安全なまちづくり:「ドローレスさん物語」第1回−タクロバン市の土地利用計画とドローレスさん−

2016年6月24日

本プロジェクトチームの尽力により、高潮・津波・洪水のハザードマップは完成した。次の重要なステップは、ハザードマップとは何か、を自治体関係者などに広く理解してもらい、土地利用計画や避難計画づくりに活用すること。プロジェクトでは、各自治体職員に対して、ハザードマップ理解促進やハザードマップを活用した復興計画策定のワークショップを複数回行ってきた。
災害からの復興を推進する大きなカギの一つは、自治体担当職員の熱意だ。台風ヨランダ被災直後から、自治体の職員は一日も早い復旧、少しでもよりよい復興を目指し、日夜、時には休日も返上して職務に取り組んできた。
個々の職員にはそれぞれ熱い思いがある。今回から連続で、タクロバン市役所の都市計画部に40年勤務した、ドローレスさんに焦点を当て「安全なまちづくり」の活動の一つである、タクロバン市の包括的土地利用計画(Comprehensive Land Use Plan:CLUP、以下、土地利用計画)改訂作業を紹介する。

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プロジェクトで行った高潮災害のシミュレーション

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タクロバン市での計画策定ワークショップ

ドローレスさんは1977年からタクロバン市役所の都市計画部で、都市計画の業務に携わってきた。現在は、特別プロジェクト課チーフとして、土地利用計画改訂のため、関係者との連絡・調整のとりまとめをしている。
彼女は、2015年12月に定年を迎えるはずだったが、今も同じ職場で活躍している。その経緯を語るには土地利用計画改訂に至る経緯を紹介する必要がある。
2013年11月の台風ヨランダ以前に、タクロバン市の土地利用計画は改訂作業を終え、セブ市にある住宅土地利用規制委員会(Housing and Land Use Regulatory Board:HLURB)に計画案が提出された。土地利用計画は10年計画であるため、今回の土地利用計画改訂は彼女にとって最後の機会になるはずだった。
2013年11月、住宅土地利用規制委員会の本部にて、土地利用計画の正式承認を受ける手続きを進めている最中に、台風ヨランダがタクロバン市を襲った。その後、タクロバン市役所都市計画部は、様々な国際機関や国際NGOから、土地利用計画について問い合わせを受けたが、正式な承認が下りていなかったため、同計画を公開できずにいた。さらには、台風ヨランダによる甚大な被害により、タクロバン市は、改訂したばかりの土地利用計画を大きく変更せざるを得ない状況となった。

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ワークショップで発言するドローレスさん(写真中央)

台風ヨランダ被災後の2014年、住宅土地利用規制委員会が、気候変動災害軽減アセスメント(Climate and Disaster Reduction Assessment:CDRA)の補足ガイドラインを発表した。補足ガイドラインでは、土地利用計画を改訂する際に、同アセスメントの実施を義務付けた。しかし、タクロバン市は土地利用計画改訂の予算を執行したばかり。台風ヨランダ被害からの復旧・復興事業のため、再び土地利用計画を改訂する予算はつけられない、という厳しい状況であった。
このような状況下で、幸いにも、タクロバン市は国連人間居住計画(United Nations Human Settlements Programme。以下、UNHABITAT)の支援を得て、気候変動災害軽減アセスメントを実施することになり、土地利用計画を再び改訂する第一歩を踏み出すことになった。
しかし、資金の流れが円滑に進まなかったのか、同アセスメントはドラフトの状態で据え置きになってしまった。その結果、土地利用計画改訂作業も、中断してしまった。

土地利用計画をどのように改訂するか、都市計画部の中で意見が割れた。

データを収集し、最小限の変更を行うにとどめ、提出中の土地利用計画案を維持するか、住宅土地利用規制委員会の新しいガイドラインに沿って、再度土地利用計画を改訂するか。新しいガイドラインには、ハザード分析を入れること、および計画改訂に市民を参加させること、が含まれている。これこそ、ドローレスさんが40年間の経験を通して土地利用計画に入れるべき重要な要素、と心の中で思い続けていたものだった。
それゆえドローレスさんは、後者での改訂を心の底から切望していたが、都市計画部として前者が支持された。土地利用計画改訂作業が事実上停止状態の中、タクロバン市役所の様々な部署は、復興の羅針盤となる土地利用計画の見直しがなされないまま、様々なドナーと、予算のついた事業から個別に動かさざるを得ない状況になった。

つづく

次回は、「運命の出会い」