公社主催によるサイドイベントが開催され、健康危機発生時に迅速に資金提供するための手法の検討を開発金融機関が協力して行っていくことを盛り込んだ共同声明 が発表されています。

これから

日本は、新型コロナウイルスによるパンデミックへの取り組みに関して、G7諸国の中で最大のODAを提供し(2020-21年、OECD統計)世界の連帯に貢献してきました。JICAはJICA世界保健医療イニシアティブを立ち上げ、ワクチン普及や衛生行動を通じた予防、検査体制の拡充による警戒、医療体制の拡充による治療の強化に貢献しただけでなく、緊急円借款の供与等を通じて社会経済の安定にも貢献。また、必須医薬品類の迅速な開発と普及に向けて、低中所得国のパートナーだけでなく、日本の製薬企業や研究開発機関、研究助成機関、薬事承認機関、市民団体等との対話を重ねてきました。必須医薬品類を公平に提供するための枠組み、グローバルヘルスのためのトリプルIの立ち上げについても、準備段階から国内関係者による検討会や政府間協議に実施機関の立場で参画し、政府に協力してきました。

感染症は対岸の火事ではなく、世界的なパンデミックにおいては世界中のすべての人が安全でなければ誰も安全ではありません。損なわれた国際連帯に対する信頼を回復し、日本と世界を感染症による脅威から守るため、また世界中のすべての人が必要とする質の高い医療サービスを負担可能な費用で利用できるよう、JICAはより一層、低中所得国の政府や専門機関、他の開発援助機関や開発金融機関、民間企業や市民団体等と手を携えて取り組んでいきます。

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JICAの協力によりパキスタンで予防接種の担い手として実技研修を受ける女性たち

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