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事例紹介2014.12.27

ネバー・ギブアップ、地域でサバイバル!~雨水博士のBOPビジネス(第3回)

Skywater Bangladesh Limited/会長 村瀬 誠 さん

地域:クルナ管区バゲルハット

テーマ:水資源・防災

団体の種類:民間企業

村瀬氏1

グッド・オーナーシップ

大きな期待を胸に抱いて始めたビジネスであったが、当初、販売は思い通りには進まなかった。人から揶揄されたり、技術を盗まれたりする日々に、焦りと不安な気持ちに襲われることもあった。そんな村瀬氏を励ましたのは、意外にも貧しい地元の人々であった。

ある日、村瀬氏が販売したタンクの状況を見まわっていると、思いがけない状況を目にする。設置したタンクに美しい色のデザインが描いてある。驚いた村瀬氏が訳を聞くと、その雨水タンクの持ち主の女性はこう説明してくれた。

「私は、この雨水タンクに感謝しています。サイクロンに見舞われ、川に海水が入った時にも、このタンクのおかげで、安全な水を飲むことができました。その感謝の気持ちを伝えようとタンクに絵を描くことを思いついたのです。」

聞くと理由は、他にもあるという。ある日、近所の人から、「あなたはお金があるくせにタンクを寄付してもらったのか」と揶揄された。 「このタンクは自分の大事なお金で買ったもので、寄付で手にしたものではない。自分で買ったものだから大切にしたいし、自由に飾ってもよいですよね。誇りを持って、そのことを皆に伝えたいと思い、絵を描きました。」

Good owner ship

(写真提供:Skywater Bangladesh Ltd.)

この絵が描かれたタンクの話を聞いた村瀬氏は、「とても嬉しく、元気を頂いた」と振り返る。雨水タンクを自分のものとして大事にするオーナーシップの思いこそが重要であると改めて感じた。

こうした応援に励まされて目標の100基を販売できた。しかし、村瀬氏は満足しない。貧しい人々にとって2万タカは、やはり手が届きにくい。少しでも価格を安くし、広く普及するようにしなくてはー熱い思いが胸を満たし、村瀬氏は意を決する。

「高い品質のタンクを、世界一安いコストで作ってやろう。」

新しい構想が浮かび、世界中にアイデアを求める旅が始まる。

探し求めた理想の水がめ

村瀬氏が掲げた新しい雨水タンクの条件は5つあり、この全てをクリアしなければいけない。

  1. 単純であること(simple)
  2. 丈夫であること(solid)
  3. 長持ちすること(long life)
  4. 低コストであること(low cost)
  5. メンテナンスの負担が軽いこと(easy maintenance)

ジャイアント・ジャー

(写真提供:Skywater Bangladesh Ltd.)
タイで市販されているジャイアント・ジャー。村瀬氏の理想とした水がめであった。

世界中の雨水タンクの事例を調べていた村瀬氏が最後にたどり着いたのは、タイの伝統的な雨水タンク「ジャイアントジャー」であった。タイで市販されおり、普通に家庭で使われている。この技術をバングラデシュに移転し、ここで作れるようにしたい。村瀬氏は早速タイのチョンブリ市にある職業訓練場に連絡を取り、バングラデシュの左官工2名の研修を打診した。しかし、最初の打診は「事例がない」とあっさり断られる。

村瀬氏は諦めないで、何度も足を運び、意を尽くして説得した。なかなか首を縦に振らない相手に、繰り返しバングラデシュの窮状と自らの思いを訴えると徐々に変化が生まれてきた。バングラデシュの人に役立つのであれば認めましょうー最後に村瀬氏の熱意が通じた。

BOPビジネスをやろう!

理想の雨水タンクの形が見えてきて、いよいよ事業化に向けて計画を立てようとNPO法人の仲間に相談した。しかし、NPO法人にはこのような事業を手当てする資金がないという。営利団体であれば自由に資金を調達したり、利益で稼いだりできるが、NPO法人には数々の制約がある。資金がなければ進めない現実に、NPO法人で進めることに限界を感じた。一方、自分は墨田区の職員で、今のままでは十分なコミットができない。

ここで引くべきか、更に進むべきか。大きな決断であったが、村瀬氏は、あえて困難な道を選ぶ。

一人でもBOPビジネスをやろう。

モレルゴンジの川

モレルゴンジの川に沈む夕焼けは、悠久の時間を感じさせて、美しい。

墨田区の職員を退職、15年間務めたNPO法人の事務局長も辞任して、株式会社天水研究所を設立する。日本人としてだけではなく、アジア人として、この仕事をやり遂げたい。これがヒューマンスピリットである。村瀬氏は、そう心に決めた。

時に63歳。BOPビジネスに本格的に踏み出す第一歩だった。

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