『フィリピン・ミンダナオ平和と開発—信頼がつなぐ和平の道程』

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『フィリピン・ミンダナオ平和と開発—信頼がつなぐ和平の道程』

JICA研究所では、これまで行ってきたJICAの事業を振り返り、その軌跡と成果を分析してまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズを刊行しています。本シリーズの第25弾として、『フィリピン・ミンダナオ平和と開発—信頼がつなぐ和平の道程』を刊行しました。

フィリピンの南方に位置するミンダナオ島は、古くからイスラム教徒が多く暮らす地域。しかしアメリカ統治時代からの移住政策により、多くのキリスト教徒の入植が始まったことから、移住者は新天地を守るため、そしてイスラム教徒は先祖代々の土地と権利を守るため、互いの正義を掲げて闘うようになります。フィリピンからの分離独立やバンサモロ(イスラム教徒の人々という意味)の自治を求める武装勢力とフィリピン政府の闘争は、市井の人々の生活を犠牲にしながら、50年近くも続きました。

しかし、1996年、フィリピン政府と武装勢力の一つ、MNLF(モロ民族解放戦線)は最終和平合意を締結。日本は2002年にミンダナオ支援パッケージを掲げて本格的な参画を開始し、2006年からはフィリピン政府とMILF(モロ・イスラム解放戦線)との和平プロセスを下支えするため、ミンダナオ国際監視団(IMT)、国際コンタクト・グループ(ICG)、日本-バンサモロ復興と開発イニシアチブ(J-BIRD)への参加と実施による多角的なアプローチを展開してきました。

そして2014年、フィリピン政府とMILFはバンサモロ包括和平合意を締結し、2018年7月には、イスラム教徒、キリスト教徒、少数民族など、全ての人々の参加を重視したバンサモロ基本法が制定されました。著者の落合直之氏は「ミンダナオ紛争はキリスト教徒とイスラム教徒の衝突だと思われがちだが、そう単純ではない」と語ります。ミンダナオの民族と宗教分布は複雑で、独自の文化を持つ少数民族も暮らし、地域ごとに氏族の力が強く封建的な社会支配体制も残っているため、全ての人の包摂が平和の定着には欠かせないのです。

ようやく確かな光が見えてきた平和への道筋。「もし自分がミンダナオに生まれていたら、バンサモロとしてどんな人生を送っているだろうか」とつづる著者は、ミンダナオに魅せられ、名も知れない町や村を駆けずり回った“地べた派”だと自称します。その日々を通して感じたJICAだからこその役割は、対立しているもの同士をつなぐかすがいになること。和平合意が結ばれる以前から日本が現地に入りこみ、どのように平和構築に携わってきたか、数々の人々との出会いを織り交ぜながら描き出しています。

著者
落合 直之
発行年月
2019年9月
出版社
佐伯印刷
言語
日本語
ページ
206ページ
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #平和構築
ISBN
978-4-910089-01-0