スタディグループ活動(SGA)を実施しました

2011年3月31日

【写真】

NAPE教官や校長も参加し授業後の議論に熱がこもる

本案件では、バングラデシュ全国に57校ある小学校教員養成校(PTI)を10のクラスターに分け、その各々のクラスター内のPTI校長や教官が、授業研究の手法を取り入れながら指導能力を向上させると共に、お互いに支援しあえるPTI間の教員支援ネットワークを構築することを目指しています。このネットワーク構築のために本プロジェクトが導入した仕組みの一つが「スタディグループ活動(SGA)」です。これは、1-3月に初等教育アカデミー(NAPE)で実施したPTI校長研修やPTI算数・理科教官研修(前回までのプロジェクトニュース参照)で繰り返し述べた「横の連携強化」を実践する活動で、各PTIクラスターの中心校で年度毎に2、3度の実施を予定しています。

その幕開けとなる第1回SGAを、3月31日に、首都周辺のPTIで構成されたダッカ南PTIクラスター(中心校ガジプールPTI)と、バングラデシュ南東部のPTIからなるチッタゴンPTIクラスター(中心校チッタゴンPTI)の2クラスターで行いました。ちなみにチッタゴンはベンガル湾に面したバングラデシュ第二の都市です。筆者(河原)は活動の招集指示が出されてから活動実施までの間、SGA実施支援のためガジプールPTIにおりましたので、ダッカ南PTIクラスターでの活動に焦点を当てて報告致します。

本活動では宿題として各PTI教官が同一の単元で指導案を作成する事になっており、参加した算数教官は『帯分数』、理科教官は『金属と非金属』についての各自の指導案を作成しました。私はガジプールPTIで5日間ほど教官らを観察していましたが、たとえ教官が本活動への意欲を示していたとしても、教官としての通常業務に追われて指導案作成にかける時間が確保できないという様子が伺えました。

【写真】

ルーブリックに沿って授業案を選出する理科教官達

活動日当日は、まず、各PTI教官が本技プロで開発したルーブリック形式の評価シートを利用して各々の指導案を互いに評価し、その中で最も得点が高いものを選出しました。持ち寄られた指導案の中には前フェーズの成果物である教育パッケージの知識の活用も見られました。また、理科のクラスで選出された指導案は、作成された指導案に沿って予行演習を行ってきたという教官のものでした。に、参加したそれぞれの教科の教官全員で選出された指導案に沿っての教具の作成や授業改善を行いました。このセッションの算数のクラスは白熱した時間となり、教官達は『この絵よりも、このように教科書に近づけた絵を描いた方が生徒はより理解し易くなると思う』、『説明はこう変えた方が良いのではないか』といった各々の意見を熱くぶつけ合っていました。その後、いつまでも議論が続きそうだった話し合いをなんとかまとめ、PTIのC-in-Edクラスに移り実践授業を行いました。

【写真】

金属と非金属の違いを紹介するカエシュさん

理科の実践授業は次のような内容でした。まず、教官が今回の授業がどのように有用なのかを語ります。次にPTI訓練生を生徒に見立てて模擬授業を行い、訓練生にまず金属と非金属の違いについてはどんな違いがあるだろうかと問いかけます。そこで訓練生から出された意見を黒板に板書していき、その後、教官が金属と非金属の違いについて説明を加えます。そして、実際にそれらの知識が正しいのかを、小グループに分かれて実験を通して確認します。最後に、この授業を現場で実践する意義を議論する、そのような流れでした。バングラデシュのPTIでは、教官が高校卒業以上で中には教育現場で何年も働いていた経験を持つ人も少なくない訓練生達を小学生の様に扱い、各教科の内容を子どもに教えるようなやり方で教える授業が頻繁に見られます。確かに、訓練生の教科に関する知識には個人差が大きく、単元の内容を正しく理解させる必要があるという背景もあります。しかし我々のプロジェクトでは、訓練生を一教師として扱うよう、またそうした授業をPTIで実施するよう提案し、その実現に向けて様々な取り組みを行っています。

授業実践の後は、今回の授業で良かった点の具体的な提示と、より良い授業にするための代替案を基にして議論を行いました。算数のクラスではNAPE教官が熱く語ったため、PTI教官の意見を聞く時間が少なくなってしまいましたが、授業の質を改善したいという気持ちの伝わってくる空間が生まれていました。最後は時間に追われながらも、次回行う単元を選出して今回の活動の閉会式を行い、収穫ある活動となったことをそれぞれが確認し合いながら第1回SGAを終了しました。

全体を通して見ると、算数のクラスはそれぞれのセッションで議論に熱くなり時間を忘れてしまっていましたが、理科のクラスは時間に忠実に滞りのない活動を展開するといった、教科ごとの進行に大きな差が見られました。その差は進行役の教官に因るところが大きかったように見受けられ、進行役の重要性を感じました。また、参加者からは今回の授業研究の活動スタイルを肯定する発言も出されているのが印象的でした。実際に現場の先生方と話してみると、教育学的な話をする前に、教科知識の段階の話を行う機会も数多くあります。そんな中で教官達がSGAのような教育活動に参加する度に、生徒を中心に据えた発言の占める割合が増える等、個人個人の授業に対する考え方が確実に変化していると感じます。この次は5月にスタディーワークショップ(SW)というPTI教官と小学校教員との間の縦の連携強化を図ったワークショップを実施する予定です。そこではPTI教官が今回の活動に刺激を受けた発言や、教育現場の先生方の課題を共同で解決するための発言が聞けるのではないかと楽しみにしています。

文責:インターン 広島大学 河原 太郎