所長あいさつ

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2019年末に始まる新型コロナウィルスの影響は世界を覆い、多くの人命・健康を脅かし、経済・社会に甚大な影響を及ぼしており、ウズベキスタンもまた当然ながらその影響から逃れることはできていません。

こうした状況の下、ウズベキスタンに初渡航で赴任する私は、実はコロナ前の当地の状況を知りません。文献等をあたる限りでは、以下のとおり経済・社会の発展に向けた大いなるポテンシャルと課題に同時に直面している国、との印象を持っています。

ポテンシャルの1つ目は、教育水準の高い人口を一定規模擁することです。世界を見渡すと膨大な人口を持つ地域がほかにも少なからず存在しますが、中央アジアでは最多となっています。経済社会発展の礎は言うまでもなく人です。

2つ目は、比較的バランスの取れた経済構造です。第一次~第三次産業のGDPへの貢献の割合、就業人口比率いずれをみてもセクター間のバランスが取れており、製造業が育ってきていると見ることができます。同国経済は基本的には外的なショックに比較的強く、また部門間の経済格差も拡大しにくい構造と捉えることができると思います。

3つ目は積極的な経済改革が進んでいることです。2016年末に就任したミルジヨエフ大統領の指導の下、通常非常に難しい自国通貨の大幅切り下げに始まり、近隣諸国との友好外交など外国からの資金の積極的な誘致、等、開放政策を果敢に進めてきています。振り返れば少なからぬ国々がこうした改革の果実を手にしてきており、ウズベキスタンにおいても経済成長・社会発展を実現する鍵になる可能性も大とみています。

そして最後、4つ目のポテンシャル、これは今後当地にて見極めていきたいところですが、歴史・文化の分厚い蓄積です。独立後まだ日が浅いと言ってよい「ウズベキスタン」という国名より、正直なところ個々の都市名の方が「文明の十字路」といったフレーズを伴って多くの人々にイメージしてもらえると思いますが、古くからシルクロードの交易地として栄え、ユーラシアに広大な領土を有したチムール帝国の首都であり、今なお美しく荘厳なイスラム建築で世界中の人々を魅了し続けているサマルカンドに代表されるように、この地は絢爛たるペルシア文化、テュルク=イスラーム文化の揺籃にして精華として長らく君臨した歴史を有しています。こうした目に見えない文化的な要因も、経済社会発展の上で大きな力を持つものと信じています。

もちろん課題もあります。

1つ目は立地条件です。ウズベキスタンは、世界でも2カ国しか存在しない二重内陸国(隣国も内陸国)の一つです。もう1カ国はリヒテンシュタインであることを考えると、一定の規模を持つ国としては世界でも唯一と言ってよい存在と言えるでしょう。当然物流コストが高い上に、物流ルート上の国々との政治関係が死活問題となりうる、難しい立地であると言わざるを得ません。

2つ目の課題は旧社会主義体制時の影響です。JICAは、ウズベキスタンのソ連からの独立後間もない1993年から協力を開始し、1999年に旧ソ連諸国で構成するCIS(独立国家共同体)初の在外事務所を首都タシケントに開設いたしておりますが、ハードインフラの面では、旧ソ連時代に建設した電力インフラ老朽化に伴うエネルギー効率改善の必要性、モスクワからの財政移転に多くを負っていた医療や教育などの公共サービスが財源の弱体化に伴い、特に都市部と農村部との間の所得や保健医療・教育の質の格差拡大の傾向等が見られてきています。

3つめの課題は資源依存度の高さです。前述の産業間のバランスの主張と矛盾するようですが、第二次産業の中でも製造業よりは鉱業、さらに鉱業の中でも輸出の約49%を金と燃料に拠っている(2018年。IMFによる)構造は、雇用創出がなされにくい業種であることや、外部市況に大きな影響を受けることなどから、一定の脆弱性をウズベキスタン経済にもたらしていると言えます。

以上述べてきたのは、コロナ前のウズベキスタンが直面していた(であろう)ポテンシャルと課題ですが、これら全てがコロナの甚大な影響を受けているというのが現状であろうと思います。残念なことですが(世界の多くの国がそうであるように)ポテンシャルは抑制され、課題が深刻化してきています。同国の場合マクロ経済の観点から特に懸念されるのはやはり保健医療などの財政支出の大幅な増加の一方で、燃料価格下落に伴い財政収入が減少するという現象でしょう。これに伴い本来財政からの支出が想定されていた、未来の成長に向けたインフラなどの開発投資も大幅に減退する可能性が大きいと言わざるを得ません。

こうした現況を踏まえ、JICAはウズベキスタンにおいて、(1)経済インフラ(特に運輸・電力)の整備、(2)民間セクターの発展に資する制度構築・人材育成支援、(3)農村部における所得向上及び保健医療・教育の充実、の3つの重点分野を掲げ、有償・無償資金協力、技術協力、ボランティア事業、民間連携事業等、様々な形態で活動を展開しています。

加えて、当事務所はアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアのコーカサス3カ国も兼轄しています。これらの国には旧ソ連諸国共通の課題がある一方で、国毎に状況も異なるため、2017年5月に開設したジョージア支所やアルメニア、アゼルバイジャンの現地スタッフと協力して、事業を実施してきています。

本ウェブサイトでは、ウズベキスタンにおけるJICA事業について紹介しておりますので、是非ご覧頂き、変革期そしてコロナ影響下のウズベキスタンの現状や未来、さらにはそこに繋がってくる歴史について、共に考え、行動するきっかけとして頂けましたら幸いです。

日本からは地理的にも遠く、また経済的な交流も多くない地域かもしれませんが、周りを大国に囲まれたこの地域が高い独立性を保ちながらより民主的に経済・社会の発展を遂げていくことは、広く周辺の安定と発展にも寄与することともない、日本にとっても重要であると思います。そうした発展のお手伝いをすることによりウズベキスタンにとって日本が「遠くに住むよい友人」となれるべく微力ながら努めていきたいと思っています。

2020年9月
JICAウズベキスタン事務所長 宮崎 卓