水産資源を再生させ、地域復興に取り組む パート1−環境に配慮した持続可能なカキと大衆魚ミルクフィッシュの混合養殖−

2016年1月25日

Leyte州Tanauan町の河口にあるSanta Cruse村は、河川からの栄養と外洋に面したLeyte湾の清浄な海流が得られるカキ育成の好適地で、昔から養殖カキの産地として知られていました。しかし、近年は収益性の高いフィリピンの大衆魚ミルクフィッシュの養殖が盛んになり、カキ養殖は縮小されていきました。ミルクフィシュの過密養殖による富栄養化により水質が悪化し、2012年には大量の魚が斃死しました。

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台風ヨランダ前、同地域では10世帯がカキの養殖、55世帯がミルクフィッシュのペン養殖(竹と漁網で浅瀬を仕切った養殖方法)を行っていましたが、台風の被害によりすべての養殖施設や資材を失ってしまいました。そこでプロジェクトでは、水質浄化作用のあるカキ養殖とミルクフィッシュとの混合養殖を支援し、生態的なバランスを保ちながら、持続可能な地域の生計手段確立による地域復興を目指しています。

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養殖場のミルクフィッシュ

台風ヨランダにより、養殖に使われていた竹竿、ココナツ倒木は海面下に散乱し、漁民が養殖のために使うボート航行の妨げになっていました。そこで、2014年7月に10日ほどかけて、本プロジェクトで収入手段を失った漁民たちを作業員として雇用し、「Cash for Work」により、養殖場に散乱していた竹竿やココナツ倒木を撤去することから始めました。これにより、漁民は安心してボートで航行できるようになりました。

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養殖しているカキ

がれき撤去後は、現地で手に入る竹やロープなどの資材を調達し、漁民が協力してカキとミルクフィッシュ養殖施設を設置しました。カキ養殖施設は全部で25基、ミルクフィッシュ養殖施設は全部で42基設置しました。
日本人専門家は、現地関連行政機関や漁民組合と行動を密にし、協議を繰り返し、養殖の再生に尽力してきました。漁民組合及びミルクフィッシュ加工グループの育成に加え、カキ種苗の確保のためLeyte州の北部から調達先を確保し、カキ採苗技術の指導、同地域のカキ加工品開発、販売促進支援まで行っています。
台風前のカキ養殖は、立てた竹竿に自然に付着し成長したものを収獲する採集に近い形態であったため、倒れて除去された竹竿と共に母貝も減ってしまいました。そこで、カキの生産地として知られたLeyte州北部の村から成長の早いカキ(日本のマガキと同じCrassostrea属)を稚貝として移植しました。カキ殻を連ねたカキ採苗器を導入し、協力してくれた村ではカキ稚貝の販売を新たに始めて、公共機関への販売を図っています。熱帯のカキは日本と違って周年産卵するため、採苗時期を問わずに稚貝を得られたのは幸いでした。

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採苗したカキ稚貝

カキの養殖は餌がいらないので、生産者はカキ棚に吊るした稚貝が成長するのを待つだけです。半面、カキは自然採集物として一般に認識されている面があり、伝統的な市場価格がとても低い(一個あたり一ペソ=約2.5円)という問題があります。また、多くの村人は自然は共有資産と考えているため、カキ棚から他の漁民が拝借してしまうなど、思わぬ問題も起きています。カキ生産を養殖として継続してくためには、カキ棚用の竹や稚貝を継続的に購入するための一定の投資が必要ですが、そのためにはカキが高く売れなければなりません。
2015年早々に始めたカキ養殖ですが、同年10月に入りようやく出荷できるまでに成長しました。台風前から行われていた口コミでの販売のみならず、プロジェクトからの指導で、地元レストランへの販路拡大も徐々に行っています。その尽力もあり、台風ヨランダ被災後に新規開店した隣町のレストランに一粒カキとして、より高価で出荷できるようになりました。このレストランのメニューには、生カキ、蒸しカキ、カキのチーズ焼きが並んでいます。「どれも新鮮でお客さんにおいしいと好評ですよ!」、とレストランの店員さんも話してくれました。

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カキ卸し先のレストラン店員さんたち

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レストランのメニュー:カキのチーズ焼き

出荷が始まったカキ生産者は、レストランに出荷する一粒カキの値段の高さ(一個あたり6.66ペソ)に驚き、大きく育ったカキが盗難にあいにくいように工夫するなど、カキ飼育に対する考え方に変化の兆しが見えます。今後も継続して活動に取り組む意欲を見せています。
また、現在の生ガキでの出荷に加え、加工商品開発にも取り組んでいます。商品付加価値を高め、保存期間を延ばすことで、カキ出荷先の多様化を図り販売量を増やしたい、と加工に取り組む女性グループメンバーたち考えています。同グループは現地の食品加工機関(FIC)の真空フライ機を借りて、カキの真空フライ加工製品の製作も試行しています。

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女性たちによるカキ加工の様子

プロジェクトでは残り期間、カキの販売収益の一部でカキ種苗購入を行い、採苗と育成過程の分業化による養殖効率化の促進を図り、より持続可能な地域の復興支援に取り組みます。
カキ養殖支援では、日本で有数のカキ生産地である宮城県東松島市及び石巻市のNPO関係者が、来年から同地域で本格的にカキ養殖技術支援や加工製品の確立に取り組む予定です。東日本震災からの復興経験に基づいた協力を得て、水産資源を活用したさらなる持続性の強化に取り組みます。
次回はミルクフィッシュ養殖と加工販売支援による人々の復興の取り組みをお届けします。