安全なまちづくり:「ドローレスさん物語」第3回−タクロバン市の奇跡−

2016年7月28日

タクロバン市は、住宅土地利用規制委員会(Housing and Land Use Regulatory Board: HLURB)が作成したマニュアルに従い、市役所職員が総力を上げて土地利用計画の改訂に取り組むことになった。

今回の改訂で特に重視した点は、ドローレスさんがこれまでの経験をもとに温めていた、高潮や洪水の被害を受けやすい地域を見いだし、対策を練るハザード分析を計画策定プロセスに取り入れること、バランガイ代表(バランガイとは、日本の地区や村に相当)の参加を促進させること、だった。

「ハザード分析をどのように計画に反映させるか。」安全なまちづくり支援をしてきた、本プロジェクトチームにとって重要な視点のひとつだ。

2014年、タクロバン市が行ったワークショップで、本プロジェクトチームから、安全なまちづくりの見解を示し、都市計画の提案を行った。また、計画策定の段階で市民参加を実現させるため、「エリアマネージマント(地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み。)」という切り口の提案もしていた。

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タクロバン市の海沿いの様子

様々な議論の結果、タクロバン市は、連続ワークショップ「みんなで考えて、みんなで決める」で、土地利用計画改訂作業を行うことになった。作業の詳細を詰める過程で、「タクロバン市に住むみんなで考えるんだ!」、というタクロバン市職員ドローレスさんとジャニスさんの熱意が、当初、土地利用計画改訂に積極的ではなかった都市計画部長ヒダルゴさんの心をも動かした。

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市役所職員による土地利用ワークショップ

ヒダルゴさんが土地利用計画改訂の対応に踏み切った。これが都市計画部の職員全員の心を動かし、同部を中心とした改訂体制が整った。もちろん、とんとん拍子に進んだわけではない。土地利用計画改訂ワークショップが始まって以来、毎朝毎晩、議論と調整の繰り返しで、職員は休日も返上して準備を行った。

職員の中には不満があったかもしれない。しかし、ヒダルゴさんがうまく調整したのだろう。ワークショップの参加率も回を重ねるごとによくなった。

今までの土地利用計画改訂作業で、こんなにも市役所職員が団結し、都市計画部職員が市民と向き合って土地利用計画の議論をすることはなかった。ドローレスさんは「40年やってきて、自分の定年の年に、こんな奇跡が起こるなんて」と涙ぐんだ。

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住民代表者によるワークショップ

ワークショップでは、タクロバン市職員が、タクロバン市の現状を学ぶことから始まった。本プロジェクトチームからは、ハザードの捉え方、現況と比較したハザードエリアの分析と対策のオプションと、それぞれの可能性等がインプットされた。他のドナーや関係機関、市役所のそれぞれの部署からは、各テーマに対するインプットがあった。

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ワークショップで説明するドローレスさん
(写真提供:タクロバン市)

都市計画部職員は、ファシリテーター役を務めるため、バランガイ代表者にこれらの内容を説明する。この役割が、「個々の職員がタクロバン市の将来像に向き合い、自分なりの見解を持ち、自分たちで最終案を作っていくのだ」、という意識を生み出したようだ。市が実施したバランガイ代表者を対象としたワークショップでは、ワークショップの進め方について、熱く語るドローレスさんの活き活きと、また高揚した姿が見られた。

つづく

次回は、「ドローレスさんの花道」