【TICAD30年】アフリカの若者の力を最大限生かす:アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)ナルドス・ベケレ=トーマス長官に聞く

2024.03.28

アフリカのオーナーシップを大切にするTICADにとって、アフリカ連合の開発実施機関であるアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)は重要なパートナーの一つです。2014年から業務連携協定を結ぶJICAとAUDA-NEPADは、2023年11月にAUDA-NEPADの本部がある南アフリカ共和国で年次協議を開催。現地で協議に参加した安藤直樹JICA理事が、TICADプロセスにおけるこれまでの成果、そしてAUDA-NEPADが推進する取り組み「エナジャイズ・アフリカ(アフリカを元気に)」を通じたアフリカの若者の力を生かした開発などについて、ナルドス・ベケレ=トーマス長官に聞きました。

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ナルドス・ベケレ=トーマス アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)長官

産業の高付加価値化、若者の活用、農業生産性の向上が大きな課題

安藤理事:
本日、AUDA-NEPADとJICAの年次協議を、始めて南アフリカの地で開催できました。午前の会議でも率直な意見交換をさせて頂きましたが、改めて、AUDA-NEPADの長官として、現在、アフリカが直面している最も深刻な課題について、どのように考えているか教えて下さい。

ベケレ=トーマス長官:
まずは、この10年を振り返ることからお話ししたいと思います。アフリカ連合は2013年に今後50年のアフリカの成長に向けた長期ビジョン「アジェンダ2063」を立ち上げました。アフリカが望むアフリカ主導の自立や強靭性や統合などの考えに基づき、アフリカの人々の幸福を実現する包括的な開発計画です。これは、アフリカが2000年を目標にアフリカ共同市場の設立などを目指した「ラゴス行動計画」が実現に至らず、開発に向けたアフリカ域内のパートナーシップがうまく進んでいなかったことなどが発端でした。

「アジェンダ2063」の開始から10年が経ちました。10年間の本開発計画の進捗状況を詳しく検証した結果、すでに約4割が達成され、大きな成果をあげていることがわかりました。他方、「アジェンダ2063」のさらなる実現のため、今後アフリカが乗り越えていかなくてはいけない課題が大きく3点あります。

1点目は、アフリカは豊富な資源や農産物を原材料のまま、付加価値を付けることなく輸出しているため、貿易で得られる利益が限られていることです。この状況を変えるためには、工業化が鍵になります。加工や製造を通じて、高付加価値化した商品を輸出することができれば、アフリカの経済成長を大きく後押しすることができます。

2点目は、アフリカの人口増加です。若者の人口急増は人口ボーナスにもなりますが、社会変革に統合できなければ、アフリカだけでなく世界にとっても脅威になります。アフリカは人口の6割が若年層です。若者、特に若い女性をエンパワーメントし、社会の変革に組み込み、経済に貢献できるようにすることはとても重要です。

3点目は、アフリカ経済を支える農業の生産性が低下し、生産量が人口増加のペースに追い付いていないことです。そのため、農業生産性の向上や生産量の増加に向け、技術の活用やインフラ整備などが必要です。

また、このような社会経済分野の課題に加え、大きな脅威となっているのが気候変動です。アフリカから排出される温室効果ガスは、世界全体の4%にも満たないものの、その悪影響に伴い多大な損失や損害を受けています。そのため、アフリカは、この不公平な状況を是正するために世界各国とのパートナーシップや、気候変動による影響に耐えうるような回復力を高める協力を求めています。

日本は誠実で率直な議論ができる忠実なパートナー

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アフリカ・インフラ開発の10年の実績レポートの完成を祝うベケレ=トーマスAUDA-NEPAD長官と堀内俊彦AU日本政府代表部大使(当時)

安藤理事:
これらの課題解決は、決して容易なものではありませんが、同時に大きなチャンスとも言えます。私たちはTICADを通じて、常にアフリカとのパートナーシップとアフリカのオーナーシップの重要性を述べてきました。長官ご自身は、これまでのTICADにおけるプロセスをどのように評価していますか。また、課題解決に向けたTICADへの期待を教えて下さい。

ベケレ=トーマス長官:
TICADプロセスは、アフリカと日本の協力の歴史に基づいています。日本はアフリカに対して率直な議論ができる誠実なパートナーであるという姿勢が、TICADプロセスの根底にあります。アフリカが世界の他の国々との関係に疑問を抱いていた時、日本政府は、公平なパートナーシップの下に、アフリカと共に開発を進める姿勢を示してくれたのです。そして、TICADプロセスのテーブルには、日本だけでなく、アフリカの開発を支える他のパートナーも加わり、素晴らしいチームとなりました。

また、TICAD開始以降、開発実施機関であるAUDA-NEPADの設立だけではなく、アフリカ域内の貿易自由化を促進するAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)、またアフリカCDC(疾病予防管理センター)など多くの専門機関が、アフリカ大陸の統合に向けた強い思いから生まれています。

TICAD開始から30年を機に、AUDA-NEPADとJICAは、これまでの連携を振り返り、さらに協力を深めていくことで認識を共有しています。TICADはアフリカにとって、「アジェンダ2063」と「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を追求する一つのプラットフォームなのです。

安藤理事:
JICAとAUDA-NEPADは、どちらも開発の実施機関であり、我々の連携はさまざまな具体的な成果を生み出してきました。日本やTICADプロセス、またJICAとの取り組みの特徴について、どのようにお考えですか。

ベケレ=トーマス長官:
まずは、日本がこれまで果たしてきたアフリカ開発への貢献に対し、心より感謝の意を表明したいと思います。その中でも、 JICAとAUDA-NEPADとの間の協力関係は、誠実な信頼関係に基づく真のパートナーシップと呼ぶべきものであり、他のドナーがAUDA-NEPADと連携する際に模範とするべき関係だと考えています。さまざまな協力が具体的でインパクトのある成果を生み出しています。

例えば、JICAは、AUDA-NEPAD が進める「Home Grown Solutionsアクセラレータープログラム(HGS)」を、その立ち上げから協力しています。これはその名前の通り、アフリカ発の製品やサービスでアフリカの課題解決を目指す現地民間企業への支援プログラムです。アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)においては、通関や出入国などの手続きを一か所で行えるようにする「One Stop Border Post(OSBP)」の導入や、JICAが進めている経済回廊の整備などの経済開発を支えるインフラ整備も重要です。また、日本式の品質・生産性向上の手法を取り入れた製造業でのカイゼンを普及するアフリカ・カイゼン・イニシアティブは、若年層の人材育成において大きな成果をもたらしています。

日本の支援の特徴として言えるのは、事業内容が具体的で人を中心とした協力だということです。だからこそ、人々のニーズがある場所に届き、人々の生活向上につながります。これはとても重要なことです。もう一つの特徴は、日本は、アフリカに関する重要な問題に対処するため、各国政府や関係機関との連携に向け、中心的な役割を担っていることです。例えば、南スーダンのように、さまざまな問題を抱えながらも人々が協力を必要としている国で、人間中心の協力を続けていることは、とても素晴らしいことです。

アフリカの計画とアジェンダ2063の実現に向けて、さまざまな関係機関を巻き込むためのプラットフォームとして、TICADプロセスが今後も役割を果たしてくれることを期待しています。

若者が輝くアフリカの未来に向けて

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2023年にエチオピアで開催されたカイゼンの年次総会にてJICAおよびAUDA-NEPAD他関係者

安藤理事:
人間中心の開発は、JICAの協力の基本姿勢であり、AUDA-NEPADとも共通しています。AUDA-NEPADが現在、推進する取り組み「Energize Africa(エナジャイズ・アフリカ;アフリカを元気に)」は、特に若者を中心に据えた開発目標と伺っています。JICAの取り組みとも親和性があるこの「エナジャイズ・アフリカ」では、どのようなことを達成したいとお考えですか。

ベケレ=トーマス長官:
これまでお話してきたように、アフリカは人口が増え続け、その人口の6割が若者です。しかし、アフリカでは、毎年多くの学生が学校を卒業しても仕事に就くことができない状況です。さらに学校を卒業できず仕事にも就けない若者も多いです。このような若者をどのように社会経済の変革に組み込んでいくか、その課題の解決に向けた取り組みが、エナジャイズ・アフリカです。若者のエネルギーは大陸のエネルギーであり、それを無駄にしたくないのです。

このエナジャイズ・アフリカは、アフリカの経済成長や発展の推進力として、若者によるイノベーションや創造性を活用することに焦点を当て、同時に、起業や雇用創出などにより、若者の収入機会の拡大を図ります。その一環として、アフリカの開発を進める上で必要なイノベーションを促進させる拠点の整備を進めます。各国政府やJICAを含むさまざまな機関による支援により、アフリカには、現在このような拠点が約2900か所設置されています。今後、それぞれがきちんと機能しているかどうか、他国の基準も参考にしながら明確にしていくことも必要です。このプロセスにおいては日本の技術やアプローチを参考にできたらと考えています。このイノベーション拠点を活用する若者主導のスタートアップは、HGSに参加する企業からの支援も受けることができます。

このように、さまざまな取り組みを結集してスケールアップさせることにより、アフリカの若者をエンパワーメントし、効果的な方法でアフリカと若者たちの将来の発展に向けた道を切り開く活力を与えることができます。

安藤理事:
長官の若者に対する強く、心のこもったコミットメントはとても印象的で、心を打たれますし、個人的にも尊敬させられます。アフリカの若者への支援を推進するのは、長官ご自身の経験にも影響されているのでしょうか。

ベケレ=トーマス長官:
まずは、私自身が母親であることが関係しています。母親なら誰だって、自分の子どもたちの幸せを願うし、不幸であったり、社会の生産プロセスに取り込まれなかったりすることを望まないでしょう。その思いから、私は若者のエンパワーメントに情熱を注ぐようになったのです。

しかし何より重要なのは、これまで約40年間にわたり、私が国連機関のさまざまなポジションで、主に若者の起業、エンパワーメント、雇用を中心に仕事をしてきたことだと思います。この経験から、最も重要なリソースは人的資本であると考えています。教育も重要ですが、それと同じくらい重要なことは、若者が社会経済の変革から孤立しないようにすることです。それによって若者が積極的に自らの社会に対して貢献できるようになると同時に、さまざまなリスクや悪影響にさらされたり、反社会的な行動に及んだりすることを阻止できるようになります。

内戦直後のウガンダで、民間セクター政策アドバイザーに従事していた時は、特に若者の起業や民間企業の支援に取り組みました。そのような仕組みがなかったからです。この過程を通じて、若者の起業を支援することは、国の経済発展に向けてとても重要であることがわかりました。

このように私はこれまでのキャリアの中で、若者という人的資源をいかに活かすかということに注力してきました。若者は私たちの子どもや孫のような存在です。親として、子どもや孫が自分たちよりも幸せで尊厳のある生活ができることは、最も嬉しいことではないでしょうか。それと同じように、次世代を担う若者の未来をより輝かせることを、すべてのコミュニティ、国の目標にするべきだと、私は考えています。

安藤理事:
若者はアフリカの将来にとって大変重要な存在です。私たちJICAも若者の活躍こそ、これからの開発協力の鍵になると思っています。同じ考えを持つ長官と一緒に、さらに連携を強化し、共に取り組んでいきたいです。本日はどうもありがとうございました。

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インタビュー時の様子(左:安藤JICA理事)

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