台風に強い校舎建設・人材育成−日本の職人が現地の人々と寄り添い、現場で指導する−

2016年3月7日

東Samar州Balangiga町では台風ヨランダの暴風により、フィリピン労働雇用省 技術教育技能訓練庁(TESDA)所管の複数の校舎が全壊しました。校舎を失った学校では、被害を受けたものの何とか授業のできる敷地内の他の建物を使って授業を行うなど、一時的な対応に追われていました。

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TESDAは、主に中間レベルの労働力の技能開発を責務とし、対象地域(Region 8)内にある130のTESDA訓練校及び提携校(TESDA訓練校9校)と提携しています。主な建設関連の研修コースは、大工、溶接、左官、配管、電気工で、それぞれ7校、28校、6校、14校、23校において各研修コースがあります。また、Balangiga町のTESDA訓練校では、畜産を含む農業技術研修の多様化とともに、農産品の加工技術研修も計画されていました。しかし、台風ヨランダ被害により、多くの校舎が壊滅したため、災害により強い校舎を再建するために現地の職人技能の向上が急務となりました。

そこでプロジェクトでは、被災したTESDA訓練校敷地内に台風に強い校舎を建設し、同時に日本から職人を派遣し、実地でTESDAの建設関連研修講師(提携校を含む)及びTESDA建設関連研修卒業生、自治体職員及び現地作業員らに技術指導しました。あわせて、技術指導の結果も元に、TESDAの研修カリキュラムとマニュアルを改訂することを計画に盛り込みました。台風に強い校舎建設を通じた人づくり、人づくりのための仕組み強化を図る包括的な取り組みです。

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被害を受けた校舎

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現場での指導風景

実地訓練では、日本の職人が特に台風被害の大きな原因となったトラス作成・設置までの屋根工事と溶接工事作業指導を行いました。

現場で指導した日本からの職人の話です。「今、日本では親方が現場で叱って技術を教える時代は終わりつつあります。現場で丁寧に教えて柔軟に対応することが求められています。フィリピンの現場でも、現地の人々の働き方、休憩のとり方、考え方などをよく知ったうえで、現地になじむ方法で技術を教えています。例えば、作業準備の仕方、安全対策の徹底など作業の基本的な取り組みから、現地で安価に入手できる道具を工夫して使うことで、トラスを設計図通りに組み立てること、強度を保つ溶接の仕方などです。私たちも現地の人たちからたくさんの事を教えてもらっています。」

研修マニュアルの改訂においては、視覚的に容易に理解できる躯体工事、溶接、屋根工事のビデオ教材も作成し、現在、地域内のTESDA直轄及び提携校130校では、改訂マニュアルと教材を活用した授業が行われ、2000人以上の生徒が恩恵を受けています。TESDA地域事務所長は建設、人材育成、カリキュラム・マニュアル改訂の一体化したプロジェクトの支援に大いに感謝の意を表明しています。改訂カリキュラムとマニュアルを地域内に普及するのみならず、他地域、将来は全国へ普及できるように中央省庁にも働きかけています。台風ヨランダからの学びが地域を超えて、今後度どこまで広がりを見せていくのか、フィリピン関係者の取り組みが楽しみです。

完成した校舎では、キャッサバチップスやケーキなどの新製品の開発を開始しています。また、ホテルサービス指導などの授業が再開し、校内は賑やかさを徐々に取り戻しています。その後、同じ敷地内に全壊した大工実習のワークショップの建設工事も行い、日本からの職人による躯体工事の実地研修も実施しました。研修を受けた16名のTESDA卒業生のうち、13名が地元会社の工事現場で活躍しています。技術や取り組む姿勢を学んだ研修生が着実に活躍しています。

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完成した校舎

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完成した校舎内部

そして、実地訓練をしながら作り上げていった校舎は無事完成しました。校舎の引き渡し式には、TESDA長官自らが参加し「JICAの支援に感謝します。この訓練校の再建は、若者達や将来の学生の職業教育にとって、非常に重要です。再び彼らに学ぶ機会を提供できます。」と感謝の意が伝えられました。長官は「台風ヨランダ被災直後に現地を視察した際、多くの建物が半壊・全壊している中、日本が建設した建物が被害を受けていないことに感銘を受け、その技術をぜひ学びたいと思っていました。JICAが作成した研修マニュアルは、Region 8のみならず、フィリピン全土のTESDA訓練校で今後活用していきます。」との心強い言葉も聞かれました。

台風ヨランダ被災地では、日本の建築・建設技術と安全に作業に取り組む心構えを取り入れ、復興を担う人々を今日も育成しています。現地の人々に寄り添い、わかりやすく技術を伝える。人材育成とは、「共に学ぶこと」だともいえるかもしれません。