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パネルディスカッション第2部 森林保全について考える(2)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

また、REDDプラスにおいて、私たちが取り組んだ活動の排出削減効果をどう評価するのか、そして評価した部分をどのように企業に分配するのか、これらのルールが、なかなか制度上決まらないという側面があります。したがって、企業としてはこの事業をビジネスとして拡大していく段階ではないと理解しています。ですから、私たちとしては、温室効果ガス排出権が生み出すベネフィットに頼らなくとも、森林保全につながる何らかのビジネスを通じてREDDプラスが実施できるようなアプローチを、いろんな国々で模索しているところです。

その一つが、ベトナムで進めていこうとしているアプローチです。現地ではコーヒーを栽培しておりまして、すでにある農地で付加価値の高いコーヒーをしっかり育てることによって、焼畑が止められて森林の回復がなされていくという目論見です。これをベトナムの現地パートナーと一緒にディエンビエン省で進めて、最終的にはここでできたコーヒーを日本に持ってきて、私たちのビジネスの場で使っていくということを目指して、取組んでいるところです。

池上 ありがとうございます。ところで、ベトナムの取組には住友林業さんだけでなく、アスクルやヤンマーという日本企業も参加していますね。住友林業が森林を保全するのはよく分かるんですけど、アスクルやヤンマーには、どういうメリットがあるんですか。

佐藤 各社いろんな考え方があると思いますが、アスクルさんはオフィス用の紙など森林に由来する様々な商品を販売されている中で、森林に対してどうアプローチして社会的な責任を果たすかという企業としての考えがあってのことだと思います。もう1社のヤンマーさんは、ご存じのとおり農業機械の会社ですので、ベトナムの北西部というリモートエリアでの農業分野で何か貢献できないかということで関心を持たれて、参加していただいております。

池上 なるほど、理解できました。ありがとうございます。では続いて、日比さん、お願いします。

森が秘めている力とは

日比 私は「コンサベーション・インターナショナル」と言うNGOで、主に途上国での自然保護、森林であったり、サンゴ礁、生態系であったり、あるいは生物多様性を守ったりということをしております。自然保護を通して、地元の人たちの生活、生計の向上に貢献し、最終的には国際社会人類全体の持続可能な開発につなげていこうことに取組んでいる事業です。

今日のパネルディスカッションのテーマは「森林」ということなんですけども、最初に我々の方で作った映像、短い映像なんですけれども、「Nature Is Speaking」というシリーズで、もし熱帯雨林の森が人間の言葉を話したら何を言うのだろうかという映像を作っておりまして。それを最初にご紹介したいと思います。

日比 ハリウッド俳優のケヴィン・スペイシーさんにナレーションをいただいた、ちょっと皮肉の利いた作品ですが。今、森が語る言葉にあったように、森林は空気を作っています。要は植物としての光合成のプロセスで、CO2を吸収し、炭素、Cを固定して、02、酸素を出すという、そういう恵みを、森林は我々にもたらしてくれています。また他にも森林は様々な恵みをもたらします。水もその一つですね。雲を作り、雨を降らせる。地中に浸透させて、水源を涵養する。川を流す。そのおかげで我々は飲み水であったり農業用水を得られる。さらにはその水のおかげで食べ物を作って、それを食べることができる。

あるいは川と湖で、あるいは森からの栄養が海まで運ばれるからこそ豊かな海での漁業ができるという面もあります。また、森林の近くに住む人たちはエネルギー源として森の木を利用していることがありますし、実際に森に入って、けがをした、あるいはおなかが痛いっていうときに使う薬草を採取することもします。健全な森であれば、土壌を押さえて、治山、治水、あるいは洪水対策というような価値もありますし、生活に根ざした文化的な価値というのも非常に大きいですよね。

私自身、何年か前にガーナに行ったときの写真をご紹介します。森の魅力を、エコツーリズムというカタチで味わえるという実例ですね。森はさまざまな価値を生み出しますが、エコツーリズムで先進国からの観光客を呼ぶことができれば、現地に住む人たちにも大きなベネフィットをもたらします。森を守るためには、森とともに暮らすコミュニティの人たちが幸せになるカタチを作っていかないと成り立たないのではないか。そういうふうに考えております。

池上 ありがとうございました。興味深い映像でした。「人間は自然を必要としているが、自然は人間を必要としていない」という締めくくりのテロップの言葉が衝撃的ですね。厳粛な気持ちで受け止めざるを得ないと思います。人間に対して「So smart」と繰り返すのも、すごい皮肉ですね。人間は賢いって言うけれども、本当に賢いのかなという、反語的なことだったろうと思います。では、次に宍戸さん、お願いします。

REDD+におけるJICAの役割



宍戸 JICAの宍戸でございます。私からはJICAの取り組みについて、講演資料をお示ししながら簡単にお話ししたいと思います。

さて、今日のパネルディスカッション第1部で、2度目標ないし1.5度の目標を達成するというCOP21での長期目標についての話題がありました。このためには省エネですとか技術革新によって排出量を抑えることが重要ということではあるんですけれども、森林の果たしている役割とはいかなるものかということで、いくつか数字を並べてみました。

池上さんの基調講演でアマゾン取材のご紹介をいただきましたけども、2000年頃というのは、アマゾンでも年間2万平方キロ、大体、四国ぐらいの面積の森林が失われてきました。非常に粗い計算ではありますけど、年間、一番のピーク時は6億トンぐらいのCO2がアマゾンの森から大気中に放出されたということです。これは、日本の排出量の約半分に相当するんですね。

実は私、先週までインドネシアに出張しておりました。昨年、ご記憶の方も多いだろうと思うんですけれども、インドネシアでエルニーニョが原因で大規模な森林火災が発生しました。森林とともに、ピートと呼ばれる泥炭地帯も燃えまして、ある研究機関によると、日本が1年間で排出するのとほぼ同じ量、十数億トンのCO2が放出されたといわれています。温暖化防止のためには、もちろん省エネなどの積み重ねは重要ですが、森が燃えたり、大規模に伐採されるのを放置していては、環境面で深刻な問題となるわけです。

われわれは実は20年ぐらい前からインドネシアの森林火災問題に取り組んできています。ヘイズ(煙害)という言葉が広く使われ始めたのが1998年頃だったと思うんですけども、このときにもインドネシアで非常に大きな森林火災が発生しました。そのときにはガルーダの飛行機が墜落して、われわれの関係者が亡くなる事故まであったんですが、それ以来、JICAではインドネシアの森林火災問題にかなり真剣に取り組んできたわけです。

当時、一番ひどかったのは儲かるパームオイルの木を植えるために、大規模な森林伐採などが行われたことです。森林火災対策としては現地の消防隊の支援などを行ってきましたが、行政の予算は乏しく、コミュニティの理解を得ることも困難で持続性がなく、なかなか苦労してきたわけですね。最近になって、いくら排出削減目標を立てても森林火災が頻繁に起きるようでは元も子もないということで、現地政府もかなり真剣に取り組んでいただけるようになってきておりまして、JICAとしても引き続き支援していく予定です。

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