【日ASEAN友好協力50年・3】南部経済回廊から見た「連結性」のいまと課題

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2023.12.11

日本とASEANの友好協力50周年を機に、日本およびJICAがASEANと共に築いてきた信頼と発展の足跡を振り返り、未来に向けたパートナーシップ像について特集する本シリーズ。最終回となる第3回は、ASEANが一つの地域として発展し、日本とともに成長するために重要な「連結性」について取り上げます。ASEANの国々を道路でつなぐ経済の大動脈「南部経済回廊」をJICA職員らが実際に走行し、連結性の現状、そして強化に向けた課題を探りました。

つばさ橋を車両が通行する様子

南部経済回廊上のつばさ橋

連結性強化で、国を越えた往来を活性化

南部経済回廊は、ベトナムからカンボジア、タイ、そしてミャンマーへと約1千キロにわたってインドシナ半島南部を横断する、交通と物流の大動脈です。道路や橋梁などの運輸インフラを包括的に整備することで域内の連結性を高め、国をまたいで人やモノが活発に移動できるよう、JICAはアジア開発銀行(ADB)や世界銀行と共に、20年以上前からこの南部経済回廊整備への協力を進めてきました。

国境をまたぐ経済回廊のスムーズな往来は、域内の連結性を測る一つの指標です。ASEANの発展に欠かせない連結性強化への協力が、はたしてどのように機能しているのか、そして今後の課題は何か——。この10月、JICA職員と専門家らがベトナム・ホーチミンから、カンボジア・プノンペンを経てタイ・バンコクまで、南部経済回廊の約900キロを実際に走行し、回廊沿線で活動する企業や工業団地を訪問。道路整備や貿易円滑化、さらにはビジネス展開の状況など、ASEAN域内の連結性における現状と課題を探りました。

JICAがメコン地域で協力する主な経済回廊化支援

JICAはメコン地域で「南部経済回廊」と「東西経済回廊」への協力を主に行っている。
今回走行した南部経済回廊のホーチミン〜バンコク間の距離は日本の東京〜広島間に相当

著しい効果があった物理的連結性

「ベトナム国境と首都プノンペンを結ぶカンボジアの国道1号線では、コンテナを積載したトラックや国際バスが数多く走っており、ベトナムとカンボジアの2国間の物流や交通量が格段に増えていることを目の当たりにしました」

JICAでインフラ整備などを担当する社会基盤部の小泉幸弘次長は、日本がJICAを通じて2000年から整備を支援してきた国道1号線の現状を、実感を込めてそう話します。この国道1号線の整備で、2001年にホーチミンからプノンペンまで12時間ほどかかっていた移動が6時間に短縮されていると言います。

「また、プノンペンとタイ国境を結ぶ国道5号線(2013年から日本が整備を支援)は、片側2車線の道路改修がほぼ完成しています(※)。以前は時速30キロで8時間ほどかかっていたプノンペンからバッタンバンまでの区間が、今回、時速90キロ(規定速度)でスムーズに走行可能でした。この国道5号線が移動時間の短縮に与える効果は著しいと感じました」と小泉幸弘次長。

日本の協力で2015年に完成したカンボジアのメコン川に架かるつばさ橋においても、橋が架かる以前の渡河手段だったフェリーが1日5,000台程度(乗用車換算)の輸送能力だったのに対し、橋の開通により、1日の交通量が約15,000台(同)を記録しました。ベトナムとカンボジア、そしてカンボジアとタイの2国間における道路整備の状況および交通量の増大から、物理的連結性は飛躍的に向上していると話します。ただ一方で、現状では、ベトナム、カンボジア、タイの3か国が一体となってモノや人の往来が拡大する南部経済回廊全体としての機能は十分に果たせていないと小泉次長は指摘します。その要因の一つとして、越境手続きの煩雑さなど通関制度の整備が、期待どおりには進んでいなかったことを挙げました。

  • 国道5号線:JICAによる協力区間の総延長366kmの約90%が完成していることから、2023年11月22日、カンボジアのフン・マネット首相出席のもと、現地で完工式が実施された。

整備前のカンボジア国道5号線

プノンペンとタイ国境を結ぶカンボジア国道5号線(整備前)

整備後のカンボジア国道5号線

カンボジア国道5号線(整備後)

つばさ橋

2015年に完成したつばさ橋

社会基盤部の小泉幸弘次長

2000年から4年間カンボジア事務所に駐在した経験をふまえながら語る社会基盤部の小泉幸弘次長

越境時に確認された連結性の課題

貿易円滑化や税関分野などを担当する徳織智美JICA国際協力専門員は、越境手続の現状について次のように話します。

「各国で税関や出入国管理局の電子化は進んでいるものの、申告書類の原本提出も求められており、民間企業などの回廊ユーザーにとっては二度手間になっています。また、貿易手続きを一つの窓口で一括して行う『シングルウィンドウ』を通して関係省庁間システムはある程度連結されていますが、国内で完結しており、隣国との連結までは進んでいない状況です」

また、カンボジアは国境外通関(Off-Border Clearance)を導入しており、通関手続きを国境ではなく近隣にある経済特区(SEZ)やドライポート(内陸港)などに移動して行う必要がある一方、ベトナムは国境上で対応し、タイも国境上で対応するものの、人と貨物を別の場所で手続きする必要があるなど、3か国で国境の役割や形態が異なっている点も指摘します。

「アフリカでは地域統合がそれなりに深化しており、越境する際に両国それぞれで行われていた通関や出入国などの手続きを一か所で行えるようにする「One Stop Border Post(OSBP)」の導入が進んでいます」と、制度面での連結性はアジアよりアフリカの方が進んでいる点に触れ、アジアの現状に即した貿易円滑化の在り方を模索する必要があると徳織専門員は話します。

徳織智美・JICAガバナンス・平和構築部国際協力専門員

徳織智美・JICAガバナンス・平和構築部国際協力専門員

トラックが列をなす様子

モクバイ国境(ベトナム)からバベット国境(カンボジア)に入る中間地点(No man’s landという)で、カンボジア国境の開門を待つトラック。書類の不備などがあれば、手続きに数日を要することもある

合意形成のシステム作りの重要性

ガバナンス・平和構築部ガバナンスグループ行財政・金融チームの根岸精一課長は、各国の国境に対する捉え方が異なる点について、経済成長が進むベトナムやタイでは、移民対策や密輸取締り対策が主眼となる一方、カンボジアは関税収入の確保に注力している面を垣間見ることができたと話します。「回廊として道はつながっているものの、利害関係や外交関係が複雑にからみあい、それぞれの国が別々の方向を向いている」との見方を示しました。

「そのため、この地域の連結性強化を目指すためには、国境を接する国々が集まり、通関を含む越境手続きの制度上の課題をお互いに認識した上で、関係者が一緒になってそれらの手続の改善に向けて議論・合意形成する仕組み作りが必要となります」と根岸課長。アフリカの回廊整備支援では、国境関係機関が集まる機会を定例化し、お互いの業務や手続きに関する理解を深めつつ、手続きやプロセスの調和化に向けて努力する取り組みをしていると言い、南部経済回廊においても「JICAが仲介役となり、この地域の貿易円滑化に向けてポジティブな効果を生み出せるよう取り組みたい」と意気込みます。

ガバナンス・平和構築部ガバナンスグループ行財政・金融チームの根岸精一課長

ガバナンス・平和構築部ガバナンスグループ行財政・金融チームの根岸精一課長

税関職員との会合の様子

ベトナムとカンボジアの国境、バベット税関で職員らにヒアリングする徳織専門員(写真中央列右端)と根岸課長(同左端)

長年の協力の積み重ねを土台に、人と人との結び付きを強化

「カンボジア税関(関税・消費税総局)と今後の地域協力について協議した際、対応してくれたクン・ネム局長は、 10年以上前に、域内における税関のリスク管理に関するJICAの協力に携わっていた方でした。当時のことをよく覚えていて、その経験を生かし、今後もより良い連携をしていきたいという言葉をもらいました」

そう話すのは、東南アジア・大洋州部の渡辺大介次長です。JICAのこれまでの長年の協力で培ってきたネットワークを生かし、域内の人と人をつなげていくことでさらに成長に向けた知見が共有されていくと期待を込めます。すでに港湾分野では、アジア・大洋州における関連プロジェクトや研修の参加者を中心とした人材ネットワーク「港湾アルムナイ」が立ち上がっており、学び合いの場が形成されています。

また今回、南部経済回廊の沿線に進出する日系企業にも足を運んでヒアリングをする中で、民間企業との連携を進めるためにも大きなヒントを得たと言います。「現地での暮らしや働き方に触れて直接対話することで、アンケートやオンライン会議では知り得ない企業の本音が聞けました」(渡辺次長)

10年前にベトナムに駐在していた渡辺次長は今回、南部経済回廊を走り、改めてASEANの成長の勢いとパワーに圧倒されたと話します。「もはや経済力がある日本がすべてを支援する、という時代ではない」とし、民間企業をはじめ、他国とも連携し、この地域の各国や経済主体それぞれの長所や特徴が発揮されるよう、ファシリテーターとしての役割をJICAは求められていると語ります。

東南アジア・大洋州部の渡辺大介次長

タイのサケオ経済特区(SEZ)にある製造工場を視察

東南アジア・大洋州部の渡辺大介次長

東南アジア・大洋州部の渡辺大介次長

複眼的な視点で課題を洗い出し、現状を変えていく

「ASEANにおいて、産業集積や国家間での分業が進んでいるにも関わらず、JICAは地域全体としての課題を捉えられていないのでは、という問題意識から、経済回廊を実際に走行して現状を調査するというこのミッションがスタートしました」と語るのは、東南アジア・大洋州部兼南アジア部の馬場隆次長です。連結性をキーワードに、JICAの各国担当課だけでなく、インフラ整備や貿易円滑化などの分野の担当者や専門家、現地事務所員が共に現場に足を運び、国を横断した地域的な課題を複眼的に洗い出すことができたと言います。

「例えば、カンボジア政府が旗印を掲げる電気・電子・自動車産業について、企業は人材不足を理由に進出をためらっていることが分かりました。であれば、カンボジア政府、民間企業双方とのパイプを生かし、JICAが同国の産業人材の育成を支援する協力を進めることでWin-Winの状況を作ることができるはずです」。開発協力の実務者として、さらに能動的に取り組む姿勢が重要だと、馬場次長はこの先を見据えます。

東南アジア・大洋州部兼南アジア部の馬場隆次長

東南アジア・大洋州部兼南アジア部の馬場隆次長

ベトナムのカイメップ・チーバイ国際港

大型コンテナ船が横付けされたベトナムのカイメップ・チーバイ国際港。日本の支援で10年前に整備された。今回の調査で「見違えるほど活気あふれる様子に様変わりし、ベトナムの成長の勢いを実感した」という

「今回のミッションは、国・地域と分野を、横断的かつ複合的に見ることに意義があった」と話す馬場次長。これまでJICAは、国や分野ごとに課題に向き合い、解決に向けて協力に取り組むことが多かったものの、今後は複数の国や分野をまたいだ調整や仲介、協力を行うことで、付加価値を生み出せるのではと話します。

日ASEAN友好協力50周年の節目に、本ミッションを通して見えてきた現状と課題。それを次の10年、20年先を見据えた今後の協力への足掛かりにして、ASEANと日本がパートナーとしてともに成長する未来に向け、協力を進めていきます。

本ミッションに参加したJICA職員や専門家10名と国境職員らの集合写真

カンボジア-タイ間のストゥンボット新国境にて、本ミッションに参加したJICA職員や専門家10名と国境職員ら。
年代と部署をまたがるメンバーの参加で、JICA内外の人的連結性強化にもつながった

動画:【メコン地域】南部経済回廊を走ってみた(YouTube)

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