町のヨランダさんは台風ヨランダ復興サポーター−女性グループによる食品加工を支援−

2016年2月9日

「台風ヨランダは、町の破壊者(Destroyer)でした。でもトロサ(Tolosa)町のヨランダは、復興の支援者(supporter)ですよ!」と元気よく話してくれるのは、トロサ町役場職員のヨランダさんです。彼女は町の女性支援や福祉の充実を担当する、特に女性への強力なサポーターです。

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レイテ州トロサ町は、人口17,921人、3,922世帯(2010年)。本プロジェクト支援対象地域の中では、中規模の町です。この町では、台風ヨランダ前から住民の生計向上を目的として、町役場などが食品加工を奨励し、5つの女性グループが国の出先事務所から食品加工の研修と、加工に必要な機材の資金提供を受け活動していました。
女性グループの主な加工品は、野菜と魚肉を混ぜた乾麺、骨抜きミルクフィッシュ、食肉加工品(ソーセージ・味付肉・サラミなど)、バナナチップなどでした。彼女らの製品は注文ベースで生産し、地元で販売する小規模なビジネスでした。ヨランダさんは、これら女性グループに活動計画の助言をしながら、町役場、地元にある大学、NGOなど外部からの支援の橋渡しをして、活動を手助けしてきました。

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町のヨランダさん

しかし、グループの加工食品生産場所であった建物や製造資機材が、台風ヨランダにより深刻な損害を受け、加工活動ができなくなってしまいました。収入源を失った女性グループ及びトロサ町は、加工品の生産活動再開を強く希望していましたが、資金や資機材調達のめどが立たず、再開の見通しはたっていませんでした。
また、トロサ町では分散していた女性グループの食品加工場所を庁舎敷地内に統合し、女性グループが野菜、魚、食肉などの加工製品の生産をデモンストレーションすることで、より多くの住民に普及させたい、という意向を持っていました。
そこで、プロジクトでは町の庁舎敷地内に多目的施設を建設し、より多くの住民が利用できる活動の場として提供するとともに、トロサ町が選んだ4つの女性グループに対して、パイロット事業として生計手段確保のための食品加工技術及び組織運営支援を行っています。
ヨランダさんが町の女性グループリーダーを招いて、活動再開に向けた話し合いの場に同席した時の事です。ヨランダさんがそれぞれのグループリーダーが発表した活動計画、過去の活動の問題点や課題を把握、改善策などをホワイトボードに書きだして、コメントをします。話し合いの場はとても活気がありました。台風で加工場だけでなく、家屋や畑に大きな被害が出たにもかかわらず、出席していた女性たちの笑い声が絶えません。女性たちの活動再開の意思とプロジェクトへの期待が伝わってきました。女性パワーがこの町の復興をリードする、そう感じた瞬間でした。
支援対象のグループは骨抜きミルクフィッシュ、乾麺、食肉加工品など、それぞれ異なる製品を作ります。プロジェクトでは、トロサ町と連携して女性グループに対し、衛生管理や食品加工の技術指導、製品販売のためのグループ登録手続き、ビジネスプラン作成、帳簿付けや販路拡大などのグループ運営の指導などを行っています。技術指導は、地元の大学(Visaya State University)トロサ校と連携して実施されています。

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肉製品加工

女性グループに対する帳簿付けやビジネスプラン作成は、リーダーの指導力によりグループ運営に差が出てきます。帳簿付けを日々行い、メンバーへの報酬支払や原料の仕入れへの資金の配分をわかりやすく実行しているグループもあれば、帳簿付けが定期的に行われず、グループの収支の把握が遅れているケースも見られます。適切なグループ運営のために、日本人専門家らは透明性の確保、メンバーの動機づけと維持、売り上げ目標を明確にして実行するビジネスプランなどを粘り強く助言しています。
また、台風ヨランダ以前の女性グループは、トロサ町をはじめとする手厚い支援の下で活動しており、ともすれば、その活動は受け身になることが多かったようです。プロジェクトでは、支援活動が終了した後でも、女性グループが自分たちの足でしっかりと立って、活動を続けられることを目指しました。その中でも、特に大変だったのは製品の売り込みでした。これまで、多くが主婦として過ごしてきた女性グループメンバーは、地域外の商店主やビジネスマンに対して、どうしても引っ込み思案になってしまうことが多く、初めのうちは、なかなか積極的に製品を売り込むことができませんでした。プロジェクトでは、女性グループと一緒に小売店やレストランを廻り、自分たちの製品が市場でも十分に通用するものなのだと自信を持てるよう、少しずつ成功体験を育てていきました。
その甲斐もあって、活動開始以来、骨抜きミルクフィッシュ生産グループは、地元にある複数のスーパーに継続して製品を卸し、安定した収入を得るようになってきました。また、フィリピン版ミートローフは地元の大学、工場などに、乾麺は町内にある大学構内の食堂に定期的に卸しています。これらのグループのうち、NGOからも支援を受けて、簡易食堂を開くなど活動を発展させているグループも出てきました。

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ミルクフィッシュを骨抜きする

また、女性グループの活動は、加工食品の製造販売以外の所でも効果を現し始めています。トロサ町のヨランダさんは、「町内で定期的に実施されている女性の集会で、プロジェクトに参加しているメンバーを中心に、積極的な発言がなされることが増えている。活動が少しずつ発展するにつれ、メンバーの意識が徐々に変わってきているようだ。」と言います。乾麺を生産しているグループメンバーは、「今の活動から得られる収益は限られたものだけれど、今後、どんどん活動を拡大して、いずれは自分たちの加工施設を建てたい」と夢を語ってくれました。大規模なビジネスとしての活動に向けては、今後、まだまだ努力していかなければならない女性グループですが、自分たちの夢に向けて、一歩ずつ踏み出していることが感じられます。

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完成した多目的施設

台風による被災前には、女性グループは自宅周辺のスペースを使って製品を作っていましたが、今は、プロジェクトで建設した多目的施設を活用しています。トロサ町が管理する同センターを活用することで、女性グループの生産活動がさらに強化されることが期待されます。また、トロサ町は現在、提案された4グループだけでなく、町内の全ての女性組合と会合を持ち、さらに参加グループを発掘しようとしています。

ヨランダさんが声をかけて集めた意志ある女性たちが、生活の再建や町の復興のために、今日も明るい笑顔を絶やさず取り組んでいます。