国際教育入門セミナー2024 in 奈良

2024.03.11

JICA関西は、2024年2月17日(土)に「国際教育入門セミナー2024 in奈良『スマホから考える世界とわたしー平和・環境・人権の視点からー』」を開催し、30名の方々にご参加いただきました。
セミナーのワークショップでは、身近な電子機器であるスマホを題材に、グローバル経済のしくみと派生する社会問題を知ることで、私たちが使用者としてどのようなアクションが出来るのか、共に学び考える機会を持ちました。また、JICAの教師海外研修に参加した教員による報告会では、奈良県から参加した教員が、ペルーで何を感じ、どのような授業を実践されたのか、児童・生徒に何を伝えたのか、ご報告いただきました。

■プログラム①
ワークショップ「スマホから考える世界とわたし」~平和・環境・人権の視点から~

【オープニング:身近な電子機器を考えるワーク】
参加者が7つのグループに分かれ、セミナーがスタート。各グループで名前や出身を書いたネームプレートを使ってお互いに自己紹介をしました。自然と会話が始まり和やかな空気が漂ったところに、進行役・講師の西上さんから身近な電子機器についてカードに書き出し、必要か不要かをマッピングするワークが出されました。それぞれのグループは思い思いに身近な電子機器を書き出し模造紙にマッピング。電子辞書やウォークマンなどもう時代遅れのものは不要と位置付けましたが、ゲームは必要というグループもあれば不要というグループもありました。ただ、どのグループもスマホは必要という位置づけでした。そこにスマホクイズ問題が提示されました。

【ワークショップ:スマホクイズ】
「スマホの世界の生産台数は?」「スマホの電子部品っていくつある?」などスマホクイズを西上さんが問いかけました。その後、グループでもスマホについて今起きている社会問題は何だろうという視点で話し合いました。「課金トラブル」「依存症」など身近な問題から、「アフリカの労働問題」などグローバルな視点の意見もありました。

【ワークショップ:フォトランゲージ】
次にそれぞれのグループにスマホと深い関係があるコンゴ民主共和国、インドネシア、ペルーの写真が3枚ずつ配られました。このワークでは写真を見てどんな問題があるのかをグループで考えるもので、写真を見る事で背景にある問題を導き出します。コンゴの写真では「ゴリラ」「子供」などの写真、インドネシアでは「拘留された人」「鉄くずの山」、ペルーでは「工場の煙を背景にした少女」「何かを訴えている高齢の女性」などが提示され、グループで話し合われました。

各グループの発表の後、講師の丸山さんよりそれぞれの写真の説明がありました。「生息地を追われたゴリラ」「煤煙のため99%の子供が血中に鉛が検出されていること」、「採掘のため住む場所を追われた人々」などスマホが起因する様々な世界の問題を知ることが出来ました。そして「鉱物紛争」というアフリカ、特にコンゴを中心に武装勢力が武器購入などのために鉱物資源による利益を奪い住民に暴力を振るっているという現実を教えていただきました。

【レクチャー:コンゴ民主和国と日本をつなぐもの】
スマホから世界の問題を知ることになったところで、「日本」と「コンゴ」がどのように関わっているのかを講師の林さんからレクチャーしていただきました。
はじめに、参加者はノーベル平和賞を受賞した婦人科医のムクウェゲ医師を紹介する報道番組の動画を観ました。
(内戦が続くコンゴで性暴力と戦い続ける医師 )報道番組には内戦により荒廃してしまった「コンゴ民主共和国」での性暴力を手段としたテロリズムがあり、初めて知る人にはかなりショッキングな内容でした。そして、その背景には私たちが普段使う「スマホ」に使われている鉱物があるのだという事を知りました。ムクウェゲ医師が「知らないことは罪」と言うように私たちが使っている「スマホ」の材料がもしかしたら武装勢力に加担することになっているのかもしれないのです。

【ワーク:解決のために】
今や必要不可欠となった「スマホ」は知らないうちに世界に大きな問題を起こす可能性があることを知りました。そんな事実を知ってしまった私たちは何かできるのだろうか。そうした漠然とした思いを抱いたところに解決方法を考えるワークが提示されました。各グループは実際に解決のための取組をしている写真と内容をつなぎ合わせ、理解を深めました。鉱物をめぐって繰り広げられる紛争や公害問題などは、世界ですでに問題視され、様々な市民団体や企業による解決のための取組がなされていたのです。こうした取り組みを学んだ後、各グループは自分たちでもできる取り組みを考えるワークに挑戦。各々のグループはお互い意見を述べ合い、配られた取組カードを“できそう”、“できない”にマッピングしていきました。取組カードには新しいアイデアという白紙のカードもあり、新しいアイデアも盛り込んでいました。

最後に各グループからの発表を行ないました。どのグループも「家族や友人にスマホを取り巻く問題を伝える」や「使わなくなったスマホをリサイクルする場所に持参する」、「インターネットや資料でスマホの鉱物について調べる」などが“できそう”に分類されました。また、新しいアイデアとして「スマホに代わるエコロジーな通信機器の開発」や「部品原産地の情報公開」や教員が多いチームでは「教育の場で子どもに伝える」なども記載され、少しでも問題解決につながる方法をみんなで考えることができました。
最後に講師の吉田さんが「スマホの問題は世界の大きな問題となっていますがこのような参加型ワークショップなら学びやすく、参加メンバーと一緒に考えることで、手強い問題の解決方法を知り、社会に参加して小さなことからでも実践する事が出来ると思います。」とまとめました。

■プログラム②
2023年度JICA関西教師海外研修(ペルー)報告会

プログラムの後半は天理市立朝和小学校の田端浩多先生からのJICA関西教師海外研修(ペルー)の報告会がありました。田端先生は社会科で教える政府開発援助(ODA)について、もっと深く知りたいという思いでペルーの教師海外研修に参加しました。田端先生は「物事には背景がある」という考えのもと、表面的ではなく物事の多面性をとらえ、「他国の課題だけでなく良さを理解し、やさしい眼差しを持つ」という実践授業に繋げました。

【ペルーのイメージ:実際のペルー】
皆さんが持つペルーのイメージって何ですか?という問いかけで参加者は「マチュピチュ」や「ナスカの地上絵」「コンドルは飛んで行く」などを思い浮かべました。SNSでもよく取り上げられるカラフルな「ミラフローレス地区」や「世界の美食ランキング」にも入っている美味しそうな食事の写真などスライドとともにペルーの概要を紹介してもらいました。ペルーって開発途上国なのだろうか? という疑問を参加者が持ったところにペルーの別の側面についての話が展開されました。

最初に見せてもらったスライドはアジア系の高齢の方の写真でした。一見すると日本人のように見えるこの方は実はペルー人で、彼の祖先はかつて日本からペルーに渡った日系人でした。ペルーは日本と深いかかわりがあり、今も日系人のコミュニティがたくさんあります。またペルーに根付いた日本文化としてマンガや寿司屋などもあるそうです。ペルーは遠くの国ではなく日本と関わりの深い国なのです。

次に「4,000」という数字が映し出されました。これは一日で盗まれるスマホの数だそうです。ペルーに渡航する前にこの数字を知った田端先生たち参加教員は治安の悪さに驚愕したそうです。現地に行って、その背景となる要因をいくつか知ることができました。隣国ベネズエラからの難民の問題や貧困の問題など、目には華やかな首都リマにある別の側面が分かりました。
研修では日系校であるホセ・ガルベス校、ラ・ウニオン校を訪問し現地の子供たちと交流しました。学校では日本式の教育が実施されており、ペルーと日本のつながりの深さを実感しました。また、日本・ペルー地震防災センター(CISMID)を訪問し地震が多いペルーの防災についての取組みを学びました。

【子供たちに教える自分自身のペルー】
帰国後、田端先生はペルーの体験をどのように伝えるかについて考えました。そして、ペルーが楽しかったという表面的な授業ではなく、ペルーという国の背景を知り、その良さも課題も知ったことでペルーに対する自分自身の意識がやわらかく変化したという経験を元に実践授業を計画しました。「ペルーと日本」、それぞれの良さ・課題・背景について考えたことを「友達と自分」に当てはめて考えることで、「どんな国・人にも良さと課題の両方があり、それも含めて仲間である」という意識の醸成を促す授業内容について説明がありました。最後にも改めて、物事には背景があり、それを知ることで相手に対してやさしい気持ちを持つことが大事だとまとめました。

セミナーの参加者からは「これまで知ることのなかった開発途上国の姿を一部学ぶことができました」、「深い内容に、驚きの連続で、感慨深いものになりました」、「真の解決策はざっくり考えるだけではなく、それぞれの世界の具体的な現実をしっかり掘り下げる中でしか見つからないと思いました」といった声が寄せられました。まずは世界で起こっている現実を知ることが、次の一歩を踏み出すきっかけになることを実感できるセミナーとなりました。

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