FFS卒業生に聞く −FFSでの経験とその後−

2016年3月31日

首都アジスアベバから南東に約100キロ離れた村に、とてもにぎやかな畑があった。その畑には、旬の葉物野菜やイモ、マメが育ち、そのかたわらにはマンゴーやパパイヤの樹が植わっている。畑まわりには、牛やヤギのエサとなるエレファントグラスも茂っていた。

この畑のあるじは、オロミア州東ショワ県リベン・チュカラ郡のアディス・ガダーさんだ。雨季と乾季がはっきりと分かれるこの地域に暮らす農民の多くは、農業と牧畜を合わせた複合農業を行ない、生産する主な農産物は雨季の小麦や雑穀のテフなどに限られている。ガダーさんの暮らす村やその周囲では、住民たちによる無計画な木々の伐採のため、土壌侵食が深刻化している。

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自身の畑を前にインタビューに答えるガダーさん

「バカダの前、ぼくの畑の様子はまったく違っていたよ。」と、ガダーさんは言う。
バカダ(BQD)は、成人を対象とした参加型の普及手法の一つである、ファーマー・フィールド・スクールズ(FFS)を、現地のオロモ語に訳した言葉だ。FFSでは、参加者グループのひとりから畑の一部を提供してもらい「ホストファーム」にする。特別にほ場を用意せず、ごく一般的な農家の畑をホストファームにするのは、「この畑でできるなら、自分でもできる」と参加者に実感してもらう狙いがある。参加者たちの家から近いため、生育の経過も細かく観察できる。参加者は、1年かけてホストファームで協働作業を行い、様々なその地域に必要な技術を学ぶ。ガダーさんの暮らす村では雨による土壌の流出が問題であるため、土壌流出の防止技術の一つであるアグロフォレストリーの技術について学んだ。

1年間のFFSでの経験を通して、ガダーさんの意識は確実に変化した。「バカダで、自分も新しいことに挑戦できるということを学んだよ。まずは、苗畑から始めた。育苗を習う前は、何をどうしたらいいのか分からなかったし、やってみようとも思わなかった。他にも、ホストファームで実践したことは自分の畑で全部やってみた。今まで試していなかった野菜作りも始めたし、キマメは目的によって2区画に分けて、家畜用と家族の食料用として植えている。畑に自分で井戸を掘って水を引いたし、その他にも色々と考えて工夫しる。いまも、新しい作物を小規模な面積で、どんどん試しているんだ。うまくいったものから、面積も広げているよ」と、嬉しそうに話してくれた。

FFSを経て、ガダーさんの活動は広がった。「苗木づくりが上手くいっている。少しずつだが苗木をほしいという近所の人もでてきた。今後、もっとたくさん育てて販売したい。」

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ガダーさんが生産した苗木と手動式の浅井戸

リベン・チュカラ郡ではこれまで、植樹をする人はいても、自分で苗木を生産する家庭はほとんどなかった。しかし、ガダーさんはFFSで多くの経験を積んだいま、500本以上の苗木を家庭で生産しながら、様々な作物も育てている。FFSで知識と自信を身につけたガダーさんと畑はこの先、どんなふうに進んでいくだろう。とても楽しみだ。