【トンガ噴火から2年】災害とコロナ禍のダブルパンチを乗り越え、復興を目指すトンガの人々

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2024.01.15

2022年1月に、海底火山の大規模噴火が起こったトンガ。噴火による津波と降灰により国民の約8割が被災した上に、それまで押さえ込んでいた新型コロナウイルス市中感染が拡大するといった立て続けの被害に見舞われました。日本をはじめとする世界各国の支援もあり、災害から2年が経った現在、トンガは復興の歩みを進めています。また、JICAが災害前から続けていた、トンガの防災能力を強化する協力が現在も進められています。そのような中、災害とコロナ禍という逆境の中でもオンラインで防災についての学びを続けたトンガのJICA研修員3名の訪日が、2023年8月に実現。被災当時の状況や、被災下でも続けた研修のこと、そして母国の復興に向けた思いを語ってくれました。

トンガのJICA研修員3名

来日したトンガの研修員3名。オンライン研修で修士号を取得した政策研究大学院大学(GRIPS)を訪れた

津波は日本にも到達 数十年に一度の大噴火に襲われたトンガ

2022年1月15日、トンガ沖の海底で噴火した「フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山」。噴煙の半径は、最大でおよそ250kmにも達しました。数十年に一度といわれるほどの大規模噴火であり、約8000kmも離れた日本にまで津波が到達したというニュースを覚えている人も多いでしょう。

トンガは170余の島々で構成されていますが、うち45島で人が暮らしています。津波や火山灰により、首都のあるトンガタプ島の他、エウア島、ハアパイ諸島などで建物の損壊や浸水、交通や通信インフラの障害、農作物のダメージなど、甚大な被害が発生。死者は4名にとどまりましたが、家が津波で流されてしまい、島民全員が避難移転を余儀なくされた離島も少なくなく、国民の8割が被災したと言われています。

トンガの位置を示す地図

フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山の噴火を捉えた衛星写真

2022年1月15日のフンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山の噴火を捉えた衛星写真(CIA World Factbookより)

火山灰が降り積もった街の様子

火山噴火の翌日。トンガタプ島全域に火山灰が降り積もった

加えて、被災直後には新型コロナウイルスの市中感染も発生しました。トンガは、2020年の世界的な新型コロナ感染拡大時に他の太平洋島嶼国と同様に商用便を停止し、一般旅行者の入国を禁止するという厳しい出入国制限を行っていました。同時に、徹底した防疫隔離措置を実行。観光業を中心とした国内産業や経済にとっては大きな打撃でしたが、それまで国内感染をなんとかゼロに抑え込んでいたのです。しかし、市中感染の発生後は、短期間で感染が急速に広まってしまいました。トンガ政府は、火山津波被害とコロナ禍の両方の対応に追われることとなり、大きな窮地に立たされたのです。こうしたトンガの苦境に対し、多くの国々や国際機関から援助の手が差し伸べられました。

コロナ禍にも屈することなく、防災のオンライン研修を完走!

日本もすぐさま、緊急的な支援を実施しました。火山噴火・津波災害に関しては、航空自衛隊の輸送機や海上自衛隊の輸送艦で、水や食料、高圧洗浄機、リヤカー、シャベルなどの緊急援助物資を供給。UNICEF(国連児童基金)やWFP(国連世界食糧計画)とも連携し、飲食や衛生・保健分野で支援を行いました。コロナ関連では、数次にわたりコロナワクチンや医療機器、ワクチンの保管に使う保冷設備や運搬用車両などを供与。民間からも、募金活動により多額の寄付がトンガ政府に寄せられました。

 JICA供与の緊急援助物資を自衛隊へ託す国際緊急援助隊

JICA供与の緊急援助物資を国際緊急援助隊が自衛隊へ託す

JICAも日本政府の支援の一端を担い、災害緊急支援物資の供与を実施。加えて、トンガの防災力を高めるためのさまざまなプロジェクトも実施しています。トンガは地震、サイクロン、高波、干ばつなど、世界的にも災害リスクの高い国です。そのため、JICAでは今回の緊急支援以前から、同じく災害頻発国としての日本の知見を活かした協力を行ってきました。そのひとつが、2018年から取り組んできた「全国早期警報システム導入及び防災通信能力強化計画」。島々が広域に分散しているトンガでは、機器不足や放送局設備の老朽化などから災害時の情報伝達が不十分で、災害時の住民の避難に遅れをきたしていました。そこで、緊急無線システムや音響警報システムなどを整備し、2022年9月にはトンガ全域をカバーする早期警報の仕組みが完成しました。

また、JICAでは長年にわたり、途上国の行政官や技術者などが日本で専門性の高い知識、経験、技術を学ぶ「課題別研修」も実施しています。防災分野でもさまざまな課題別研修が行われてきましたが、コロナ禍の影響が大きかった2020年から2022年にかけては、多くの研修が日本に来訪せずオンラインで学ぶ形となりました。「JICAとしても初の試みであり、1年間で修士課程を修了するというハードなコースですので、無事に完了させられるか手探り状態で進めていきました」と、防災分野などの研修担当機関であるJICA筑波で、プログラム調整に携わったマゴイ幸枝さんは振り返ります。

中波ラジオ用発信アンテナ

早期警報システムの構築においてヌクロファに設置された、離島に警報を届ける中波ラジオ用発信アンテナ

JICA筑波のマゴイ幸枝さん

JICA筑波のマゴイ幸枝さん

トンガでオンライン研修に参加したのは、「地震学・耐震工学・津波防災」コース3名、「洪水防災」コース1名の計4名。トンガはインターネットの通信速度が遅く、雨天にはインターネット接続できないこともしばしばで、講義参加ができないときもありました。また、仕事の合間を縫っての参加や、時差の関係で夜間までの参加が必要とされることもあり、研修員たちは勤務先や家庭の理解も得ながら受講を継続。「研修の実施機関である建築研究所の皆さまも尽力してくださいました。講義だけではなく、本来であれば来日研修で現地に行く予定だった東日本大震災からの復興を進める福島などでの現場視察の様子を、タブレットで配信していただいた配慮も有り難かったです」とマゴイさん。

研修員のひとり、トンガ公共施設庁で住宅復興関連の業務に携わっていたヴィクトリーナさんは、研修中に出産も経験しました。「この研修は、1年間で修士号を取得するという密度の高いプログラムです。オンラインでさらにハードルが上がっているところに、赤ちゃんを抱えながらの受講は大丈夫なのか、とても心配でした」とマゴイさん。そうした中で噴火が起きて通信が遮断され、安否確認ができるまで何日もかかったといいます。「無事が分かったときは本当に安堵しました。その後インターネットが復活するまでに2か月近くかかりましたが、こうした苦境を粘り強く乗り越えて、見事に修士課程を終えた研修員の皆さんのことを、心から誇りに思います」

来日を果たした研修員の心に刻まれた、「Build back better」の精神

世界各国からの支援もあり、トンガのコロナ感染状況は次第に落ち着きを取り戻し、火山噴火・津波被害からの復興も少しずつ進んでいきました。そして、航空商用便の運航も再開。2023年8月末には、オンラインでの研修プログラムを修了した4名のうち3名が念願の来日を果たしました。ヴィクトリーナさんは噴火時を振り返り、「当時は早期警報システムもなく、津波警報が出ると人々はパニックになり、高台へと押し寄せていました。私は生後1か月足らずの赤ちゃんを抱えていましたが、幸運にも母と共に安全な親戚の家に行くことができました。別の島で仕事をしていた父の家は流されましたが、父自身が間一髪で無事だったのが何よりです」と語ってくれました。

こうした災害を体感したからこそ、研修をやり遂げることに大きな意義があったというヴィクトリーナさん。「とりわけ耐震工学は、近隣の国で本格的に学べるところはほとんどないのです。知見に富んだ日本の研修で、耐震基準の作り方などをしっかり学び、トンガ独自の耐震基準とのギャップを認識できた意義は大きかったです。地震学の知識を得たことも、平坦な土地の母国で地震の際の津波に備えることの大切さを再認識させてくれました」

ヴィクトリーナさん

訪日したヴィクトリーナさん。修士号を取得した政策研究大学院大学(GRIPS)にて

今回の来日では、建築研究所を訪問して施設や機材にも触れながら、これまでオンラインでしかやり取りできなかった指導教官と実際に会って討議。研修の成果を確認し、今後の母国の発展に向けた示唆を得られたといいます。「トンガでは噴火の後も、これまでにないほど頻繁に地震が起こっています。そのことについて指導教官と話し合ったところ、教官は今後も連絡を取り合い、建物の耐震評価や津波に対する設計ガイドラインについての私の研究を見ようと言ってくださいました」。対面でのコミュニケーションの実現により、よりよい協力関係を深めることができたのも、来日の大きな成果となりました。

現在は勤務省庁を異動し、世界銀行プロジェクトの太平洋レジリエンスプログラムに従事しているというヴィクトリーナさん。「プロジェクトの一環として、地震や津波などに対する建物の危険性評価を行い、基準となるデータを得ることで、将来のリスクへの対処方法を政府内で検討できるようにしていきたい」と、目を輝かせて語ってくれました。

「単に復旧するのではなく、より災害へ強い状態にしていくことーー。防災における“Build back better”の精神を胸に頑張っていることが、ヴィクトリーナさん始め研修員の皆さんの熱意から伝わってきました」とマゴイさんも感慨深げに語ります。帰国後もきっと、観光客が戻り始めたトンガの真の復興を目指して、大いに活躍してくれるに違いありません。

現在建築中の建物の前に立つヴィクトリーナさん

現在ヴィクトリーナさんは、プロジェクトエンジニア、そしてコントラクトマネジャーとして、トンガ国立の早期警報・災害リスク軽減センター(2階建て鉄筋コンクリート造)の建設に携わる

津波で全村避難となったアタタ島民のために建てられた住宅

津波で全村避難となったアタタ島民の住宅がトンガタプ島北西部に建てられるなど、復興の歩みが進められている

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