田中理事長が米国・ワシントンの戦略国際問題研究所で講演-世界銀行のキム総裁、USAIDのシャー長官らとも会談-

2012年8月2日

田中明彦JICA理事長は、7月23〜25日、米国・ワシントンDCを訪問し、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies: CSIS)で、「国際協力における日米連携の可能性」と題して講演。また、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁、米国国際開発庁(USAID)のラジブ・シャー長官、ブルッキングス研究所のストローブ・タルボット所長とそれぞれ会談し、各機関の業務や連携強化について情報・意見交換を行った。

保健、農業、PPPにおける米国との連携

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CSISで講演する田中理事長。会場からは、講演内容だけでなく、円借款や青年海外協力隊についての質問もあり、JICA事業に対する関心の高さが伺われた

23日に行われたCSISでの講演には、援助関係者、日米の研究者、マスコミ関係者ら200人以上が参加。田中理事長は「1993年に宮沢喜一首相(当時)とビル・クリントン大統領(同)の間で合意された『日米コモン・アジェンダ』(注1)を契機に、日米両国はHIV/エイズやマラリアなどの感染症対策、安全な水へのアクセス改善などの分野で協力を進めてきた」と長年にわたる日米開発協力の歴史を振り返りつつ、保健、食料安全保障、PPP(官民連携)といった分野での協働事例を紹介した。

保健については、2010年の国連MDGサミットと前後して、日米両国はそれぞれ、保健分野の新戦略を立てたが、感染症の撲滅や妊産婦と乳幼児の死亡率改善、保健システムの強化など、双方には共通点が多く、ガーナ、セネガル、バングラデシュに対する支援について、政策や運営の面でさらなる協力を進めていることを紹介した。

食料安全保障については、「日本が農業分野の人材育成、生産性向上、潅漑(かんがい)整備などを得意とする一方、米国は、作物の収穫後の処理や保管、市場拡大、PPPといった面で優位性がある」と述べ、それらを生かし、互いに補い合う形で協力を進めるため、JICAとUSAIDが連携協定を結び、タンザニア、ガーナ、ルワンダ、セネガルで重点的に取り組んでいることを紹介した。

また、PPPについては、開発援助の担い手が多様化しており、途上国に投入される民間資本が政府開発援助(ODA)の5倍にも上っている中、確かな開発効果をもたらす革新的技術と、それによって生み出された製品を持つ日米両国の民間企業の強みを生かして、JICAとUSAIDが官民連携の協力でも成果をもたらしつつあることを紹介した。また、アフリカの水事業に対する民間資金の導入支援について、JICAとUSAIDが事業連携を行っていることを報告。さらに、ガーナでは、味の素株式会社が開発したサプリメントを乳児の栄養改善のために普及させるよう、JICAとUSAIDが協働していることも披露した。

日米協力の五つのチャレンジ

これまでの連携に加え、今後の日米協力の展望として、田中理事長は、中国、アフガニスタン、ミャンマー、アジア・大洋州、ポストMDGsの五つの重点分野を挙げた。

まず、JICAが近年、被援助国から援助国へと変容してきている中国と、援助のパートナーとしての関係構築を目指していることに言及し、同様の関係構築を進めている米国と日本の連携の可能性を示唆した。また、2014年に大統領選挙と国際治安支援部隊の撤退を控えたアフガニスタンについて「日米両国にとっての支援優先国」とし、日米両国を含む国際社会は、アフガニスタンの長い歴史と、国家建設の過程にある政治、社会、経済のぜい弱性を考慮しつつ、短期・中長期的展望を持って切れ目のない支援をしていくことが必要と訴えた。

急速に民主化を進めるミャンマーについては、少数民族との和解、市場経済への移行を含む財政改革、貧困削減、ガバナンス強化といった課題が山積しており、これらの解決には、援助国・援助機関のより一層の協調が求められることを強調。アジア・大洋州に関しては、日米安全保障協議委員会(通称、2プラス2)の枠組みで同地域の平和と安定と繁栄を促進するために連携が重要と確認されており、ODAのより戦略的な活用がうたわれていると述べた。

さらに、ポストMDGsとしては、2000年当時と比べ気候変動や食料安全保障、世界経済危機や自然災害など、しなやかな対応力が必要なグローバルな課題が顕在化してきており、すべての人々のためのよりよい未来をつくっていくため、日米両国の国際協力のレベルを一層高め「元気の出る援助」を展開していきたいと述べた。

適切な分野に適切な支援を

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田中理事長(左)とキム総裁。さまざまな情報や意見を交換し、より緊密な連携に向け協議した

CSISでの講演後、田中理事長は、各機関の要人と相次いで会談した。7月1日に世界銀行の総裁に就任したキム氏との初会談で、キム総裁は、これまでのJICAと世界銀行の緊密な協力関係に対する謝辞を述べた。また、キム総裁は、世界保健機構(WHO)在籍中の経験から、JICAの保健事業を高く評価した。さらに、田中理事長とキム総裁は、10月に東京で開催予定のIMF・世界銀行総会でJICAと世界銀行が共催するイベントを含め、総会の成功に向けて緊密な連携を図ることで合意した。ミャンマー、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)などについても情報・意見交換を行った。

USAIDとのさらなる連携強化に向けて

USAIDとのさらなる連携強化に向けて

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シャー長官(左手前から3人目)とは、民間企業との連携や保健分野での協力関係強化について意見を交換した

USAIDのシャー長官との会談で、田中理事長は、JICAが近年、本格化させている民間連携や再開した海外投融資について、経験豊富で、民間への信用保証制度を持っていることから補完関係も期待できるUSAIDとの連携を強化したい旨を表明。これに対し、シャー長官は、積極的な連携に対する期待を示した。

また、シャー長官は、USAIDが主導するイニシアチブ「Call to Action, Child Survival」について言及し、2035年までに、すべての国で5歳未満児の死亡率を全世界の平均値(1,000人当たり20人)に近いレベルにまで削減するという目標に向けて、JICAに協力を求めた。さらに、シャー長官は、食料安全保障と農業分野について、今年5月の主要8ヵ国・地域(G8)会議で合意された「食料安全保障および栄養のためのニュー・アライアンス」(注2)に基づき、モザンビークでの協力枠組み策定に関して日本とJICAがリーダーシップを発揮するよう、強い期待を表明した。

ブルッキングス研究所のタルボット所長との会談では、同研究所で再開が決定された日本の政策研究プログラムや、JICAと同研究所の共同研究、中東の民主化運動などが話題に上った。

(注1)日米経済摩擦が激化する中、両国の関係の幅を広げ強化するため、地球的展望に立った協力のための共通課題として、1993年7月に打ち出された。世界的な健康問題、人口過剰、環境破壊、自然災害といった21世紀の課題に対し、さまざまな成果を挙げている。

(注2)米国が食料安全保障に関するG8のイニシアチブとして提唱。アフリカ諸国、G8、民間セクターの三者が協力し、アフリカの農業分野への民間資本の動員を通じた食料安全保障と栄養状態の改善を目指している。これまでに、米国主導でエチオピア、ガーナ、タンザニアの協力枠組み文書を策定。この3ヵ国にブルキナファソ、モザンビーク、コートジボワールを加えた6ヵ国をニュー・アライアンスの先駆国として、今後、協力枠組み文書を策定する予定。