アシャンティ州重点11郡での活動の総括セミナーの開催

2021年12月7日

ガーナヘルスサービス(GHS)は、2018年に母子手帳を展開するモデル郡として、アシャンティ州の11郡を選定しました。プロジェクトでは、990人のヘルスワーカーに対する母子手帳や栄養カウンセリングの研修、研修後に医療施設を定期的に訪問して実施したモニタリングとコーチング、体重計、身長計、ヘモグロビン測定器などの機材の寄贈も行いました。また母子保健と栄養に関する重要なメッセージを地域住民全体に広めるために社会・行動変容コミュニケーション(SBCC)の活動も支援しました。

2021年12月6日、アシャンティ州クマシにて、重点11郡を対象に、プロジェクトの活動総括セミナーを開催しました。重点11郡に加え、ベースライン・エンドライン調査のためのコントロールとして選ばれた3郡の郡保健チーム(郡保健局長や郡ファシリテーターとして活動した保健師、看護師、栄養士など)、アシャンティ州の州保健チーム、アシャンティ州での活動を牽引した齋藤専門家や萩原CAとプロジェクトのナショナルスタッフ、総勢89名がセミナーに参加しました。このセミナーはアシャンティ州における最後のプロジェクト活動の一つとなりました。セミナーの目的は、11郡の成果を総括することと、11郡の好事例や教訓を収集することでした。収集された成果や教訓は、母子手帳プログラムを州の11郡以外の地域や、他州、他国にも展開、共有するための貴重な情報にもなり得ます。また、セミナーの最後には、州保健局長とプロジェクトのチーフアドバイザーが、郡保健チームやファシリテーターなどの功労者を表彰しました。

アシャンティ州州保健局長のエマニュエル・ティンコラン局長は、開会の挨拶で、すべてのスタッフの功績を労い、またJICAによるアシャンティ州への集中的な支援に感謝しました。局長は他の地域や海外の関係者がアシャンティ州を訪問して、11郡の経験から学ぶことができるよう、好事例をお手本(ショーケース)として維持するように郡保健チームを鼓舞しました。アシャンティ州の公衆衛生担当副局長であるロックソン・マイケル・アジェイ氏は、州に対するJICAの協力に感謝の意を表し、母子手帳による栄養カウンセリングが、この地域の女性や子どもの栄養不良を解決するための効果的な手段であったと述べました。

萩原CAは、全国展開とアシャンティ地域の11の重点郡におけるプロジェクトの成果を発表し、11郡では、プロジェクトが想定したほぼすべての指標において著しい成果を上げたことを賞賛しました。また、ベースライン調査およびエンドライン調査の結果についても説明し、コントロール郡がベースライン時に良い指標でスタートしたのに対し、介入郡では指標がより改善し、いくつかの指標ではさらに高い数値を達成したと報告しました。

重点11郡では92%の母子が産前、出産、産後ケアのサービス(COC)を切れ目なく受診することができ(COC完了率)、母子手帳導入前には、記入率が低かった出生体重の記録がプロジェクト開始前の41%から98%に、産後ケアの記録は24%から77%に向上しました。99%の母親が栄養カウンセリングを受け、98%の母親がカウンセリングで指導された内容を復唱できることもモニタリングで確認されました。プロジェクトによる重点的な介入(ヘルスワーカー研修、コーチング、機材供与、住民啓発活動の支援)を受けた郡と、母子手帳の配布と郡講師研修のみを支援したコントロール郡の比較を行ったベースライン・エンドライン調査の結果、介入郡で、母子継続ケアが推進され、更に6ヶ月間の完全母乳育児率が介入郡で43%から67%に向上したことなどが確認されています。

州栄養士のオリビア・ティンポ氏は、重点11郡での活動を振り返り、成果と教訓を総括しました。オリビア氏の報告を受け全体で話し合い、母子手帳を有効活用して質の高い母子継続ケアを提供するためには、継続的な能力強化やモニタリング、サービスを提供するために最低限必要な機材の供与などがパッケージとして行われる必要があることが確認されました。特に母子手帳とともに新規に導入した技術である小児身長測定や栄養カウンセリングについては、その能力が発揮されるためには研修だけでなく、現場でのコーチングが必須であることも明らかになりました。身長を正確に測定し、成長曲線上にプロットして、成長が順調であるか判断すること、判定した結果を母親や養育者に正確に伝えること、順調でない場合は、追加の検査や治療を行うこと、など、一連の流れを実現させるためには、研修だけでなく、研修後の現場での支援、コーチングが必要でした。更に、研修を受けたスタッフが移動や離職することも多く、能力の維持が大きな課題となっていました。そのため、新規スタッフにも適切な導入研修、オリエンテーションや引継ぎが行われるよう州郡保健局が各医療機関に徹底することも重要でした。この教訓は、母子手帳プログラムのとどまらず、すべてのプログラムに共通する課題です。各施設において定期的にオリエンテーションや引継ぎを行うことは、質の高いサービス提供に寄与します。

重点11郡からは、研修や研修後のコーチング、住民の協力も得て実施した地域啓発活動の結果、母親の受診行動や、家庭でのケアが向上したことなど、プロジェクトの成果が次々と報告されました。重点11郡の病院や一次医療施設においても、一人ひとりの母親に丁寧に向き合い、検査やカウンセリングを行うため、健診の時間や日程の調整、健診フローの改善、プライバシーに配慮した環境を整えるなど、様々な工夫がなされたことが紹介されました。母子手帳の導入とともに、産前健診、乳児健診でも栄養カウンセリングを行うことが国のガイドラインとして定められ、新しい健診のフローやアルゴリズムも提供され、プロジェクトではそのための研修も支援したのですが、いくつかの医療施設では、新しいフローチャートを施設の壁に掲示するなどしてヘルスワーカーに徹底するとともに母親にも周知していました。母親の多くは予防接種や体重測定が終わればカウンセリングを受けず直ちに帰宅しがちなので、母親にもカウンセリングサービスが追加されたことを周知する必要がありました。また栄養カウンセリングにおける母親の理解を助けるため、母子手帳だけでなく、食材サンプルや計量スプーンなど活用して栄養カウンセリングが実演型で実施された事例もありました。母親がカウンセリングに集中できるよう、使用済みのペットボトルなどを利用して子ども向けに手作り玩具を準備している施設もあり、創意工夫が見られました。

郡の資金で更なる追加研修が実施されたことも報告されました。プロジェクトでは母子保健・栄養に従事するすべてのスタッフ(990名)の研修を行ったのですが、研修後の移動や離職も多いようです。スタッフの移動や離職に備え、通常業務の中でも対応可能な研修やオリエンテーション、スタッフ間の申し送りの重要性が浮き彫りになりました。また、母子手帳不足も報告されました。母子手帳は推計妊婦数(前年度の妊婦健診登録者数)に基づき、各郡に配布されたのですが、州や郡の倉庫から施設への配布が滞ることもあったようです。推計妊婦数と実際の妊婦数と乖離があったこと、5歳未満児にも母子手帳を活用したいという需要が高まり、実際に1歳未満児だけではなく5歳未満児にも母子手帳を配布した施設があったこと、など、様々な要因がありました。

セミナーの最後には、州保健局とプロジェクトでは多くの困難を乗り越え、成果を達成した郡保健チーム、ファシリテーターの労を称え、功労者の表彰を行いました。多くの困難と成果を共有したアシャンティ州の関係者とプロジェクトスタッフにとって、アシャンティ州での最後のプロジェクト活動は心に残るセミナーとなりました。アシャンティ州州保健局長はじめ関係者が協力し、今後も地域の母子保健の向上に寄与するとともに、11郡の経験が全国にもそして世界にも広まることを願います。

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アシャンティ州州保健局長のエマニュエル・ティンコラン局長による開会の言葉

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アマンシ・ウエスト郡の成果を報告する郡ファシリテーターで郡栄養士のマリアムさん

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郡の好事例、成果の報告を聞く参加者

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州保健局長とプロジェクトから表彰を受けるアチュマ・クワウォマ郡保健局長のコンフォート氏
プロジェクト開始前の2017年の母子手帳パイロットテスト以来5年間、母子手帳の普及を支えた。斎藤智子専門家(向かって左)と萩原CA(向かって右)

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州保健局長とプロジェクトから功労者として表彰される州栄養士のオリビア氏

【画像】アシャンティ州でプロジェクト活動に貢献した参加者とプロジェクトメンバー