【インタビュー記事】「レジリエントな家族と地域社会のために」ベリーズ研修員Renice Gillett(レニース・ジレット)さん

2023.12.18

カリブ海沿岸に位置するベリーズでは、ハリケーン、暴風雨などの自然災害への対処が大きな課題となっています。
今回は、地域住民による防災活動の推進を目的としてJICA関西で実施された行政官向けの研修「コミュニティ防災」にベリーズから参加しているレニース・ジレットさんに防災分野で働くきっかけや、現在のお仕事、今後の目標についてお話を伺いました。

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レニースさん(JICA関西にて)

1.これまでの経歴、防災に関わるきっかけ

私は大学で経営学の学士を取ったあと、約10年間ベリーズの首都ベルモパンの金融業界で働いていました。当時は何をしたいのか明確ではなかったですが、変化を望み、ベリーズの国のために奉仕したいと考えていました。そして、防災に関わりたいと思い、国家緊急事態管理庁(NEMO)に入職したのが7年前のことです。 働き始めて3か月後、偶然にもベリーズはハリケーンに見舞われました。規模はそれほど大きなものではありませんでしたが、国の体制が脆弱であったために、私たちの部署は半年間被害の大きかったベリーズシティで復旧活動に従事しました。この人道的支援の経験が今の私の原動力となっており、 困っている人々を助けるためには、大きな心を持つ必要があると考えています。

2.現在の仕事、国家緊急事態管理庁 (NEMO)の役割について

(1)防災対策関連の活動に関して国家レベルの自治性が低いという課題に対し、どのように今後国レベルの組織再編を提案・検討するのでしょうか。

NEMOの予算は災害に対する適切な備えや軽減対策を行うには不十分です。予算不足のために実行されない計画もあります。これを補い、現状を変えるために例えば、事業設計・提案に専念する経験豊富な担当者を雇用することから開始するべきと考えます。それにより適切に計画された事業が立ち上がることで、我々の防災活動を持続的に支援するための予算等を確保することにつながると考えています。そのためには、国家レベルで事業計画に関連する部局を設置すべきです。そうすれば、さまざまな制約により防災活動を計画通りに実施できないという現在の問題を解消できるはずです。

(2)災害発生後の対応策を指示する省庁はどこになるのでしょうか。NEMOは省庁レベルと同じ権限を有しますか?災害発生時の意思決定機関とその順序はいかがでしょうか?また、緊急性が高い場合の地方レベルの決定権はどのようになっていますでしょうか?

年間予算の承認を行う内閣全体が意思決定機関となります。 災害が発生した場合、NEMOの議長は首相であり、持続可能な開発・気候変動・災害リスク管理大臣が代理を務め、国家緊急事態調整官と主任気象予報士の助言に基づき、最終的な意思決定を行います。
また、市長、選挙で選ばれた役人、公務員、その他コミュニティ内の災害管理関係者で構成される地区緊急委員会が、地方レベルの意思決定権を持っています。

(3)効果的な防災ツールのコミュニティへの配備について、具体的にはどういった固有の防災ツールを配布しているのでしょうか?

このキットは、訓練を受けたコミュニティのリーダーやメンバーに届けられます。 各コミュニティへ配布される道具には、捜索・救助用チェーンソー、ロープ、救急箱、発電機、非常用光源とバッテリー、背板、医療機器などが含まれています。
訓練を受けたコミュニティのメンバーには、ハードヘルメット、フラッシュライト、安全ゴーグル、ベスト、手袋など、災害時の作業を効果的に行うための基本的な備品が支給されるので、各世帯は、各自の責任において防災用品を準備することになります。

(4)コミュニティ防災にかかる予算、計画不足について、コミュニティ防災予算のベリーズ国家予算全体に対する割合(%)は?また、発災後の復旧対応費用のみでなく、事前防災投資に関する考えはNEMOや政府にありますでしょうか?日本の台風等に対する防災対策についてどのような関心をお持ちでしょうか?

ベリーズの2023年国家予算は14億ベリーズドル(約7億米ドル)、うちNEMO部門は450万ベリーズドル(約225万米ドル)です。 割合は国家予算の約0.3%ですが、今年5月のNEMOトップの交代以後、予算が増額されると共に、緊急対応よりもリスクを軽減・緩和と災害への備えに重点を置くようになりました。設備投資の面では、ほとんどの国際金融機関(世銀など)が災害リスクの検討とレジリエンス(より災害の被害を受けにくい強靭化)対策を要求しており、これは当省にとって非常に喜ばしいことです。
日本は大規模災害への対応において非常に経験が豊富であり、この点に関して私たちが学ぶことは多いです。 これは規律ある文化や良い統治とも関連があるように、私たちはベリーズに適用できることを取り入れようとしています。例えば、 私たちはより強固なコミュニティの構築に注力しています。

(5)防災と観光分野、教育分野等との省庁間の連携事例について

例えば「自然災害等で農業関連の損失・損害が見られた際には農業省が状況報告をする」というように、政府の方針の下、それぞれの分野を担当する省庁が緊急支援機能を担います。

(6)広域機関であるカリブ緊急災害機関(CEDEMA)との関係について
中米のような広域防災政策の策定の動向、それに対するベリーズの姿勢や役割とは何でしょうか?

新たなリーダーシップのもと、仙台防災枠組みやSDGsのようなグローバルなイニシアティブに向けて、地域機関であるCDEMAとの関係が強化されています。 CDEMAは、災害時に参加国を支援する地域対応メカニズム(RRM)の準備を整えており、災害への備えとして、参加国の代表が選択/必要とする主要課題について研修を行います。
現在、CDEMAとの関係は、国別作業計画(災害リスクの軽減に向けて国全体が取るべき開発の方向性を示すもの)の策定を通じてさらに強化されつつあります。

3.日本で学んでいること、継続して学びたいことはどのようなことでしょうか?

コミュニティベースの災害リスク軽減が私たちの直接的な弱点であったため、この点での日本の取り組みが特に印象に残っています。総合的な災害リスク軽減対策も私たちにとって最も印象的な内容です。

今回の研修後、私たちは最もリスクが高く、最も脆弱なコミュニティから始まるベリーズのコミュニティ災害対応チームを設立または再確立することを計画しています。

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研修中に発表するレニースさん

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「防災教育」講師と記念撮影

4.これからの目標や防災に取り組む思いなどをお聞かせください

自立した、レジリエント(強靭)な家族と地域社会の形成が必要です。私が考えるレジリエントな家族というのは、「災害に対する知識が豊富で、必要なものを備え、危機的状況でも(生命維持に必要な)3日間程度は自活できる」ことを意味しています。農村部では人々は互いに助け合い、都市部よりもコミュニティ意識が高いので、貧困等の理由から自助出来ない人を、コミュニティの中で助けることができます。もちろん、レジリエントなコミュニティとなるためには、財政的な必要性もあり、それを強化するためには政府の介入も必要です。まずは、隣人を何らかの形で助けるだけでもコミュニティ全体のレジリエンスは高まると考えています。

また、私は大きな災害が起きても安心できるベリーズを見たいです。 これは、個人と地域社会、そしてもちろん官民セクターのレジリエンス(強靭化)を構築することによってのみ実現可能となります。 私たちが包括的に自分たちの役割を果たすことを呼びかければ、災害による死者はゼロになると考えています。

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インタビュー風景

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ベリーズ担当者とレニースさん

後記

自分の住む場所、国を何とかしたいというその動機付けが現在のレニースさんの仕事観や行動に直結しており、そうした想いを実際に防災機関への入職、日本での研修に参加という形で実現していることに対し、彼女が日本で学び得た知見・経験が必ずまたベリーズ国内での防災対策、防災教育事業に活かされるだろうと確信することができました。
ベリーズの皆さんが、心から安心して過ごせる強靭な社会づくりをしていくお手伝いを、JICAも続けていきたいと感じたひとときでした。

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