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パネルディスカッション第2部 森林保全について考える(3)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

また、アフリカのコンゴ盆地でも、REDDプラスに関わる支援をしています。ここではアメリカのNGOが中心となってREDDプラスの取組が進んでいて、われわれもその取組の中で、森林のマップを作成したり、森林にストックされているカーボンの量を計測するような支援を行っています。

手短にまとめますと、JICAが行っている気候変動対策は、CO2削減のための森林保護という側面と、気候変動によって途上国で起きてしまう問題への対処というふたつに分けることができます。我々はその両面から取組をしているわけです。

REDDプラスは森林保護のための取組ですが、途上国でこれを導入するためには技術的なハードルがあるんですね。たとえば、保護しようとする森林にどのくらいの炭素があるのか正確に計測する必要があります。炭素の量を計測できないと国際社会からの資金を得ることもできません。そこで、JICAが技術的な支援を行って、JAXAとの協力で人工衛星を使ったりもしながら、現在、15か国以上で支援を続けているということになります。

池上 宍戸さん、ありがとうございます。

さて第1部ではパリ協定で何が目標になってるかという話をしました。そして日本が何ができるのかという話をしたわけですけれども、そこでは二酸化炭素などの温室効果ガスを、どうやって排出削減するのかという話が中心でした。この第2部では森林の役割がテーマです。つまり、化石燃料を燃やして出てきた温室効果ガスをどのように吸収していくのか。そのための技術的な支援。あるいは日本ができること。それは何だろうかということですね。

そこで森林の役割が重要だということになるわけですが、じゃあ、具体的に、どのような形で森林を守っていこうとしているのか。そのあたりの説明をお願いいたします。

森林破壊を止めるために必要なこと

松本 はい、わかりました。まず、森林の樹木が二酸化炭素を吸収することは、みなさんご存じのとおりです。同時に、とても大切なのが「吸収したCO2を溜めておく」という役割です。森林が増えるということは、それだけ大気中のCO2が森林に固定されているということでもあります。ところが、森林が破壊されたり燃えてしまうと、その分のCO2が大気中に放出されてしまいますよね。意外と見過ごされがちなのですが、CO2を「吸収して」「蓄える」という森林の機能をまずは評価していただきたいと思います。

先ほども少しお話ししましたが、現状では全世界のCO2排出のおよそ1割程度が森林から起こっています。本来ならば吸収する場所である森林が排出源になってしまっている。歴史的にみると、産業革命以降、人類の全排出量の約3割は森林破壊が要因とさえ言われています。こうした事実をまずは知っていただくことで、温室効果ガス排出削減にとって途上国の森林保全がいかに大切か、ご理解いただけるのではないでしょうか。

第1部の話題にもありましたが、今回のパリ協定で、今世紀後半には排出と吸収を均衡されて実質的な排出量をゼロにするという文言が盛り込まれたことは注目に値します。同様のことはIPCCの報告書にも書かれています。そして、そのためにCCS(Carbon dioxide Capture and Storage=二酸化炭素の回収と貯留)が必要であること。さらには、大規模植林と、森林を燃やしてエネルギー利用した後にCSSで温室効果ガスを地中に埋めるような技術が必要であるということが、IPCCの報告書には書かれています。ちなみに、この考え方は「Biomass-Energy with CCS」を略して「BECCS」と呼ばれています。

今回のパリ協定には、CCSやBECCSのことまでは踏み込まれていませんでしたが、森林の役割が非常に大きいということと、そのためにREDDプラスの取組は促進しなければならないということは明記されました。この事実は、森林の研究者としてとても心強く感じています。

CCSやBECCSの技術はまだ確立されていません。まずは熱帯林の減少を食い止めて、森林が排出源になってしまっている現状から本来の吸収場所に戻していくことが、気候変動対策への第一歩なのだと考えています。

池上 戻すためには、どうしたらいいんでしょうか。

松本 まず、このREDDプラスという仕組みが考えられた背景をご紹介します。これまでにも熱帯林破壊の問題は繰り返し議論されてきました。森林がある当事者の各国政府は「違法伐採をやめろ」とは言ってきましたが、一向に止まりませんでした。それはなぜかと言うと「やめろ」と言っている国自体が、国策として農業開発を進めてきたからです。森を伐採して農地を広げるわけですね。

もちろん、農業開発は外貨の取得や国民の生計向上といった目的を持って進めているわけです。いくら言葉としては森林破壊をやめろといっても、森を守っているだけでは国民の生計向上は望めませんでした。そこで、森林を保全することで経済的なベネフィットを得られる仕組みとして、REDDプラスという枠組みができあがってきたわけです。今まで森林を違法伐採していた人たちを、むしろ守る側に引き入れる。REDDプラスはそういう仕組みを現地に根付かせる取組であるということです。

池上 なるほど。つまり、森林伐採で利益を得ている人に対して、そうじゃない、森林を守ることが利益になるんだよという仕組みを作っていくということですね。

松本 そのとおりです。

池上 そのためのお金は、どこから出るんですか。

松本 今、大きく分けて二つあります。ひとつは、パリ協定でも話題になりました Green Climate Fund(GCF)という、気候変動枠組条約の中で各国が拠出した資金がありますので、それを原資として進める方法。もう一つは、様々な取組を民間主導のボランタリーで進めて、排出削減された量をクレジット化していく「Joint Crediting Mechanism (JCM)」を活用するやり方です。日本では今、このJCMによるREDDプラスプロジェクトがいくつも進められています。

池上 クレジット化というのは、排出削減した部分が売れるようになるという。いわゆる排出削減の取引ということですか。

松本 そうです。

池上 わかりました。ありがとうございます。

民間企業にできる取組とは

では、佐藤さんに伺います。今までのお話しの中で、国ができること、国際社会ができること、そして企業にできることという話があったわけですが、住友林業さんは、まさに企業でできることに取り組んでらっしゃるわけですよね。

佐藤 そうですね。民間企業ができることは何かということですが、まず、住友林業という木に関わる会社としましては、やはり森林や木材の持続性を高めるということがあります。木材というのは一度切ってもまた植えれば育ちますから、ある意味、再生可能で持続的なものです。だからこそ、それをきちんと再生しながら賢く使って、最後はエネルギーとして、バイオマス発電などとしても活用する。この木材のカスケード利用(エネルギー資源の質に応じて段階的に活用していくこと)のようなことを賢く行うことは、大切だと考えています。

また、林業と関係ない業界の方も、森林の問題と深くかかわっているケースがあります。たとえば、あるアジアでの私の実体験なのですが、大きな森林のそばでボーキサイトを採掘されてる企業がありまして、大規模で立派な企業なのですが、その会社が地域の方の生活の利便性を向上させるために、森林の真ん中に大きな道路を作ったんですね。ところが、その道路を通したことが原因となって、その森林が失われる危機に直面しています。

その企業としては地元の方の生活のためによかれと思ってやっていることなのでしょう。でも、もう少し「森林保全」という考え方をもっていれば、その森を守ることができたかも知れません。気候変動という地球規模の課題が目の前にある中で、森林保全はどんな企業にとっても人ごとではないのだと思います。

池上 なるほど。とりあえず森林と関係ないようにみえる会社でも、森林保全に貢献できるということですね。ところで、住友林業さんの場合は森林保全の取組は採算が合うからやっているんですか。それとも社会貢献活動としてやってるんですか。

佐藤 両面がありますね。とはいえ、やはり企業としてはしっかり利益を上げなければいけないので、社会貢献だけでやるのは限界があると思っています。収益を確保しながら森林保全にも貢献していくのが理想ですね。

池上 そこですよね。社会貢献だけでは限界がある。持続可能というのは、それが経済合理性に基づいて、森林を守っていく仕組みにしていかなければいけないということですよね。日比さん。そういう意味で、NGOとしていろいろ取り組みをしているときに、経済合理性に見合った仕組みを作っていくためにはどうしたらいいのかといったことは考えてらっしゃいますか。

日比 我々NGOの取り組み方としては、いくつかの側面があります。まずは、現場で森林減少を止めるための取組です。たとえば、違法伐採を止めるには現地の国での法整備が必要ですし、違法伐採を取り締まるレンジャーを組織して、トレーニングして、計画的にパトロールするといったスキームを作っていくことが必要で、それをさまざまな形で支援しています。さらには、現地のコミュニティへの経済的な支援によって、合法、違法に関わらず、森林減少に加担しなくてもいいような生計向上を支援するという側面もあります。

森林減少を経済合理性の観点から考えると、現地の森林で伐採するのは「供給側」ということになりますよね。では、森林減少の「需要」はどこにあるのかという問題があります。

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