埼玉県をJICAがサポート!ジェンダーによる不平等を解消し、すべての人が生きやすい社会へ

#5 ジェンダー平等を実現しよう
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2024.05.13

「女性だから」「男性らしく」——。社会的に規定されたそんな「あるべき姿」「役割」が、不平等や不自由さにつながっている場合があります。それを解消してすべての人が生きやすい社会にするため、埼玉県が県の施策に「ジェンダーの視点」を取り入れることを決定しました。サポート役はJICAです。県の施策はどう変わるのでしょうか?

いろんな色の人の形

そもそもジェンダーとは、そしてジェンダー主流化とは

「ジェンダー平等」というワードは近年よく知られていますが、では「ジェンダー主流化」とは何か、知っていますか?

そもそもジェンダーとは、生まれた時に割り当てられた性別に付加された、社会的・文化的な性差のこと。「男性だから・女性だから」「女性らしく・男性らしく」のような枕詞でそれぞれに対する「あるべき姿」「役割」が、社会や文化で規定され、体現されたものです。

このジェンダーは、それ自体に良い悪いの価値を含むものではないものの、性差別や偏見、性別による固定的役割分担など、不平等や格差、不自由さにつながっている場合があります。こうした不平等や格差を是正していこうというのが「ジェンダー平等」の考え方です。

そして、固定された社会的役割や力関係によって生じる課題やニーズに着目する「ジェンダーの視点」を、さまざまな分野の政策や事業の計画、実施、モニタリング、評価の段階に取り込んでいくアプローチを「ジェンダー主流化」といいます。

SDGアイコン(目標5)

ジェンダー平等の実現は、SDGsの目標の一つであり、かつすべての目標で横断的に実現されるべき課題である

他自治体を牽引。埼玉県は全施策のジェンダー主流化を目指す

埼玉県は、国内で最も早く県の全施策のジェンダー主流化を目指した自治体の一つです。昨年8月の記者会見で、大野元裕知事は、県が実施する全施策にジェンダーの視点を取り入れることを表明しました。ただ、県庁内でもジェンダー主流化についての理解は進んでおらず、また、すべての事業に対して同時並行的に取り組むことが困難だったため、まずは幅広い県政の分野から五つのモデル事業を選定しました。そして県から要請を受け、JICAがアドバイザーを務めることになったのです。

大野元裕埼玉県知事

大野元裕埼玉県知事は、今年4月2日にジェンダー主流化推進についての記者会見を実施。「誰もが暮らしやすい埼玉」を目指し、県全体の男女間格差の解消を図る取り組みを広げることを表明した(写真は埼玉県提供)


「部や課の中には『なぜJICA?』とクエスチョンマークが浮かんでいる人もいました。私個人としては20年ほど前に県から国際交流基金に派遣になった時からJICAの活動を知っていましたので、ご協力いただけてとても良かったという思いです」。そう話すのは、埼玉県危機管理防災部 災害対策課の小沢きよみ課長(取材当時)です。

危機管理防災部の事業である「ジェンダーの視点に立った災害対応」は、選定された五つのモデル事業のうちの一つです。ほかに、「女性の創業支援」「新規農業者の育成・確保」「都市公園施設の整備」「男性職員の育児休業の取得促進」が対象です。

JICAは途上国における開発協力を進める上で、30年にわたってジェンダー主流化を推進してきました。2015年には「ジェンダー主流化のための手引き」を策定し、これに則った取り組みを進めています。この経験・知見に埼玉県が注目したことで、JICAとしても初となる国内の自治体へのジェンダー主流化促進への協力が実現したのです。

「人に優しい防災」を実現するために

ではJICAはどのようなサポートをしたのでしょうか。「ジェンダーの視点に立った災害対応」の事業を中心に見ていきましょう。

JICAは、埼玉県と担当部署ごとに全4回の検討会を実施しました。事業におけるジェンダー課題の洗い出しから、その課題の解決に向けた取り組みと計画案の策定まで、JICAのジェンダー主流化手法に基づいたプロセスで事業点検を進め、検討会ごとにJICAがアドバイスする方式で進められました。

検討会で使用された事業点検シート

検討会で使用された事業点検シート

例えば危機管理防災部では、第1回検討会で、部署内で経験的に把握しているジェンダー課題の発表がありました。課題の要因としてあがった「予算が少なくジェンダーの理解が進んでいない市町村が多い」という声に対してJICAからは「もっと外から見た要因があるのでは」と助言。県の防災会議に女性委員を増やす取り組みや、災害時の「ジェンダーに基づく暴力」の調査の必要性についてもアドバイスしました。

小沢課長は、JICAの助言について次のように話します。

「最初は、防災会議委員に女性の割合を増やすことについて、どれだけの重要性があるのか疑問を持っていました。ただ、助言を受け他自治体の調査を進める中で、女性委員の割合が高い自治体の方がジェンダー意識が高い傾向があり、やはりそこにはリンクがあるのだと認識を新たにしました」

ジェンダーに基づく暴力についても、JICAの助言を受けて過去の災害における被害を洗い出し、避難所の開設から運営までを見直す必要性があることが分かったといいます。

東日本大震災で報告されたジェンダーに基づく暴力

出所:東日本大震災女性支援ネットワーク『東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書』
報告書には「災害時のジェンダーに基づく暴力は、ジェンダー不平等の社会構造に起因し、平時のそれを色濃く反映し、一層強化する形で現れる」とある。災害対策課はこの東日本大震災での被害調査に加え、阪神・淡路大震災や熊本地震についても調査した

小沢課長は、ジェンダー主流化を進めることで「人に優しい防災」を促進したいと話します。

「『防災』は絶対に人に優しくあるべきです。避難所は特にそうです。災害時にシビアな状況に置かれやすい女性が安心して避難できる避難所なのか。家族や子ども、大切な人を生活させられる避難所なのか。そういう視点で避難所を見直す必要があると判断しました」

災害対策課は今後、ジェンダーの視点に立った県標準の避難所の開設・運営マニュアルと映像資料を作成し、それに基づいた市町村版マニュアルの策定を進めることで全市町村への普及を進めていく予定です。

「県が市町村の『見本』として、具体的にどう動くかを示していくつもりです。県の防災会議における女性委員の割合についても、県が各種分野の有識者における女性委員を増やすことで、市町村が取り組みやすい目安を示していきます」

大規模災害を想定した埼玉県の防災訓練で指揮者を務めた小沢課長

大規模災害を想定した埼玉県の防災訓練の様子(2022年)。中央(青いジャケット・白いビブス)が指揮者を務めた小沢課長

各事業ではアンケートやヒアリングも実施し、埋もれているジェンダー別のニーズを把握。そのニーズに応える施策効果の向上を図るための取り組みが、県の今年度予算に反映されています。

日本の「ジェンダーギャップ指数」は世界125位/JICAの知見を国内に還元へ

世界経済フォーラムが発表した2023年度版「ジェンダーギャップ指数」*によると、日本の順位は146か国中125位で、過去最低の結果でした。日本におけるジェンダー平等の実現は、他国に比べても大きく遅れをとっており、今後さらに本腰をいれてジェンダーギャップ解消に取り組む必要に迫られています。そして今、埼玉県のように、その必要性を痛感する地方自治体が率先してジェンダー主流化促進の取り組みを進めるケースが増えています。

JICAとしても、今回の埼玉県への協力を通じて、国際協力で取り組んでいたジェンダー主流化の手法が国内にも十分活用できるという大きな手応えを得ました。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて国内外問わずジェンダー主流化の必要性が高まっている今、JICAが開発協力を通じて蓄積してきた知見を日本国内の取り組みに還元する可能性も広がっています。

昨年9月に開催された第4回検討会での大野元裕知事とJICAの面談の様子

昨年9月に開催された第4回検討会での大野元裕知事とJICAの面談。オンライン参加した大野知事(画面)と、JICAの増田淳子ガバナンス・平和構築部長、田中由美子シニア・ジェンダー・アドバイザー、齋藤有希ジェンダー平等・貧困削減推進室担当(左から)

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