イベント情報

パネルディスカッション第2部 森林保全について考える(1)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

<モデレーター>
池上彰氏(ジャーナリスト)
<パネリスト>
松本光朗氏(森林総合研究所 REDD研究開発センター)
佐藤裕隆氏(住友林業 資源環境本部海外資源部)
日比保史氏(コンサベーション・インターナショナル・ジャパン代表)
宍戸健一氏(JICA 地球環境部審議役/次長兼森林・自然環境グループ長)

REDD+(レッドプラス)とは?

池上 では、パネルディスカッションの第2部です。先ほどと同じように、全く打ち合わせはしておらず、何人かのパネリストの方とも今、ここで初めて顔合わせするような状況なんですけれども、だからこそ慣れ合いでない話ができるかなと思ってます。まずは自己紹介とともに、どのような活動をされてらっしゃるのか。会場の皆さま方に分かるような話をしていただければと思います。まずは松本さんからお願いします。



松本 森林総合研究所で「REDD」という制度の推進に取組んでおります。私はIPCC( Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告書などで執筆を行っておりまして、同時にCOPなどの国際交渉で行政の技術的な支援を行っています。

池上 IPCC。つまり「気候変動に関する政府間パネル」といって、さまざまな専門家がこれから温暖化がどう進むかっていうことを発表されてます。そこに参加されてらっしゃるということですね。

松本 そうです。さて、私自身の話よりも、今、世界の森林で何が起こっているのか。講演資料に沿ってご紹介したいと思います。

今、世界の途上国、とくに熱帯林で森林減少が進んでいます。資料に掲載した世界地図の中で赤い色が塗られている国々が、森林減少、森林破壊が起こっている国です。まずはアマゾンを中心としたブラジルです。そして2番目がインドネシアです。3番目が熱帯アフリカ。この三つの地域が非常に多い所です。

オーストラリアも赤色になっていますが、これは皮肉なことに森林減少ではなく、温暖化による乾燥が進んで、火災が起こって森林が減っているという状況です。人為的ではありませんので、今日の話題からは外しましょう。

今、世界の森林はおおむね520万ヘクタール、これは四国と九州の面積を合わせたぐらいの森林が、毎年破壊されています。90年代はもっと多かった。北海道ぐらいの面積の森林が、世界で毎年失われていました。そのために、森林に蓄えられていたCO2が大気中に排出されて、90年代には排出量全体の2割が森林から発生していたという状況があります。今でも森林からの排出量は全体のおよそ1割を占めていて、温暖化の原因の一つになっています。排出原因の1番目は化石燃料の利用。2番目が森林減少なんですね。

これはなぜ起こっているかというと、大規模な農業開発や鉱山開発、そして違法伐採など、直接的な原因は様々ですけれども、主に途上国で森林減少が進んでるということです。

資料の中で実際の写真をご紹介しています。これはインドネシアの西カリマンタンという地域ですけども、非常に豊かなアブラヤシの森林が、オリーブの農園を作るために伐採されてしまっています。またカンボジアのコンポントム州という地域の写真では、熱帯季節林が違法伐採されてキャッサバ畑になっています。いずれも農業開発が原因の森林減少で、カンボジアの事例は違法伐採という問題もはらんでいます。

途上国の熱帯雨林、森林破壊を止めなければ温暖化の防止はままなりません。さらには地域住民の暮らしと自然保護、生物多様性を保全することも大切です。そういう課題を解決するために「REDDプラス」という仕組みが作られようとしています。

つまり、森林減少による二酸化炭素の排出を止めれば、排出削減を実現したCO2の量に応じてインセンティブ、簡単に言えば、お金がもらえるということです。今まで農業開発はお金をもうけるために行っていました。ですから、全てではないですけれども、一部のお金が支払われれば、森林が守れるだろうという、そういう考え方になります。

同時に地域住民にもメリットがあります。というのは、森林保全活動をすれば日々の収入が入ります。そして「森林は大切だよ」という教育も同時になされるということです。こうしたメリットを実現するために、世界はこの仕組みを推進しようと頑張っている。

これまで10年、われわれは国際交渉で頑張ってきましたが、先日のパリ協定ではこのREDDプラスを世界で進めていこうという合意がなされました。そして2020年からの実施を見据え、本格的に準備がなされています。日本でも二国間クレジット制度、「JCM」と呼ばれる枠組みを活用してREDDプラスを実行できるように、さまざまな取組が進んでいるということです。

池上 すいません。「REDDプラス」ということですけど、これは何の略ですか。R、E、D、D、それぞれ一つずつ、何かの頭文字なんでしょうか。

松本 そうです。Rは「Reducing(削減)」で、Eが「Emission(温室効果ガス排出)」、ふたつのDは「deforestation(森林減少)」と「degradation(森林劣化)」ですね。

池上 プラスというのは?

松本 森林保全、持続可能な森林管理、森林炭素蓄積の増強など、REDDによって得られるプラスアルファのメリットを「プラス」という言葉で総称しています。

池上 ということですね。趣旨はよくわかりました。ただ、知らない人が「REDDプラス」と聞いても、あまりに専門的というか、業界用語で、なかなか理解できない印象もありますね。もう少しキャッチーなというか、みんなの共感を得るような名称になりませんかね。

松本 そうですね。みなさんに理解いただけるように広げていきたいと思ってます。

池上 REDDプラスを広げるのではなくて、言い方を変えたほうがいいんじゃないかと思うんですが。そこも含めてご検討いただければと。

松本 わかりました。ご指摘ありがとうございます。

ベトナムにおける住友林業の取組

池上 ありがとうございました。では続いて佐藤さん。自己紹介と、今どのような取組をしてらっしゃるのか、お願いします。

佐藤 はい。住友林業の佐藤と言います。今日はよろしくお願いします。まず、簡単に弊社、住友林業の紹介をさせていただいてから、私どものベトナムでの活動をご紹介したいと思います。

用意した資料の最初のスライドは、住友林業の事業概要を表したものです。創業は1691年ですから、江戸時代、徳川綱吉の頃、愛媛県別子銅山の開坑とともにその銅山備林の経営を担ったのが始まりです。現在では、山林経営に加え、木材の流通、製造、住宅関連事業を国内外で手掛けています。


弊社が手掛けるすべての事業の軸が「木」ということになります。ですので、先ほどREDDプラスの話が出ましたけども、世界の森林が健全な状態にあるということは私たち住友林業のビジネスの持続性にとっても非常に重要だという認識でおります。

弊社でもさまざまな取組を行っていますが、その中で、今日はベトナムの事例を紹介いたします。REDDプラスという言葉がわかりにくいという指摘がございましたけれども、私としては、REDDプラスは「森林と共生する豊かな社会づくり」と定義しております。「豊かな」ではなく「持続的な」でもいいですし、「幸せな」でもいいと思うんですけど、そういう社会づくりのお手伝いをしたいという思いで活動を行っています。

さて、この活動を行っているのは、ベトナムのディエンビエン省という北西部の地域です。ベトナムの中でも貧しく、焼畑が広がって森林が失われているような地域でもあります。

その中でJICA、あるいは日本政府、それからベトナム政府と連携して活動しているのですが、JICAの支援でベトナム側に州政府が定めたREDDプラスの行動計画という、大きな目標、枠組みが作られました。それを受けて様々な活動を現地で行っています。森林保全活動、生計向上活動など、具体的には様々な活動の側面がありますが、それを私たち日本の企業が、技術や資金面でサポートするという構図になっています。企業としては、将来、サポートした分の排出削減効果を分配していただこうということで、取り組んでいるわけです。

この活動を行ってもう3年となりますが、活動を通じて、いろいろ分かってきたことがあります。ひとつは、日本政府、それからJICAや現地政府と連携して実施することの重要性です。もうひとつは、森林を守り保全することがいかに難しいかということです。焼畑農業がどんどん広がるのをどう防ぐか。地域の方々とどう連携するのか。現場ではその難しさを実感します。

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