事例紹介 中国「円借款事業事後評価業務:北京第9浄水場3期建設事業、貴陽西郊浄水場建設事業」

広島大学 大学院国際協力研究科助教授 金子慎治氏

事例概要

JBICでは、開発途上国における開発成果を向上させるため、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を活用しており、円借款事業の各段階において、事前評価、中間レビュー、事後評価、事後モニタリングを実施しています。

JBICはこうした評価業務において、大学の専門性を活かした取組みを実施しています。具体的には、大学が蓄積している理論面や実証面の知見の活用が期待される円借款事業の事後評価については、委託先を大学に限定して外部評価者を選定しています。個別の事業の事後評価については、国際的な評価基準である開発援助委員会(DAC)の5項目評価(妥当性、効率性、有効性、インパクト、持続性)に加えて、評価対象事業の特徴をふまえて、大学の知見を活用した特定テーマに関する評価を実施しています。

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貴陽西郊浄水場建設事業の導水管を視察

その一例として、既に完成した中国の「北京第9浄水場3期建設事業」と「貴陽西郊浄水場建設事業」の事後評価を広島大学に委託し、同大学大学院国際協力研究科の金子助教授らが、外部評価者として調査を行っています。金子助教授らは、アジアにおける都市の土木環境システムの専門家であり、これら2つの上水道事業について、DAC5項目評価に加えて、北京市と貴陽市の水循環システムの検討を特定テーマとした評価を実施しています。

先生の声

広島大学大学院国際協力研究科(IDEC)では、開発途上国が貧困、環境、食料、武力紛争といった地球的規模の複雑、かつ困難な問題に直面していることをふまえ、各問題領域の専門的な知識に加えて、各国の地域固有の文化や環境を大切にし、望ましい開発の方向や国際協力の在り方を総合的に判断できる能力を身につけることを目標に、さまざまな国籍、専門分野、年齢の学生が学んでいます。

私は、開発途上国の土木環境システムを専門分野としており、環境関連の研究所等の勤務を経て、2002年より、IDECに勤務しています。広島大学は2004年にJBICとの間で協力協定を締結し、JBICとの連携を進めていくなかで、円借款事業の事後評価における大学連携の取組みを知りました。

現在、事後評価を実施している中国の2つの上水道事業は、私の研究分野と一致しており、特に都市における水循環システムの検討という特定テーマに対し、自身の専門知識を大いに活用しています。

今回の評価業務を通じて、個人的には、国際協力の現状を体感できたことが一番の成果だと感じています。また、中国政府の関係者等、多くの方々と面識を持つことができたため、これらの人的ネットワークを将来の教育研究活動に役立てたいと考えています。教育者の立場としては、円借款事業の現場での体験を活かして、学生に対して、生きた開発事業を題材とした指導ができるようになったと感じています。

最後に、大学とJBICが評価業務において、より有意義な連携を実現するためには、大学側は評価業務を研究・教育に活かす努力を、JBIC側は研究者の視点による提言をより良い円借款業務につなげられるよう、双方が柔軟な発想をもちながら緊密に協力していくことが重要だと思います。

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貴陽市の深刻な水不足に対応する貴陽西郊浄水場

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視察先で情報収集を行う金子助教授(右から2番目)