安全なまちづくり:「ジャニスさん奮闘記」第1話−ジャニスさんの苦悩−

2016年9月16日

今回から4回シリーズで、台風ヨランダで甚大な被害を受けたタクロバン市の包括的土地利用計画(Comprehensive Land Use Plan。以下、CLUPとする)を改訂するために、新しくタクロバン市役所のメンバーとなった、ジャニスさんの奮闘に焦点をあてて、現地活動を紹介したい。

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ジャニスさんは2015年、タクロバンのCLUP改訂作業を遂行するため、市長室配属で雇用された。ジャニスさんは大学で文学を専攻し、都市計画の経験は全くなかった。しかし、様々な関係者と積極的に話をし、CLUP改訂の必要性と、市役所を取り巻く環境や内部の状況把握に努めた。
ジャニスさんは、当時CLUP改訂支援のオファーがあった現地コンサルタントに委託して当作業を完了させる方針で、契約の準備を進めていた。しかしながら、思ったように事は進まなかった。現地コンサルタントと予算の折り合いがつかず、契約を断念せざるを得なくなったのである。
同市は台風ヨランダ直前にCLUPを改訂したばかりであった。その後、台風ヨランダによる甚大な被害があり、台風被災地の自治体に対して、災害に強い町づくりなどを踏まえCLUPを再び改訂するよう、関係機関から指示が出ていた。他方、追加の予算措置はなかった。このような状況下で、タクロバン市は自力でCLUP改訂を行わざるを得なかった。

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高潮の被害を受けた沿岸地域(タクロバン市)

しかし、市役所職員の中にコンサルタントの役割を果たせる人材はいない。さらに、公共事業道路省(Department of Public works and Highways: DPWH)が検討を進めていた防潮堤計画を、タクロバン市のCLUPと整合性をとりつつ最終化させる、という大きな課題があった。タクロバン市は、現地コンサルタントとの契約を断念せざるを得なくなり、ジャニスさんの任務は、同市が自力でCLUPを改訂する道筋をつける、というさらにハードルの高い大仕事になってしまった。
「どうするジャニス?」自分に問いかけるジャニスさん。

ジャニスさんは解決策を探し、助役のマニバイさんや都市計画部のドローレスさんと話し合う。再度市役所内のメンバーに話を聞く。しかし予算も技術も無い。このような状況だから、データ更新だけすべき、と主張する都市計画部。すれ違う同僚の意見に挟まれ、突破口が見つからない。
そんな悶々とした日々の中、本プロジェクトチームと打ち合わせの機会があった。ジャニスさんが思いきって切り出した。「JICAプロジェクトから、ワークショップの費用を出せないか?」顔を見合わせる本プロジェクトチーム。「どんなワークショップ?」、とチームメンバーが切り返す。ジャニスさんはCLUP改訂の必要性と費用の支援を訴えた。

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市役所職員との話し合うジャニスさん(写真右奥)

しかし、それ以上に事を動かしたのは、「住宅土地利用規制委員会(Housing and Land Use Regulatory Board:HLURB)が作成したCLUP策定ガイドラインに沿い、どの様にCLUPを改訂すればいいのかわからない。ドナー機関の専門家はいるけれど、そもそも何を相談したらよいのかもわからない。作業に助言してもらえないか」、というジャニスさんの必死の本音トークだった。そこで、プロジェクトチームは「もちろん、できる限り協力しますよ!」と力強く答えた。
これを機にタクロバン市役所とJICAプロジェクトチームの二人三脚「CLUP改訂作戦」が動き出した。

つづく