「水道一家」による学び合い

#6 安全な水とトイレを世界中に
SDGs

2023.09.15

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地球環境部 次長 松本 重行

「水道一家」とは?

 24時間蛇口をひねればいつでも安心して使える日本の水道。これを支えている自治体の水道局や、水道事業に関わる関係者の間には、「水道一家」という言葉があります。生活に不可欠な安全な水を住民に届けるという同じ使命感をもって、互いに技術を共有し、協力し合うというという連帯感を、家族になぞらえてこう呼んでいます。例えば災害が発生すると、被害を受けた水道事業体に対して全国の水道事業体が職員や給水車を派遣し、応急給水や緊急復旧工事を助けます。

「水道一家」による学び合い -幹部フォーラム-

 JICAは、国境を越えた「水道一家」の学び合いを促進する活動を進めています。アジアでは、2010年から「アジア地域上水道事業幹部フォーラム」を開催しており、第5回を今年の8月22~25日に横浜市で開催しました。東南アジアと南アジアの10か国から28人の水道事業体や省庁の幹部が集まり、改善に向けた取組事例や実績の共有、ディスカッションなどを行いました。
 特に多く議論になったことは、無収水の削減、水道料金の改定、施設投資に必要な資金の調達でした。無収水とは、漏水や盗水、水道メータの不良などにより水道料金が請求できない無駄になっている水のことで、参加国の中には浄水場で生産した水道水のうち、30~40%が無収水になっている水道事業体もありました。料金改定について意思決定者(首長や議会や規制監督官庁)や住民の合意を得ることが難しく、長年改定できないままに財務状況が悪化している水道事業体もありました。
 参加者からは、「似た問題を抱えた水道事業体が多くあり、話を聞いて参考になった」、「改善の実績を上げている水道事業体を訪問して学びたい」などの声が多く上がりました。今後も、オンライン会議を開催するなどのフォローアップを行います。

 アフリカにおいても、2019年から「サブサハラアフリカ水道事業体幹部フォーラム」を開催しており、今年の3月に第2回を南アフリカ共和国で開催しました。このフォーラムもその後オンライン会議によって、学び合いを継続しています。さらに、ケニア、マラウイ、ルワンダの3か国は「無収水対策ワークショップ」という学び合いを2018年から継続しています。

アフリカとアジアの学び合い

 改革の実績を上げた水道事業体を実際に訪問して学ぶ研修も行っています。例えば、アフリカの南スーダンからは、水道を所管する大臣と水道公社の総裁を含む一行が、カンボジアの首都プノンペンの水道公社を訪ねました。
 プノンペン水道公社は、内戦で破壊された水道を見事に復興させ、数々の改革を行って、10年も経たないうちに安全な水の24時間給水を達成し、「プノンペンの奇跡」と呼ばれています。南スーダンも長い内戦を経て2011年に独立し、復興への道を歩んでおり、自分たちの水道の現状を、内戦直後のプノンペンと重ね合わせたに違いありません。当時の首都ジュバの水道は、普及率が28%に過ぎず、無収水率は推定で50%もありました。これは、改革を開始した当時である1993年のプノンペンが、普及率25%、無収水率は72%であったことに似ています。
 プノンペンが実現した改革を自分たちも成し遂げたいと考えた大臣と総裁は、帰国すると「改革行動計画」を策定しました。そして、今年の2月に待望の浄水場がJICAの無償資金協力で完成しました。給水人口は以前の10倍以上に増えました。南スーダンの水道公社の職員は、「水道一家」の仲間であるプノンペンから学んだことを糧にして、日々努力を続けています。
 このように、「水道一家」による学び合いは、モチベーションを大きく向上させ、改革に向けた具体的な行動を引き出す効果を持っていると思います。

日本にとっての意義

 「アジア地域上水道事業幹部フォーラム」は、アジア各国の水道事業体と日本の水道事業体や民間企業をつなぐ役割も果たしています。今回開催したフォーラムは横浜市との共催として、横浜市水道局の全面的なご協力をいただいて実施しました。また、学識経験者、自治体、水道関連組織の皆様にご参加いただき、「横浜水ビジネス協議会」の会員企業によるビジネスセッションや展示も行われました。会場では、各国からの参加者の皆様との再会を喜んだり、新たなネットワーク構築のために名刺交換をしたりする様子が見られました。日本企業の海外展開につながることも期待されます。
 日本は2008年をピークに人口減少に転じており、水道事業体は顧客数と料金収入の減少、高度経済成長期に建設した水道施設の老朽化と更新費用の増大、職員数の減少や技術の継承など、新たな課題に直面しています。これらの新たな課題に対処していくために、日本の水道事業体にとっても海外の水道事業体の取り組みを知ることは、メリットのあることだと思います。
 JICAは、引き続きこのような「水道一家」による学び合いを支援し、SDGsが目指す「全ての人々の、安全で安価な飲料水への平等なアクセス」という目標の達成に向けて、努力していきます。

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