TICAD30周年。アフリカの可能性は「人」にある。

2023.09.08

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アフリカ部 次長 薬師 弘幸

アフリカ大陸の可能性

 アフリカの資源といえばまず、豊富な天然資源を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、アフリカでもっとも注目すべき資源は豊富な人的資源です。2050年にはアフリカ大陸の人口は世界の4分の1を占める約25億人になると見込まれ、その時点の平均年齢は約25歳と言われています。無限大の可能性を秘めた多くの若者こそがアフリカが持つ最大の資源といえるでしょう。21世紀の後半にはアジアの人口も減少に転じます。アフリカは日本を含む世界の人々が将来にわたり豊かに暮らしていくための運命を握る重要なパートナーなのです。

人への投資

 アフリカが日本のパートナーとして安定的に成長し続けるためには、アフリカの大きなポテンシャルである若者を巻き込んだ包摂的な社会発展と経済成長が不可欠です。逆に急増する若者が成長から取り残されると、膨大な失業、貧富格差の拡大、経済難民の増加、テロを含む犯罪の蔓延等、アフリカ社会経済は不安定化してしまいます。若者の存在が逆に大きなリスクとなるのです。このため、人口拡大期にある今ほど、アフリカの将来を支える若者に対する投資が重要な局面はありません。若者に対する教育と人材開発、そこから続く雇用機会の創出と産業の発展は、アフリカのみならず、日本を含む世界の未来をも左右する喫緊の課題といっていいでしょう。

JICAの協力

 JICAは、多くのアフリカ諸国が独立を果たした1960年以降、長年にわたり「国づくりは人づくり」の信念のもと、常に「人」に焦点をあてた協力を推進してきました。特に2000年代初頭からは、緒方貞子理事長のリーダーシップのもと、全ての人が恐怖と欠乏から逃れ、尊厳を全うする「人間の安全保障」を実現するため、特に貧困に苦しむアフリカの人々に届く協力強化していきました。当時、私はアフリカ地域の基礎教育分野の技術協力を担当していました。学校に通う貴重な機会を与えられた地方の子供たちが、苦しい環境の中、未来に希望をもって真剣な眼差しで学んでいる様子は今でも脳裏に焼き付いています。教育が人にもたらす可能性を私自身が改めて学ぶことができました。

 JICAのアフリカ協力の特徴はアフリカのオーナーシップとパートナーシップを常に意識してきたことです。これらの概念は数百年に及ぶ植民地支配や冷戦下の米ソの影響下にあったアフリカにとっては珍しいものでした。オーナーシップとパートナーシップの原則は1993年に日本政府主導で開始された「アフリカ開発会議(TICAD)」においても、当初から最も重要な概念として位置づけられ、30年を経た今でも守られています。アフリカの問題の解決方法はアフリカの人々が最も知っている、それを実践できるのは外国人ではなくアフリカの人々である、そしてアフリカの人々によるオーナーシップなくして持続的な発展はありえない。この信念に基づき、JICAはTICADプロセスが開始されてからこの30年間、「人間中心」と「オーナーシップ重視」の原則に徹した協力をあらゆる分野で実践しました。その結果、アフリカ側からも高い評価を得て、アフリカと日本の信頼関係の醸成に大きく貢献しました。

アフリカが直面する課題と強靭性強化

 今、アフリカは「複合的危機」に直面しています。資源価格の下落に伴う経済成長の停滞、債務問題、気候変動への適応は以前から顕著化していましたが、新型コロナやウクライナ危機によってこれらの問題はさらに深刻化しました。重要なことは、これらの危機の多くがアフリカに起因したことではなく、外的要因によってもたらされたことです。

 このような状況下、ちょうど1年前の昨年8月、チュニジアにてTICAD8が開催されました。この中で最も強調されたことは「人への投資」の重要性です。またJICAも外的ショックへのアフリカの強靭性を高めることに軸足においた新たな戦略を策定しました。忘れてはならないことは、アフリカ自身がこの難局をアフリカの人々による知恵とイノベーションによって乗り越える強い意志を持っていることです。このアフリカの強い意志をサポートしていくことこそが、JICAの重要な役割だと考えています。

 例えばコロナ禍にJICAのProject NINJAの活動の一環として行われたスタートアップのピッチコンテストでは2700社以上の若いアフリカの起業家からCOVID-19に対応したアフリカの社会課題解決に資するビジネスアイディアの応募がありました。JICAはこのようなアフリカの可能性を秘めた若い力をビジネスの形に支援するスタートアップエコシステムの構築に力を入れています。またアフリカのオーナーシップに則った協力を強化するため、JICAは近年、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)との連携事業を推進しています。連携事業の一つである「Home Grown Solutionsプログラム(HGS)」では、保健分野の課題解決に資するアフリカ企業によるビジネスアイディアの事業化に向けた能力向上支援を行いました。同プログラムを通じて支援対象の現地企業は市場から合計約1800万ドルの資金調達を得て、約100万人へのサービス提供を行った他、1400人の雇用創出にも貢献するなどの成果を得ています。

人に届く協力。人と共に成長。

 「アフリカの将来を担う若者を代表し、私たちは日本で学んだ知識と経験を用いてアフリカの持続的な発展のために貢献していくことを約束します。」。先日、都内で開催されたTICAD30周年記念行事において産業人材育成のための留学生事業「ABEイニシアティブ」に参加したベナン出身のパスカルさんはこう力強く宣言しました。またセーシェル出身のエノラさんは日本とアフリカの懸け橋として活躍している様子を頼もしく語ってくださいました。この二人の自信と確信はTICADプロセス30年間のJICAのアフリカ協力のアセットと今後の可能性を象徴するものでした。若者自身がアフリカの持つポテンシャルを信じ、自らオーナーシップをもってアフリカの発展に強い思いを持っています。この若者こそがアフリカの将来を支え、また日本を含む世界とアフリカの信頼関係を構築していくのです。

 アフリカの若者の可能性を信じる。人に届く協力を行い、人と共に成長する。そしてアフリカの人々と日本の人々が繋がり、信頼関係を更に強固なものとする。次の30年に向け、JICAはアフリカと共に歩み続けます。

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