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パネルディスカッション第2部 森林保全について考える(4)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

池上 なるほど、違法伐採っていうのは、需要と供給で言えば供給にあたるということですね。

日比 そうですね。そして、森林減少の需要があるのは、日本含めて、われわれのような木材を輸入してる国々です。つまり、日本などの需要がある国で、違法な木材を輸入しないといった実効性のある法整備が必要なのだと思います。

また、違法伐採して焼畑で農地を広げ、たとえば日本で高く売れるアサイーを作るといったケースもあるでしょう。そうすると、日本でのアサイーへの需要が、巡り巡ってアマゾンの森林減少に影響している可能性もあるということです。じゃあ、どんな商品を買えばいいのか。企業はそうした情報を開示するべきですし、消費者もそこまで考えていく必要があるのではないかと思います。森林減少は現地の供給側だけの問題ではなく、日本をはじめとする需要側の問題でもあり、企業や消費者はそれぞれに、より持続可能なビジネスや経済のあり方を考えるべきということですね。

池上 わかりました。今、アサイーの話が出ましたが、念のため申し上げますと、日本で人気が高まっているアサイーの商品が、みんな森林減少に手を貸しているわけではないということです。当たり前なんですけど。たとえばブラジルで、アグロフォレストリー(森林保全と農作物栽培を両立させる方法)を採り入れて、森林保全に貢献しながらアサイーを育てて商品を作っている会社もありますからね。

日比 そうですね。池上さんが例に挙げたアグロフォレストリーは、ひとつの有効な道になってくると思います。単に安い原料を仕入れようとするだけでなく、森林保全と一体化しながら付加価値の高い農業をやっていくのは、とても大切なことだと思います。また、先ほども申し上げましたように、森林には水源を涵養する力がありますし、地域の気候を安定させるような力もあります。経済効率だけを追うのではなく、森林の力を生かしながら、持続可能な農業を進めていくことが、今後はますます重要になってくると思います。

池上 日比さん、ありがとうございます。では、宍戸さんに伺います。途上国に対してそのような誘導といいますか、方向性を指し示す上で、日本の援助の役割というのは、どんなことなんでしょうね。

森林保全が生み出す付加価値と日本の支援

宍戸 はい。JICAではもう40年くらい、途上国の森林を守る協力をしてきています。いろいろと形を変えながらやってきたわけですが、日本のように管理が行き届いた森と同じように考えていると、どうしてもうまくいかないところもありました。また、どんどん人口が増えて、経済成長をしていかなければいけない途上国では、なかなか森を守ることが難しい。

そんな中から、地域住民、コミュニティの方々に森林の大切さを理解していただいて、さきほどから話が出ているように、REDDプラスを通じて、森を守ることによって住民の生活がよりよくなっていくモデルを作ることに取り組んでいるわけです。とはいえ「言うは易し」なんですが、実際に経済合理性を備えた森林保全のビジネスモデルを作るのは簡単なことではありません。

具体的な例を挙げますと、たとえば、エチオピアには森の中で天然のコーヒーが採れるところがあります。貴重であり、おいしいコーヒーなので、天然の森林で採れたコーヒーであるという認証を受けると、日本でも普通のコーヒーの1.5倍とか2倍の値段で売ることができます。その代わり、毎年審査を受ける必要があって、天然林を伐採していないことが証明されないと認証が取り消されてしまいます。そうすると、住民にとっては森があるからこそコーヒーが高く売れるというメリットが生まれます。森林にとっても、住民にとっても、コーヒーを買う先進国の消費者にとっても、すべてが Win-Win の関係が成立するわけです。

ほかにも、森のハチミツを付加価値の高い商品にしたり、エコツーリズムのコースを開発したり、各地でさまざまな取組を工夫しています。とはいえ、例えば先ほど話題になったアサイーのアグロフォレストリーもそうですが、どこの森でも同じようなビジネスが成立するわけではありません。ロケーションによっては競争原理で負けてしまうケースがあるわけです。だからこそREDDプラスは、特産品やロケーションにはあまり関係なく、森林を保全して排出削減を実現しすれば、その分のベネフィットが得られる仕組みになっています。

日比さんからもご指摘があったように、森林の機能は炭素のストックだけではありません。我々JICAとしては、途上国の森林保全とREDDプラスによって得られる便益を活用して、それが成り立たない地域の森林保全や支援にも役立てていきたいと思っています。もちろん、行政や民間企業、国際機関などがカバーしきれない部分を、少し後ろからお支えするということですが。

池上 認証されたコーヒーが高く売れるということは、日本の消費者がそういうものにお金を出してくれるということですね。消費者の意識を高めることが、それもREDDプラスになるんだよということですね。

松本 今、インドネシアで実施されているREDDプラスのプロジェクトでは、チョコレートの原料であるカカオ栽培を現地の農民に指導しています。今まで安い作物を育てていた農地で、高く売ることができるカカオを栽培して収入を得ることができれば、焼畑で森林を破壊して農地を広げる必要がなくなって、森林保全に結びつくのです。

池上 なるほど、まさに経済合理性にかなった方法ですね。そういえば、先ほどの日比さんのプレゼンテーションに、エコツーリズムで楽しそうに吊り橋を渡っている写真がありましたね。

日比 はい、楽しかったです。

池上 そうしたエコツーリズムも、REDDプラスになっていくということですか。

日比 そうですね。いわゆる気候変動枠組条約の範疇で求められるREDDプラスかどうかは、厳密にいうといろいろ難しいところもありますが。広い意味で、森林保全によって気候変動を緩和して、地域住民の生計向上をはかるための、有効な手段であることは間違いありません。

例えば、中米のコスタリカという国は、今ではエコツーリズムでとても有名になっています。もともと、1960年代くらいまでは国土の5割以上が森林という国だったんです。ところが、その後農地の乱開発が進んでしまい、80年代には森林の率が2割くらいにまで減ってしまったことがあるんです。急激に森林が減少したことが原因で、地下水が汚れたり、土壌の流失などが問題になりました。

そこで、森が育んだ水を使っている都市部の住民に一定の負担をしてもらって、その資金を使って森林の再生と保全に取り組むようになったんです。つまり、森を開拓して農業をしていた人たちのために森を管理する仕事を作ったり、植林して森を再生するために、都市部から集まった資金を活用したのです。そのおかげで、今では森林率は5割ほどに再生し、生物多様性を守ることによって、エコツーリズムという新しい産業を生み出すことに成功しました。

単純に比較することはできないですが、森林を破壊して農地を広げていた頃と比べて、一人当たりのGDPが3倍くらいになっていると聞きました。コスタリカは小さな国であり、条件に恵まれたところもあるでしょうが、エコツーリズムの可能性を知ることができるエピソードだと思います。

活用すべき森と守るべき森

池上 わかりました。では、次に佐藤さんに伺いたいのですが、住友林業で使う木材は、いわゆる国産材と外国材の比率はどのくらいなんでしょう。

佐藤 住宅事業と木材流通事業と捉え方が違うのですが、住友林業が日本で建築する住宅はなるべく国産材を使う方針で、2015年度までに60%に向上する目標を掲げています。(http://sfc.jp/information/society/social/business_partner/action.html

池上 そうなんですね。でも、国産材って高いんでしょう?

松本 今、日本の木材は世界でもかなり安いんですよ。

池上 そうなんですか。それは私の認識がすっかり間違っていたな。かつては国産材が高価で、安い外国産の材木が入ってくるから日本の林業が衰退したと教わったものですが。

松本 それは1990年代までですね。今の国産材はとても安い状態になっています。たとえば木造住宅を一軒建てるとき、全体で2000万円かかるとします。そのうち、材木の値段はおおむね200万円程度です。システムキッチンの方がはるかに高いでしょう。最近は集成材にしたり新たな建築技法に国産材を活用するなど付加価値を高めることで、需要や値段が回復しつつところではありますが。

池上 わかりました。私も認識を改めようと思います。ただ、日本の林業が人手不足で森林が荒れていると言われている、これもまた古い認識なんでしょうか。

松本 日本の森が荒れているのは事実です。ただ、違法伐採などで減少している途上国の熱帯林とは違って、日本ではむしろ森林を活用しないことが原因で荒れているという面があります。本来なら間伐したり、十分に成長した木を切って利用して、新たに植林するサイクルを回していかなければいけないのに、木材が安いために所有者がなかなか切ろうとしないというようなこともあって、健全さを失っているということですね。

池上 なるほど。では、どうすればいいんでしょうか。日本の林業施策の話になってきちゃいましたけど。

松本 実を言うと、日本の今の森林の資源量は、江戸時代よりもはるかに豊かになっている。人口林と天然林の比率は随分変わりましたけれどもね。現在の日本では、木材の需要量と同じぐらい森林の成長量があるんですね。ですから、本当はもっと森林を利用しなければいけない。そのためには需要を高めなきゃいけないということで、私が所属する研究所でもやってますけれども、木材で十数階建てのビルを作るといった木材需要を喚起するようなことにも取り組んでいます。木をうまく活用することができれば、間伐も適正に行われて森の健全な循環が守られる状態にすることができると思っています。

池上 なるほどね。つまり、森林は大切だから切らないで大事にしようとしすぎるのはよくないということでもありますね。適切に使うことによって、木材の需要を増やし、森林の健全なサイクルが守られる、ということですね。

松本 守るべき所は守らなければいけません。でも、人間が植林した森の利用しやすい所はちゃんと利用しましょうということですね。日本の木材需要は国産材でまかなえます。同時に途上国の熱帯林は守っていかなければいけません。国内と海外、それぞれに合った施策が必要なんだと思います。

池上 わかりました。では佐藤さん。木材の需要を高めるべきというのは、住友林業さんにとってはプラスの話になると思うんですが。

佐藤 そうですね。私どもの会社としても、いろいろ取り組んでおります。

池上 たとえば、どんなことに取り組まれていますか。

佐藤 今、松本先生がおっしゃった、今までは鉄骨や鉄筋コンクリートで建てていた公共建築物等の中大規模の建築物を、木造で提案して建築しており、これをMOCCA(木化事業)と呼んでいます。(http://sfc.jp/mocca/origin.html

池上 松本さんが先ほど集成材の話もされました。最近では、木造でも非常に堅牢な建物がつくれるようになっていますよね。それも、ある種の技術開発ということになるんでしょうね。

佐藤 そうですね。小さな木を組み合わせて強い大きな柱を作るCross Laminated Timber(クロス・ラミネイティド・ティンバー)といった技術開発も注目されておりますので、技術開発により木材の用途が拡大していけば、木材の需要は増えていくでしょう。あとは、先ほども少し言いましたけど、バイオマス発電のようなエネルギー利用も増えています。今までは山の中で捨てられていた、経済的な価値があまりなかった木材が燃料として売れるようになれば、日本の林業が潤っていくことにも繋がるでしょう。そうすれば、間伐や伐採が適切に行われるようになり、日本の山や森はよく管理され健全になるという、プラスの循環が生まれてくるのではないかと思っています。

松本 少し補足いたしますと、IPCC報告でも強調されているように、鉄を建材にするためには多くのエネルギーを使いますが、今まで鉄を使っていたところで木材を使うようにすれば、余分に使っていたエネルギーをセーブできるというメリットもあります。化石燃料をバイオマス燃料に代替するだけでなく、建材を金属から木に代替することでも、気候変動対策になるということです。

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