台風災害から立ちあがる人々−ココヤシ炭作り、そして野菜栽培−

2015年12月22日

台風ヨランダ被災前には、プロジェクト対象地域を含むRegion8は国内第3位のココナッツ生産地でした。フィリピンココナッツ庁(PCA)によると、42万haに46百万本のココヤシが植えられ、1.7百万人がココナッツ絡みの産業に関わっていたとされています。また、ココヤシの下での野菜などの間作も地域住民にとって貴重な収入源になっていました。

しかし、台風ヨランダによって、15百万本のココヤシが生産不能、さらに20百万本が大きな損傷を受け、農家は主要な収入源を長期的に逸失する状況に陥ってしまいました。ココヤシの苗木は、植えてからココナッツを収穫できるまで、早いもので3年、長いもので8年以上かかるといわれます。

これまで対象地域では間作は一般的ではありませんでしたが、被災したこの機会にココナッツ庁は住民に対してココヤシ苗木を提供すると同時に、間作に適した定植モデルを推進するなど、農家所得の向上を目指しています。ココナッツができるまでの数年間、同地域のココヤシ農家の生計手段確保のために間作の普及も急務でした。

そこでプロジェクトでは、ココヤシの炭作りによる倒木の処理と同時に炭販売により住民の貴重な収入源を確保すること、倒木処理された土地に間作を導入し、持続可能な野菜栽培の技術指導を開始しました。

サマール州Mercedesの町で2つの住民グループが炭焼き及び間作活動に参加しています。グループメンバーの多くは女性です。調査団が試行錯誤の結果、現地で手に入る資材を活用した効率の良い炭焼きの方法を考案し、現地の人々を指導しました。生活の糧を得るために、住民は真剣に炭焼きに取り組みました。その結果、初めてできた炭を周辺の人に販売する場面に遭遇することができました。「ありがとう!」と購入者に歓声を上げる女性の明るい姿が印象的でした。その後、町役場の支援もあり、炭は市場で販売され、被災者の生計の助けになりました。

周辺の倒木がなくなった2015年7月からは、間作の指導が始まりました。

台風被災後、農家は喫緊の現金所得の必要に迫られ、被災後に政府機関などが提供する日雇い作業を優先せざるを得ない事情があり、畑の作業が遅れて、作物が枯れてしまう事がありました。更に当初、農家の間で「肥料は高価」と言うイメージが先行していたため、支給した肥料を指導通りではなく、全て株元に播いて苗を枯らしてしまう農家もいました。また、余分に着いた花芽を勿体ない、と切ることが出来なかったために、過繁茂になり樹が疲れて枯れてしまう事もありました。しかし、専門家の指導で根が伸びる位置へ肥料を播き、勿体なくても余分な芽を摘み取ることを覚えて、生育が改善する様子を見ることで、農家はやる気を高めていきました。こういった試行錯誤を繰り返しながら、農家は効果的な野菜作りに真剣に取り組み、限られた農具で畑を耕し、マルチシートの活用や肥料入れのタイミングなどを日本人専門家から学んでいます。ゴーヤ、インゲンなどは順調に生育し、自家消費に加え販売もされています。参加農家も「自分の土地がこんな畑になるとは想像できなかった。野菜作りは続けていく。」と意欲を見せています。これらの学びをもとに作った間作のマニュアルもできました。

最初は、農家の能力を過小評価していたMercedesの町役場の農業担当者も、日本人専門家と一緒に現場に行くうちに農家と知り合い、肥料を提供支援する等積極的に行動をするようになっていきました。今では農業担当者も「農家と一緒に頑張る!」といっています。復興の道程は長いですが、Mercedesの農家と町役場の人たちが一体となって、一歩ずつ前に進んでいます。

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完成した炭

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台風でココナッツが被災したため、放棄され、雑草に覆われたココナッツ畑

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農具がなくツルハシで土地を耕す農家

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雑草を刈り取り、ツルハシで耕した畑

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雑草に覆われていた農地が畑になった。写真手前はサツマイモとインゲン、奥はトウモロコシ栽培