日本人指導教員のミャンマー訪問(その3)

2016年2月3日

プロジェクト初年度の2015年は、ミャンマー人博士課程研修員を受け入れている六大学指導教員12名がミャンマー側教授との面談や研究環境の視察のために訪緬しました。2015年12月に来訪した次の6名の教授をもって全指導教員が現地視察を終えました。

新潟大学味岡洋一教授、齋藤玲子教授(11月30日〜12月4日)

味岡教授は病理学長期研修員Dr. Aye Pa Pa Tunを、齋藤教授は微生物学長期研修員Dr. Khin ThuZar Htweを受け入れています。両研修員の出身校であるマンダレー医科大学を訪問し、学長Prof. Khin Maung Lwin、病理学科長Prof. Htay Hla、微生物学科長Prof. Cho Cho Oo等と面談しました。先方の学科紹介に続き、日本側両教授より新潟大学・各教室の研究紹介が行われ、長期研修員の研究テーマについても活発な意見交換がなされました。同大学の共同研究ラボが大変よく整備されていることに、ミャンマー来訪歴の長い齋藤教授も驚かれていました。また、病理学科長はマンダレー総合病院の検査部門長を兼務していますが、病院検査部も整理整頓がなされ、JICA無償資金協力による検査機器もよく活用されていました。

長崎大学組織細胞生物学小路武彦教授(12月6〜9日)

解剖学長期研修員Dr. Nandar Tunを受け入れている小路教授は、1980年代より30年近くミャンマー研究者への指導を続けてこられています。他方、解剖学者と会うのは今回が初めてであり、同研修員のミャンマー側教授であるヤンゴン第二医科大学解剖学科長Prof. Myint San Newと様々な意見交換を行いました。小路教授は、長期研修員は日本での博士号取得に困難を感じることがあるかもしれないが、これまでの人材育成の経験から必ず学位取得に導きたいとの意欲を語りました。また、ミャンマーの医療研究分野に造詣の深い小路教授から、保健省の縦割り体制により研究者の部局間の人事異動が困難なことや研究費割り当てが医学研究局(DMR)へ限定的である点など、長期研修員の帰国時を見据えて保健省に提言すべきことについて貴重な示唆も頂きました。

熊本大学分子生物学富澤一仁教授(12月9〜11日)

富澤教授は、薬理学長期研修員Dr. Ei Ei Monを伴ってミャンマーを訪問しました。ヤンゴン第二医科大学にて学長Prof. Aye Aung、薬理学科長Prof. Dr. Nu Nu Aye等と面談、共同研究ラボを視察し、また、そこでは修士学生への教育の現状を間近に見る機会もありました。薬理学科教室ではミャンマー側教員・院生全員と研究の紹介に続き、熊本大学博士課程大学院生となったDr. Ei Ei Monが自身の研究内容について発表を行いました。彼女は非常に緊張しながらも、日本とミャンマーの両教授からの厳しい質問に懸命に回答し、わずか8カ月ではるかに成長した姿は、同席した全員にとって非常に大きな刺激となったようであり、彼女にとっても今後に向けて一段のステップアップとなったようです。

金沢大学包括的代謝学篁俊成教授(12月14〜16日)

篁教授は生化学長期研修員Dr. Swe Mar Ooを受け入れており、ヤンゴン第二医科大学を訪問して生化学科長Prof. Kyu Kyu Maung(熊本大学にて学位取得)と教授Prof. Aye Thida等と面談しました。その後、今回の訪問の機会を活用し、ミャンマー人研究者40名程に対し「肝臓由来新規ホルモン(ヘパトカイン)」について講義を行いました。同講義にて示された研究内容がProf. Aye Thidaの専門分野と非常に近いことが分かり、長期研修員を含めた双方での研究交流推進について議論が進みました。また、篁教授は基礎医学の研究者であると同時に内分泌・代謝内科の臨床医でもあることから、臨床に役立つ研究を行うべきといった内容についても活発な意見交換がなされました。

岡山大学細胞生理学松井秀樹教授(12月22〜25日)

松井教授は生理学長期研修員Dr. Hein Min Lattを受け入れています。同研修員の修士課程教官であったヤンゴン第一医科大学生理学科長Prof. Ohn Marと面談し、研修員の研究テーマであるオキシトシンについて協議しました。その後、研修員の出身校であるマンダレー医科大学生理学学科Prof. Aye Aye Theinを訪問し、「脳腫瘍の治療方法としてのBNCT(Boron Neutron Capture Therapy):ホウ素中性子捕捉療法の研究」について講義を行いました。生理学と腫瘍学の教員・学生及びマンダレー総合病院腫瘍科医師など約50名が出席し、初めて聴くテーマであるにもかかわらず教授・准教授や腫瘍科医師から活発な質問が出され、松井教授としてはしっかりした手応えを感じたようでした。また、同大学図書館はWiFiが整備され、他の医科大学の一歩先を行く感がありました。

これら訪問を通じて、ミャンマー人基礎医学研究者12名の4年間をかけた養成に向けて、日本側受入先教授とミャンマー側担当教授が互いに知り合い、それぞれの専門分野の向上に資する人材育成について議論を交わすことができました。政権交代を間近に、医学研究に必要な環境・予算を改善しようとするミャンマー側自助努力に対し、本プロジェクトを通じて日本側も必要な提言を行いながら側面支援を続けていきたいと思います。

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斎藤教授(右)、味岡教授(中央)、マンダレー医科大学学長(中央左)

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マンダレー医科大学共同研究ラボの前で味岡・斎藤教授(中央)

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小路教授とヤンゴン第二医科大学解剖学教授

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ヤンゴン第二医科大学の修士学生講義を視察する富澤教授(中央)

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ヤンゴン第二医科大学での篁教授の講義

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マンダレー医科大学生理学教室で松井教授(右端)