バングラデシュとJICA -50年の道のりと今後の展望- (後編)

2023.12.04

サムネイル
バングラデシュ事務所 所長 市口 知英

ヒマラヤ山脈から注ぐ河川が作った南アジアの国、バングラデシュ。
2023年はJICAがバングラデシュへのODAを開始してから50年目の節目に当たります。前編・後編に分けて、バングラデシュとJICAの50年間を振り返り、今後の協力を展望します。

前編はこちら

両国間の「信頼」の構築

私自身は、昨年9月にバングラデシュに赴任しました。赴任以来、多くのバングラデシュ政府関係者と会ってきていますが、日本及びJICAに対する「信頼」の大きさに驚かされます。単なるお世辞ではないと感じるのは、「あの時に、このように、助けてくれた」という具体的なエピソードを紹介されることが数多くあるからです。

「信頼」というのは一朝一夕に形作られるものではありませんし、一方的に何かを提供すれば構築されるものでもありません。現在の「信頼」は、協力の形態に関わらず、バングラデシュと日本が輝かしい未来を信じて、50年間、共に汗を流し、真剣に課題解決のために行動してきたことにより得られたものだと思います。

JICA海外協力隊としてバングラデシュに派遣された方々の声を紹介させてください。バングラデシュの人々にとって大切な国語、ベンガル語で語られたものの一部です。

「村に行くと、問題ないか、日本の家族は元気か、ちゃんと食べているか、と自分ごとのように気にかけてくれました。まだ食べてないと言うと、それなら家に来なよ、一緒に食べようとお世話をしてくれました」

「日本で大震災が起きた時、学校の生徒たちが、自分たちのおやつを我慢して、お金を送ってくれました」

「星の下で、ロウソクに火を灯し、どうしたらこの国が成長するのか、自分たちに出来ることは何か、未来を信じながら皆で語り合いました」

こうした言葉が心に響くのは、バングラデシュを愛する私たちが、立場や場所は違えども、同じような経験をしてきたからに違いありません。そして、積み上げられてきた「信頼」関係こそが、JICAによるODA協力の根幹であるのです。

「協力隊活動風景の写真」

村落開発普及員(JICA)

これからの発展へ向けた展望

私たちJICAは、これからもバングラデシュの持続可能な発展のために、「産業発展・多角化」、「質の高いインフラ」、「社会脆弱性の克服(格差の是正)」を重視して、この国が抱える課題に取り組んでいきます。

2031年の中進国入りを目指すバングラデシュにとって、持続的な経済発展のためには、これまでの発展を牽引してきた縫製業に留まらない「産業発展・多角化」が不可欠です。JICAとしては、ダッカの近郊のアライハザールに位置するバングラデシュ経済特区(BSEZ)を代表例とした経済特区開発、ICT(情報通信技術)や製造業の人材育成、南東部に位置するマタバリ港(バングラデシュ初の深海港)整備を基盤にしたモヘシュカリ・マタバリ地域の総合開発といった分野への協力により、バングラデシュがその潜在力を発揮できる環境の整備を推進していきます。

また、日本企業の参加を得ながら、「質の高いインフラ」への協力を進めています。代表例としては、都市高速鉄道網(MRT 1号線、5号線北路線、6号線)、ダッカ国際空港第三ターミナル、ジャムナ鉄道専用橋、モヘシュカリ・マタバリ地域のインフラ整備があります。昨年12月にはダッカ市民待望のMRT6号線が部分開業し、来年にはダッカ国際空港第三ターミナルの完成・開業を控えています。インフラ整備はバングラデシュの経済発展のために非常に重要であり、引き続き、日本の技術も活用した質の高いインフラに対するニーズは大きいと考えております。

円借款で建設を支援したメグナ橋の開通(JICA)

最後に忘れてならないのは、「社会的脆弱性の克服(格差の是正)」への協力です。教育、保健、農業・農村開発は古くから協力している分野ですが、引き続き課題は残っています。そして、持続的な発展を確固たるものとするためには、都市と地方との格差の是正や、行政能力向上と公共サービスの改善、貧困層への影響が大きい気候変動対策等に、これまで以上に重点を置かないといけません。2016年以降中断していたJICA協力隊の派遣も今年9月に再開しており、地に足の着いた協力を更に進めます。

結びに

これまでの50年間は決して平坦なものではありませんでした。1984年には事故等で2名の青年海外協力隊員が、2016年のダッカ・レストラン襲撃テロ事件ではJICAの調査業務に従事していた日本人7名がその尊い命を失いました。私たちには、彼ら・彼女らの意思を受け継いでいく責務があります。

この50年間のバングラデシュの目覚ましい発展を振り返えると、前編で紹介した調査団の言葉にある「国造り」は成功したと自信をもって言うことが出来ます。そして、私たちは、この両国の間に育まれた「信頼」をより強く、大きなものへと発展させ、次の50年後へ向けて、目の前にある課題に真剣に向き合う所存です。今から50年前、私たちの同僚がバングラデシュに足を踏み入れた時の風景と熱意を思い浮かべながら、心に誓います。

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