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パネルディスカッション第2部 森林保全について考える(5)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

現地との協力関係を築くために

池上 さて、佐藤さんは海外資源のご担当ということですから、海外で森の木を切って、それを買うということもあるでしょう。その中でも「環境は守らなければいけない」「森は守らなければいけない」という現地の方の意識改革を進めるのは大変なことではないかと思うのですが、どのようにやっていらっしゃいますか。

佐藤 そもそも森林を経営するときには、周辺の地域に住んでいらっしゃる方々の協力がないと、なかなかマネジメントすることはできません。とくに途上国であるほど周辺コミュニティの協力は不可欠です。

例えば、インドネシアには伝統的に焼畑農業の文化があります。場合によっては、私たちが植林している森のすぐ近く、あるいは植林の森に入り込んできて焼畑をしてしまうこともあります。こうした事態に対処するためには、現地の村へ直接足を運んで、その村の影響力のある方と話し合い、協力を得ていくしかありません。地道な活動を、繰り返し、繰り返しやっているのが現実ですね。

池上 粘り強く、意識改革へ誘導していく努力が大事ということですね。

佐藤 そうですね。ただし、森林が減少するから守らなければいけないということを、地域の決して裕福ではない方々にただ押しつけるのは間違っているとも思っています。その様な方は森林に依存した生活を行っています。守るべき森林は守る、でも、使うべき森からは経済的な利益を生み出しながら上手に使っていくことが大切です。

私自身、森林を守るために大切なことが3つあると肝に銘じています。ひとつは「人」ですね。森を守る、管理する人材を育てることが必要です。もうひとつは「お金」です。熱帯林を伐採する人の目的はやはりお金ですし、森林保全を持続していくためにもお金はどうしても必要です。もうひとつは「ノウハウ」です。森を守り続けていくための、さまざまな方法や技術ですね。

さらにもうひとつ挙げるとしたら、森に対する愛情や環境保全への理解ということになりますが、それは少し次元が違う話です。ともあれ、人、お金、ノウハウがないと森林を守ることはできません。そして、その中でもとくにお金を生み出す力、森林を守りながらどうやってお金を得ていくかとところに、民間企業の役割があるのではないかと考えています。

池上 まさにそこが経済合理性ですね。簡単なことではないでしょうが、森を守ることで利益が生まれる仕組みを作り出すことによって、そこに住む人も生活が豊かになり、豊かな森が守られていくということですね。

佐藤 そうですね。

途上国の森林保全に対して日本が果たすべき役割とは

池上 では、最後に「日本の役割」について伺っていきたいと思います。まず、宍戸さん、今まで話してきたような良い循環を作るために、日本がやるべき役割って何でしょうね。

宍戸 つい先日、インドネシア政府の方から「もう絶対に森林火災を起こさないぞ」という非常に厳しいキャンペーンをやっているという話を聞きました。COP21で高い目標が設定されて、各国政府の姿勢も変わり始めています。

また、こうした政治的なリーダーからのメッセージが重要であるとともに、この森林を誰が管理するのかといった末端の力も大切です。途上国では、こうした現場の体制を維持することが難しく、まだかなりひどい状態であるのも現実です。したがって、国際的な資金などを活用しながら、日本としてもこうした日の当たらない地域での森林保全活動を支援していく必要があると感じています。

また、池上さんもアマゾンの取材で実感されたかと思いますが、個人的にも非常に残念に思うのは、途上国における森林破壊というものが、ほんの少数の人間が非効率な森の利用をしたり、違法伐採などの犯罪行為によって引き起こされているということです。そうした違法行為への取り締まりに必要なコストやノウハウを支援することも大切でしょう。あるいは、防火対策や消防技術の支援といった、比較的安い投資で防ぐことができるはずの山火事が、日本の年間排出量に達するほどの事態に拡大してしまう。こうしたことを防ぐための貢献をしていくことは、日本の利益にもなるということだと思います。

池上 わかりました。では、次に日比さん。世界の森林を守るために何ができるのか。国際機関なり、政府、あるいは民間企業の役割という話がありました。今日、この会場にはたくさんの方に集まっていただいて、それぞれの方が抱いている問題意識も様々だと思うんですが、日本で暮らす一般の人たちは、はたして森林保全のために何ができるんでしょう。

日比 なかなか難しい質問ですね。

池上 すいません、打ち合わせがないもので(笑)。

日比 まず考えておきたいのは、途上国で森の木を切っている人たちも、別に切りたくて切っているのではなくて、生活のために他の手段がなくて切っているという側面があることです。もちろん、違法伐採は厳しく取り締まるべきですし、気候変動や生物多様性保全の観点からも森を守ることは重要です。でも、だからといって途上国で生活している人に、今までの生計手段は捨てて森林を保全してくださいというのは無理があります。

先ほど、インドネシアでは伝統的に焼畑農業をやっているという話がありました。ということを置き換えると、たとえば池上さんはジャーナリストでいらっしゃいますが、誰かに「明日からジャーナリストは辞めてください」といきなりお願いされても、困りますよね。

池上 そろそろ引退してもいいんですが。でも、いきなり言われるのはね。

日比 つまり、途上国の森林保全には、我々国際社会が森に住む人たちにそういうお願いをすることでもあるんですね。では、そこまでの思いをもって、彼らが伝統的に続けてきた生き方や暮らし方を変えてまで、国際社会、あるいは地球環境のために森林を守っていくには、どうすればいいんだろうかということです。

このディスカッションの中で、アサイーや天然コーヒーの話題が出ましたが、たとえば大豆も日本では輸入に頼っていて、熱帯林を伐採して開拓された畑で作られていたりもします。熱帯林と日本の暮らしは、意外なほどに繋がっているんですよね。じゃあ、自分が日々消費している食品などが、森林保全にどんな影響を及ぼしているんだろうかということに、日本で普通に暮らしている人たちがもう少し積極的な関心をもち、意識を高めていくことが重要なのだろうと思います。

先ほど、松本さんが江戸時代の日本の森の話をされました。私は神戸の出身で、明治維新前後の六甲山系の写真を見たことがあるんですけど、それはそれは見事に禿げ山になっていたんですよね。現在の六甲山の姿をご存じの方は多いと思いますが、緑の森が広がっています。つまり、江戸時代の人たちは、木が少なくなっていく山の姿を見上げて、自分たちの生活が山の森に支えられていることを実感できたということなんだと思います。

今の日本人の生活は、たくさんの輸入品によって成り立っています。自分たちの生活を支えてくれているものが、自然にどんな影響を与えているか、海外からの輸入品では見えにくいんです。だからこそ、少し想像力を働かせたり、意識して知識を増やすことで、自分たちの暮らしの影響が地球の裏側にまで及んでいることを知らなければいけないのではないかと思います。

池上 ありがとうございました。もうすっかり時間がなくなってしまいました。では、最後に松本さん、日本がこれから果たすべき役割、私たちは何を考えなければいけないのかということを、最後のまとめとしてお願いします。

松本 日本が果たすべき役割ですね。まず、日本は高度な技術をもっていると言われています。それは森林の分野でも例外ではありません。REDDプラスの取組を進めるには、排出削減の効果などを正確に測定しなければいけません。そのために、日本の人工衛星であるとか、森林に蓄積されている炭素の量を測定する科学技術を提供し、貢献していくということがあると思います。

森林保全には世界的な仕組みづくりが重要です。一部の限定的な地域だけで進めていてもあまり効果は期待できなくて、全世界を巻き込む仕組みに作り上げていくことが大切で、そうした点でも日本が貢献すべき「役割」があると思っています。

植林などの取組はもちろん大切です。でも、同時に、今ある森林を守る、森に蓄積された炭素を排出させないことの重要性を、より多くの方に理解していただきたいと思っています。今、環境省が「クールチョイス=賢い選択」というキャンペーンをやっていますよね。先ほどの日比さんがおっしゃったように、熱帯林の破壊に繋がる商品は選ばないということも、賢い選択のひとつです。そして、もっと多くの日本国民が参加できる選択肢を増やし、情報発信をしていくことが、REDDプラスの推進に関わるわれわれの役割だとも思っています。

池上 ありがとうございました。さて、今日のパネルディスカッション、第1部では温室効果ガスの排出をどう抑えるかという話題、そして第2部ではどのように森を活かしていくかという話をしてきました。とりわけ、上から目線で、先進国が途上国に対して「もっと森を大事にしろよ」と言うだけでは、結局世界は動かないということですよね。途上国の文化も大切にしながら、できることをやっていく。そして、日本で暮らす私たちにもできることがいろいろあるんだというものだったと思います。パネリストのみなさん、そして会場にお越しのみなさん、今日はありがとうございました。

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