【草の根技術協力】活動の現場から②-マラウイの医療従事者が山口の学校で学んだこと-

2023.10.23

 2021年11月からアフリカのマラウイでJICA草の根技術協力事業を展開している山口県のNPO法人Colorbath。農村部における持続可能な衛生環境の向上を支援するこのプロジェクトの一環として、10月2日からの約1週間で国内での研修を実施しました。活動地であるムジンバ県の医療機関で働く3名の医療従事者が来日し、10月4日(水)には山口県周南市の小学校と大学を訪問しました。

日本の学校から学ぶ衛生教育-周南市立菊川小学校-

 最初に見学したのは1年生の教室でした。担任の先生が児童に「ハンカチ・ティッシュを持ってきたかな?爪の長さはどうかな?」と聞いていく様子は1日の始まりとして微笑ましく映りましたが、実は子どもたち一人一人の出欠確認と健康観察のための重要な時間でした。各教室での結果が集約され、校長先生にも毎日報告される仕組みを聞き、3名は感心した様子でした。
 保健室では養護教諭から、日本の保健室の仕組みや1日の業務の流れなど詳しくお話しいただきました。私たちが当たり前に思っている学校の保健室、実は世界でも珍しい日本独自の制度です。簡単なケガの治療でも医療行為とみなされ、医療機関以外では対処することのないマラウイで働く3名にとって、すべての学校にこのような設備と専門性をもった先生が配置されていることは驚きの連続のようでした。制度も習慣も大きく異なる中でも「子ども一人一人の健康記録はどのように管理されているのか」、「学年が上がり、中学校に進学しても引継ぎ、申し送りができるのか」、「保健室で可能な医療行為の範囲は?」など、専門家ならではの質問が飛び交っていました。
 栄養・食育や身の回りの衛生環境を整える指導を、教員が子どもたちに行うことができるのも日本の教育現場の特長です。マラウイでもそれらの指導は医療従事者が学校を巡回して行うのが普通です。そのような専門性を各教員がどう身に付けるのか、スキルアップのための研修や訓練はどう行われるのか、若手教員への指導は?など、学校での衛生指導が一般的である日本のシステムについて、校長先生にもたくさんの質問がなされました。
 昼には給食をいただき、5大栄養素を取り入れた理想的な献立を児童が考えるという6年生の家庭科の授業も見学した3名は、地域の衛生環境の改善や住民の健康管理のためには、子どもも含めた一人一人の衛生意識の向上が欠かせないことを再認識し、そのためにはマラウイでも学校や教員を巻き込む必要があることを痛感したようでした。

1年生の歓迎を受ける研修員とColorbathスタッフ

校長先生との意見交換

保健室にある器具を体験しました

 病院の下部組織となるヘルスセンターで、施設の衛生整備や住民への食育・衛生指導を行っているピリさんは「知識を得、学び、行動に移して実現していることがすごい。自分の地域でも頑張っているが、次のステップが見えてきたような気がする」とコメントしてくれました。他の地域のヘルスセンターで助産師・看護師として働くエミリさんは「今回来日できなかった同僚にも学んだことを共有し、医療機関と学校との協働の可能性も考えていきたい」と話してくれました。そしてムジンバ県唯一の県病院で副病院長を務めるベスティドさんは「子どもが衛生習慣を身に付けるポイントには、教員と児童の関係性が鍵となることを学んだ。子どもの規律と自律性が素晴らしく、教員が一方的に指導するのではなくコミュニケーションの中で子どもの自主性をサポートしている点は、マラウイでも村の自治会のような大人と子どもが参加する場所で参考になると思った」と述べ、今回の視察を受け入れてくださったことに感謝を表し、帰国後の活かし方を考えていました。

大学生との意見交換-周南公立大学-

 周南公立大学では、はじめに大学紹介があり、特に国際交流と来年度新設の人間健康科学部看護学科、情報学部に関連して、関係職員とNPO法人Colorbath・マラウイの研修員3名で、マラウイと日本の医療体制、周南市とムジンバ県で抱えている課題について意見交換が行われました。日本とマラウイの人口比率や医療現場の比較分析をとおして、研修員からは、「マラウイは子どもの数が増加している、衛生環境の改善に繋がるセミナーを行っていきたい」と話されていました。
 そして、学部生3名との交流会では、日本語と英語、トゥンブカ語を使って自己紹介を行いました。年齢や身長比べをしながら談笑する中で緊張もほぐれ、日本とマラウイの文化や習慣に対して、お互いが思っていることを率直に伝え合いました。研修員方からの「なぜ神は貧富の差をつくったのだろうか?」という質問には、その場にいたスタッフ全員が少し沈黙して一緒に考える場面もあり、今回の交流は相手の国を理解するだけでなく、自国にも向き合う時間となりました。

学生とのディスカッション

(報告:JICA山口デスク 水野 美加/JICA中国 新川 美佐絵)

■ 関連リンク:
JICA草の根技術協力事業
NPO法人Colorbath

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