教育体制の中に不就学児童・若者向けのオルタナティブなアプローチが定着することを目指して

2021年11月10日

前号Vol.1でご紹介した連邦直轄領における「カリキュラム・教材編」ですが、パキスタン最大の人口を誇るパンジャブ州においても同様の動きが進んでいました。

ということで本日ご紹介するのは「改訂版カリキュラムの公式発表・パンジャブ編」についてです。

不就学児童の中でも、特に学齢期を過ぎてしまった子どもや若者向けの速習型学習プログラム(ALP)のカリキュラムが、連邦政府が打ち出しているSingle National Curriculumとの整合性をもって改訂(初等教育版)され、本プロジェクトのメインオフィスがある古都ラホールを州都に持つパンジャブ州でも2021年に完了、パンジャブ州カリキュラム・教科書委員会から正式に承認されました。そして2021年11月10日、改訂版カリキュラムの完成発表会がラホールで準備され、パンジャブ州識字大臣、識字局次官をはじめとするノンフォーマル教育(NFE)関係者が集まりました。

連邦政府が提唱するこの学校教育向け新カリキュラムには、今までプロジェクトで推奨してきた、Phonicsと呼ばれる音で文字を認証して覚える方法や、よりアクティビティを活用した学び方などが多く取り入れられています。また、これまでNFEで使われているねずみの昔話で引き算を覚える方法などが、新カリキュラムに採用されていたりと、NFEのアプローチが学校教育で多く活用されているものになっています。

会合の目的は、関係者に対するALPカリキュラム改訂についての公式発表により、利用開始を周知することです。同時に、NFEの中でもALPの利点について改めて共有認識を持つ狙いがあります。

人口世界第5位、世界ワースト2位の不就学児童を抱えるパキスタンにおいて教育を受けることの出来ない背景は多岐に渡ります。

・学齢期を過ぎていて、学校では受け入れてもらえない子ども・若者、大人
・スラムの子ども達
・地域に学校がない、あるいはあっても女子トイレなどがないので行きづらい地域に暮らす子どもや若者
・障害があるので、遠くの学校に通えない子ども
・女子・女性
・アフガニスタンからの難民や国内避難民(IDP)
・国籍を持たず公教育を受けることの出来ない子ども達
・働いている子ども達や若者、などなど…

そんな中、多種多様な要素に対して高い親和性を纏うALPの仕組みは、公教育にてサポートしきれず、取り残されてしまいがちな対象者に対し、セーフティネットの役割も果たしているとも言えます。

改めてALPには以下のような特色があります。

・複数の科目要素を組み合わせ、複数の学年をまとめたアプローチによる学習期間の大幅短縮 (幼児クラスと5年間の初等教育を、3つのパッケージで約3年程度で習得することができる)
・学習者の生活する環境にマッチしていて、かつ生活に役に立つ学習内容
・公立学校の暗記中心から、アクティビティを中心とする考える授業方式
・公教育では対応できない学習者の環境や状況にあったフレキシブルなアプローチ(あらゆる年齢・学習時間や場所の多様性など)

ALPを進める本プロジェクトは、従来のJICA技術協力プロジェクトではあまり見かけない規模とスピード感を持って国連機関を含むその他ドナーとも連携しています。さまざまな連携の機会を通して、様々な関係者のNFEのアプローチへの意識を高めることで、パキスタン全体におけるNFEとその方法論であるALPの価値と有効性が指数関数的に高まってきています。

今回の公式発表の会場にも政府関係者にとどまらず、国連機関、NGO関係者や学術研究機関のアカデミック関係者も含まれています。

ALPに対する意識向上を高めつつ、パキスタンにおける既存の教育体制の中のアプローチの一つとして認証され定着されることを目指し、プロジェクトは前進していきます。今後、改訂カリキュラムにそった学習教材が子ども達にしっかり利用されていく様子もプロジェクトニュースではお届けしていく予定です。

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プロジェクトチーフアドバイザー補Abid氏による説明

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プロジェクト総括・大橋専門家によるALP解説

【画像】改訂カリキュラムのお披露目(識字大臣も参加。右から2人目)