台風に強い養殖生簀、女性組合によるミルクフィッシュ加工で地域復興を パート1−日本の養殖技術の現地最適化を推進−

2016年1月12日

Leyte島とSamar島に挟まれたSan Juanico海峡に位置するBasey海面養殖場は、年間約60万トンのミルクフィッシュ生産量を誇る地域屈指のミルクフィッシュ養殖の中心地でした。しかし、台風ヨランダによる高潮で養殖施設は壊滅的な被害を受けました。大破あるいは流失したボートは265隻、養殖筏は110基にのぼりました。

フィリピン政府は台風ヨランダ被災後、いち早く漁業復旧プログラムを立ち上げました。その一環として被災した漁民に漁のためのボートが供与されました。しかし、天然魚の量は年々減少し、水産資源の回復は漁業の発展にとって大きな課題になっていました。

フィリピンの他の島に導入されている日本で開発された浮沈式養殖生簀は、台風ヨランダの被害を免れました。浮沈式養殖生簀は高密度ポリエチレン製で、波浪に対する抵抗力と耐久力が高いといわれています。また、日本には同様に波浪に強い側張りを用いた養殖技術があります。

台風に強い浮沈式生簀は日本企業が特許をもつ技術です。プロジェクトでは、この技術を現地で最適化させるため、現地で入手できる資機材を工夫して活用及び維持管理指導し、台風に強い養殖産業と持続可能な漁民及び加工組合の育成、より安定した生計手段の確保を目指した、ミルクフィッシュ養殖支援を開始しました。

まず、浮沈式生簀の特許を有する日本企業の専門家が、現地で手に入る資機材を活用したフィリピン版浮沈式生簀の作成に取り組みました。専門家は工夫を凝らして、浮沈式及び側張りの生簀を現地で試作しました。例えば、筏を沈めるため日本では専用のコンプレッサーを使用しますが、現地では高価で手に入りにくいため、漁民の使い慣れた漁船エンジンで駆動するコンプレッサーを活用しました。また、浮沈装置には当初ステンレス製ノズルを使用していましたが、将来錆びるため、プラスチック製に交換するなどの工夫も重ねています。なかなか予定通りに進まない現地業者とのやり取りにも粘り強く取り組み、現地で浮沈式生簀が海面に設置されました。

日本人専門家は将来の台風に備え、漁民に浮沈式生簀の沈め方、作業に必要な潜水具の手入れの仕方など、日常的な維持管理を実地訓練しました。専門家と漁民は何度も何度も生簀を沈めては浮かべ、生簀の調整を繰り返しました。沈め方を間違えると台風への備えができませんし、生簀の中の大切な魚はすべて逃げてしまいます。

日本人専門家は「持続可能な養殖を実現するために、技術的な指導に加えて、養殖漁民組合の育成が非常に大切です。」と何度も強調しています。組合の収入分配、収益性の向上、運転資金を次の養殖の稚魚や餌代に割り当てる運営など、地元水産資源局や行政の担当者と共に、粘り強く漁民組合に働きかけています。

浮沈式の生簀の導入で、漁民は今まで経験しなかった問題にも遭遇しました。網が破れて穴が開き生簀の魚を失ったこともありました。原因は潮流の影響で網と生簀を支えるロープが触れた際、ロープについたフジツボがナイフのように網地を切ってしまったためでした。日本人専門家は漁民と一緒に一つ一つ問題を解決していきました。ロープの定期的な引き締めやフジツボなどの付着物を取り除くなどの日々の作業の地道な積み重ねが重要です。

現地の水産資源局職員と専門家は苦労して稚魚や餌の確保に奔走した結果、段階的に稚魚が生簀に入り、本格的にミルクフィッシュ養殖活動が始まりました。そして4ヵ月後には、出荷できるまでミルクフィッシュが育ちました。フィリピンで人気のある大衆魚ミルクフィッシュは地元でも一定の市場があります。

漁民と専門家が積み重ねた努力の甲斐があり、いくつかの生簀で大きく育ったミルクフィッシュの収穫が始まりました。待ちに待った瞬間です。台風ヨランダ被災後、漁民は再び養殖による収入を得ることができるようになってきました。今では、台風前よりも多い収入を得る漁民が出るまでになっています。

収穫できた生簀の数が増えると共に、漁民の意欲も上がっています。台風が到来すると漁に出ることができなくなり、外部地域からの入荷も減るため、魚の市場価格が上がってきます。2014年12月に大型台風ルビーにより、周囲の生簀は被害を受ける中、浮沈式生簀は無事でした。台風被災のリスクは、被害がなければ高値で収獲した魚を売れるチャンスに転換する可能性もあります。「今年こそは無事台風シーズンを乗り越えよう!」と漁民組合の人たちは話しています。

地域住民の収入の大半を占める養殖産業は地域復興のカギを握る重要な機会です。プロジェクトでは、持続可能な復興の取り組みが地域に根差すことを目指して、残り支援期間で飼育・給餌・収獲作業の改良のために必要な道具の製作資材を供与して、養殖の効率化や経費削減を図っていきます。

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浮沈式生簀によるミルクフィッシュ養殖

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うれしいミルクフィッシュの収穫

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収穫したミルクフィッシュ

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大きく育ったミルクフィッシュ