税関支援を通じた連結性強化~国境手続の改善を通じて世界をつなぐ

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2023.11.30

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ガバナンス・平和構築部 行財政・金融チーム 課長 根岸 精一

本年10月に、JICA本部の複数部署の関係者、及び事務所関係者がベトナム南部の都市・ホーチミンに集合し、陸路で国境を越えてカンボジア・タイを踏査するミッションを実施しました。特に私のチームでは、タイ・カンボジア国境(モクバイ・バベット)や、カンボジア・タイ国境(ポイペト・アランヤプラテート)での税関等による各国境の越境手続きの現状や課題などを中心に調査しました。

今回の調査を通じて、道路や国境施設などのハード面の整備が進んでいることを確認しつつ、税関や出入国管理などのヒト・モノの越境手続や、関係する政府省庁間、また国境を接する2カ国間の政府機関の連携などのソフト面の整備を進める余地があることを確認しました。

カンボジア・タイ国境(ストゥンボット)のカンボジア側施設

カンボジア・タイ国境(ポイペド・アランヤンプラテート)のカンボジア側国境施設

JICAでは、SDGs達成への貢献と、組織のミッションである「人間の安全保障」と「質の高い成長」の実現に向け、2021年に20の課題事業戦略「JICAグローバル・アジェンダ」を発表し、その一つの「公共財政・金融システム」の中で、貿易円滑化の促進に必要な途上国の税関への支援について議論しています。

今回、その「JICAグローバル・アジェンダ」で考える各種取組を更に具体化することを目的とした「クラスター事業戦略」について、特に貿易円滑化や連結性強化、税関近代化支援のあるべき姿を検討したクラスター事業戦略「税関近代化支援を通じた連結性強化」 を公開しました。

この戦略では、開発途上国の税関における公平性・効率性に課題がある通関手続きや、近隣国間での連携不足による国境での貨物の滞留などの課題に注目し、各国税関当局の発展段階に応じた支援を実施する方針を整理しています。また、国際回廊開発や自由貿易協定などの地域枠組みの進展を踏まえ、「連結性アプローチ」を通じた物理的・制度的・人的な連結性の強化を推進し、各国・域内の健全な発展に貢献することを目指しています。

特にJICAでは、アフリカの税関支援の一つのアプローチとして、国境における越境手続きの迅速化を目的とし、技術協力や資金協力を組み合わせた形でのワン・ストップ・ボーダー・ポスト(One Stop Border Post 以下、OSBP)を展開しています。これは、国境を接した国同士を行き来する際には、通常2か所(出国する国と入国する国)での通関や出入国手続を必要とするものを、1か所(One Stop)で越境に関する全ての手続を完了させる国境施設の整備と手続の効率化・調和化を目的とするもので、現在アフリカでも117ヶ所の国境で運用中もしくは計画中とされています。

アフリカのカズングラOSBPの入口(ザンビア・ボツワナ国境)

OSBP支援におけるJICAの強みは、各国境の税関や警察、検疫、出入国管理担当部局の関係者を一同に会する会議を形成し、いかにして越境手続きの効率化・調和化を行うのかを議論し、関係者間の粘り強い協議を通じて最適解を出せるように誘導する「寄り添い」型の支援を実践しているところです。

このアプローチの展開を通じて、JICAでも15ヶ所の国境のOSBP支援を実施しています。また、それらのJICAが培ってきたOSBP支援の在り方・方法論について取りまとめたOSBP Sourcebook は、2011年に東アフリカ共同体(EAC)により初版が出版された後、2回の更新が為され、現在はアフリカ大陸全体の開発・発展を主任務とするアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)を中心として、アフリカ各国でOSBPを導入する際の「道標」として広く活用されています。

私自身も、2014年に初めてこの分野の支援を担当して以来、主としてアフリカや東南アジア諸国の支援を担当する傍ら、特にアフリカのOSBP支援の展開についてアフリカ各国の税関当局の方々と議論してきました。

アフリカのルスモOSBP。ルワンダ・タンザニアの両国の税関窓口が隣り合わせている(ルワンダ・タンザニア国境)

また、JICAは2015年に世界税関機構(World Customs Organization 以下、WCO)との業務協力協定を締結し、両組織の共同事業を通じた更なる途上国税関当局の発展について力を合わせることになりました。これにより、従来から緊密に連携している日本の税関職員の方々に加え、WCOの方々を含めた3者の連携を強め、JICAの支援を展開することが可能となりました。以来、アフリカ21か国と大洋州6か国に対し、各国税関当局で人材育成を担当する教官の「指導者」(マスター)を育成することを目的としたマスター・トレーナー・プログラムを展開し、各国税関の近代化に貢献していることが高く評価されています。

JICAの強みは、様々な専門性や支援スキーム、知見・経験を柔軟に組み合わせ、国・地域が抱える課題克服や更なる発展に向けた支援について、各国の事情に即して一緒に考え、行動できることだと思います。

冒頭で紹介した、陸路でのベトナム・カンボジア・タイ国境踏査の道中でも、複数の部署・事務所からの参加者による幅広いバックグラウンドや知見・経験を活かし、あるべきJICA支援の絵姿について、ひざ詰めで幅広く議論することができました。

今後、メコン地域を中心とした各国の連結性強化を目的として、技術協力プロジェクトの立ち上げに向けて準備を進めています。また、その他の地域でも、日本に税関支援を求める声が多く寄せられており、全世界の連結性強化の支援も進めていきたいと考えています。

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