災害に強いインフラを作る!

自然災害がまったく起きないようにするのは難しいが、被害を抑えることは工夫次第で可能だ。
災害が襲っても、人々や生活を守ることができるアイデアを形に。
JICAが建設に協力したさまざまな事例を見てみよう。

ネパール 災害が起きても使える道を

【画像】インドと中国に挟まれた内陸国ネパール。さまざまな物資を輸入に頼っており、多くはインドから車で運ばれてくる。インドの国境近くに広がるタライ平野は農業の中心地でもあり、首都カトマンズからこの地域を通ってインドにつながる道路はまさにネパールの命綱ともいえるが、これまでは1本しかなく、土砂災害などで通行止めになると物流が完全に途絶えてしまうという問題を抱えていた。

今ある街道が被災しても、代わりに使える新たな道を。158キロにわたる"シンズリ道路"の建設は1995年に始まり、土砂災害やがけ崩れなどの障害も乗り越えて、2015年に全区間が完成した。

その真価が示されたのが、完成の翌月に発生した大地震だ。シンズリ道路は、カトマンズをはじめとする被災地域への物流の要となった。こうした功績が現地ネパールはもちろん日本国内でも認められ、2016年には土木学会賞・技術賞を受賞。道路防災能力の向上を目指した技術協力も行われ、災害対策としてのインフラ維持に日本はこれからも力を入れていく。

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技術的にも難しい山道の整備に、日本企業は最新技術で挑んだ

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シンズリ道路の脇に出来た小さな商店。ネパールの人々の生活を物流が支える証だ

タイ 日常の足に隠された安全設計

【画像】経済発展に伴って急激に深刻化したバンコクの渋滞。不便なだけでなく、大気汚染にも結び付くため、交通事情の早急な改善が必要だった。その解決手段として作られたのが、地下鉄ブルーラインだ。生活環境の改善と利便性の向上が主な目的だが、災害時の安全も考え抜いて設計されている。例えば、日本の地下鉄と比べて広々と作られているのは、災害が発生したら6分以内に全ての乗客を駅の外に避難させるという全米消防協会の厳しい安全基準に準拠しているからだ。

さらには駅前の道路が冠水しやすい実情を踏まえて、出入り口を道路面から1.2mほど高く設置している。200年に一度の水位上昇を踏まえた高さで、たいていの豪雨には対応できるが、より大規模な冠水に備えて入口で水をせき止める防潮板も整備されている。

万が一の際も、「ここにいれば安全」と思えるような心強い交通機関が、発展を続けるバンコクの日常生活を支える。

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地下鉄ブルーライン・バンスー駅の入口。洪水対策のため入口が道路面よりも高く設定されているのが分かる

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駅構内が広々としているのも、災害発生時の避難のしやすさを考えた設計だ

フィリピン 人々の命を守れ!災害に強い病院作り

【画像】2013年11月にフィリピンを襲った台風ヨランダ。直撃を受けた東ビサヤ地区では、ところにより家屋の8割が倒壊するなどの大きな被害を受けた。当時、母子保健サービス強化に向けて日本が協力していた東ビサヤ地域医療センター(EVRMC)も例外ではなく、高潮によって1階部分が浸水するなど、影響は甚大だった。

災害時は、平常時以上に医療サービスのニーズが高まる。日本は他国や国際機関と共に医療サービスを提供することに加え、保健医療を取り扱う行政機関も支援し、医療サービスの提供が滞りなく行えるように配慮した。さらに、EVRMCの外来診療棟など被害を受けた医療機関の再建に協力。センターの外周にスクリーンブロックを配置することによって、通風を確保した日除け機能と、台風時には飛来物の衝突から施設を守れるような配慮を加えた。

今年9月に引き渡し式が行われたEVRMC。これからも地元の人々の健康を守り続けていく。

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明るく開放的な待合室

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真新しい外来診療棟は、災害時にも被害を抑える設計になっている

ミャンマー 小学校がシェルターに!サイクロンから人々を守る

【画像】太平洋で台風が発生するのと同様、東南アジアとインド亜大陸の間にあるベンガル湾ではサイクロンが発生する。当時は世界最貧国の一つで、軍政下にあり防災への取り組みが進んでいなかったミャンマーに、2008年4月、巨大サイクロン「ナルギス」が上陸。死者・行方不明者約14万人という近年では最も大きな被害を出した。

その後の調査で、この地域ではサイクロンのシェルターが整備されていないことに加えて、サイクロンで破壊された小学校の再建も進んでいないことが判明。そこで作られることになったのが、普段は小学校だが、サイクロン襲来時には住民のシェルターとなる建物だ。

対象となったエーヤワディー地方管区は三角州で、雨期は洪水や高潮にも襲われる。そこで、さまざまな災害にも耐えられる高さで建物を設計し、高潮に洗われる可能性のある一階は水を通しやすい構造にするなどの工夫を凝らした。

土地が肥沃で農業に向いた土地でもあるエーヤワディー・デルタ。防風・防潮のためのマングローブ林の育成も行われるなど、さまざまな手段で災害に強い社会づくりが進んでいる。

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校舎の一階部分は高潮の水を通すことで災害時にも耐えられる設計で、住民は二階と屋上に避難できる

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学校で学ぶ子どもたち。将来の人口増加の余裕や教育環境の改善も見越した設計にしている