信頼と開発協力―他者との関係性を未来に活かす―

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現在、世界は地球規模の課題をはじめ、複合的なリスクに直面しています。それらに対し、世界の国々や人々が連帯して取り組む際に重要となるキーワードは「信頼」です。JICAは、開発協力の一担い手として人間の安全保障や質の高い成長といったミッションに取り組むにあたり、「信頼で世界をつなぐ」というビジョンを掲げています。

開発協力の現場では、関係者間の信頼が重要であるのは当たり前のこととして認識されています。しかし、信頼の定義や意義については、国内外の研究者の間で活発な議論が行われているものの、統一的な見解がなく、開発協力における信頼の役割や開発協力との関係についても、体系的な概念化は行われていませんでした。そこで本報告書では、開発協力の文脈における信頼の概念を整理するとともに、実務上の新たな教訓を引き出すことを試みています。

本報告書の作成にあたり、JICA緒方貞子平和開発研究所は、2021年から学識経験者や開発協力の実務に携わるJICA職員などからなる「信頼と開発協力」研究会を設置し、先行文献レビューや過去の開発協力事業などの実例分析を行ってきました。実務と学術の両面から積み上げた議論の成果をまとめた本報告書は、概念整理編、事例分析編、提言編の3部から構成されています。

第1部では、開発協力における信頼の概念を「他者が、見返りや確実性がなくても、一貫して望ましい行動を取ると考えること」と定義した上で、分析手法を概説し、開発協力の文脈における信頼の概念はどのようなものかについての答えを提示しています。第2部では、フィリピン灌漑借款、インドネシア高速鉄道、ガーナJICA ボランティア事業、ボリビア水資源技術協力、留学生受入れ事業、フィリピン鉄道マスタープランの6つの開発協力の事例分析を通して、開発協力の現場における信頼の役割や性質を明らかにしています。第3部では、ここまでの議論を踏まえ、開発協力の実務者向けの提言を行うとともに、今後の研究課題を整理しています。

筆者
「信頼と開発協力」研究会
発行年月
2023年11月
言語
日本語
ページ
121
開発課題
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