『稲穂の波の向こうにキリマンジャロータンザニアのコメづくり半世紀の軌跡』

  • #プロジェクト・ヒストリー

『稲穂の波の向こうにキリマンジャロータンザニアのコメづくり半世紀の軌跡』

「今もローア・モシ地区では収穫を待つ黄金色の稲穂が風に揺れている。その向こうでキリマンジャロ山が半世紀前と変わらずにたたずんでいる」(本書第8章より)

稲作支援プロジェクトの専門家としてタンザニアに赴いた著者の浅井誠氏が見たその風景は、現地の人々と共にJICAが1970年代からタンザニアで取り組んできた稲作支援の成果でもあります。

1961年の独立後、農業を軸に国家建設を進めるタンザニアは、世界各国に地域開発の支援を要請し、日本が担当したのが、本書の舞台となるキリマンジャロ州でした。1974年にキリマンジャロ総合開発調査が始まり、JICAはかんがい施設整備を含む農業開発事業を提案します。

稲作支援の拠点となった同州のローア・モシ地区では、やがてかんがい稲作が爆発的に広まり、その支援は、1990年代中ごろには全国へ展開されていきました。「くわ4本、鎌1本、ナイフ2本、山刀1本、貯金はほとんどない」というのが、当時の平均的なタンザニアの農家たち。限られた資源しかない彼らでも取り組める稲作を探し求めた日本の関係者の姿や、「稲穂がたわわに一斉に実り、田んぼ一面が黄金色のじゅうたんを広げたように見える風景がゴール」というメッセージを伝え続けた研修に参加した農業普及員や農家の姿が、生き生きと描かれています。

そしてタンザニアのかんがい稲作(水田稲作)は、NERICA(New Rice for Africa)品種普及の拠点であるウガンダ、天水稲作のガーナとともに、日本が主導する国際的な枠組みである「アフリカの稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development: CARD)」立ち上げの基盤となりました。2008年の第4回アフリカ開発会議では、日本は稲作でアフリカの食糧増産に貢献していくことを宣言し、その協力は現在でも続いています。

かつてタンザニアでは、コメは貴重な現金収入源であり、庶民はハレの日にしか口にできませんでした。それが半世紀を経て、今では日常的に人々の食卓に上るようになり、タンザニアはコメの輸入国から東アフリカ随一の輸出国へと変貌を遂げたのです。「開発途上国支援に対する厳しい世論がある中で、3 倍もの収穫を得て笑顔を浮かべる農家の姿は、誰のどのような言葉よりも説得力がある」と語る浅井氏。「Rice is life(コメは人生)」。長年にわたり、タンザニアの変化をつぶさに見てきた著者だからこその想いが込められた一冊です。

著者
浅井 誠
発行年月
2023年12月
出版社
佐伯コミュニケーションズ
言語
日本語
ページ
206ページ
関連地域
  • #アフリカ
開発課題
  • #農業開発・農村開発
ISBN
978-4-910089-29-4