東海地方は自動車や家電などの大手製造企業があり、そこで働く外国人が多く暮らす。
外国にルーツを持つ子どもの「不就学ゼロ」を目指す取り組みを行う市があり、JICA中部が実施する研修を授業に生かす教員もいる。
文部科学省が2019年度に実施した全国調査で、約2万人の外国人の子どもが学齢であるにもかかわらず、就学をしていない可能性があることがわかった。
そんななか、外国籍の児童・生徒の「不就学ゼロ」を目指す取り組みを行っているのが岐阜県可児(かに)市だ。同市では現在、小・中学校の児童・生徒が約8200人おり、そのうち約750人が外国籍を持つ。
同市では住民票の届けがあった時点で、外国籍の子どもがいる場合は教育委員会で就学の手続きをするように声がけをしている。そして、初期適応指導教室の「ばら教室KANI」などと連携し、必要に応じて家庭訪問もして就学へと促していく。市内の各小・中学校には国際教室があり、日本語指導が必要な児童・生徒はそこで日本語や教科の指導が受けられる。
この流れのなかで大きな役割を果たすのは2005年に開設された「ばら教室KANI」だ。日本の学校に初めて行くような子どもたちがここで約3か月間、日本語などのほか、掃除や給食当番など日本の学校ならではの習慣やルールを習う。あらかじめ日本の学校生活に慣れておくことで、小・中学校での始めのとまどいが減る。
その後、子どもたちは小・中学校で学ぶが、国際教室での子どもたちの指導に、JICA中部が行う教員向けの研修を活用する教員もいる。可児市立蘇南(そなん)中学校で国際教室を担当している教員の青山岳史(たけし)さんはこれまでに2度、JICA中部の開発教育指導者研修に参加した。また、海外協力隊の経験者でもある。
青山さんは「研修を受け、参加型の手法や授業を進めるファシリテーターとしての心構えを学びました。その実践としてフィリピンやブラジル国籍の生徒が多く学ぶ蘇南中学校の国際教室で、たがいのよさを認め合い、ともに生きていくためには何ができるのかを考える道徳の授業を行いました」と話す。
そこで感じたのは、生徒たちは授業に"参加"できるといきいきとしてくるということだ。「たとえば、自分たちの国のいいところを発表する活動では、フィリピン、ブラジルにルーツを持つ生徒が、それぞれとてもうれしそうに、誇らしげに話す姿が印象的でした。また自分のよさを見つけるというテーマの活動では、画用紙に同級生のよいところを一言ずつ書いてみんなで回していきます。『やさしい』『思いやりがある』など、簡単な日本語を書くだけでも参加できるので、楽しそうに取り組んでいました。自分のよさが書かれた画用紙をもらったときは、みんな本当にうれしそうでした」。
蘇南中学校は全校生徒約940人のうち、外国にルーツを持つ生徒が約190人いる。ただ、生徒にとってそれは小学校のときから変わらない状況だ。「ここでは日本人の生徒も、外国にルーツを持つ子どもが周りにたくさんいる環境で育っています。学校では、新たに外国籍の生徒が転入してきても自然に接して、困っていたらさりげなく支えている姿も見られます。国籍に関係なく、たがいに認め合い、関わり合っている姿を見ると本当にうれしくなります」と青山さん。
「働く理由について考える学習では、外国がルーツの生徒の中に『がんばって働いて、家族のために家を建ててあげたい』と言う子がいました。働くことは自分のためだけじゃないんだと日本人の生徒が考えるなど、ともに学ぶことがさまざまな価値観を知るきっかけにもなると思います」
日本語を習っている生徒が漢字を一生懸命に勉強している姿を見て、日本人の生徒が刺激を受けることもある。また、蘇南中学校の教員それぞれがそんな生徒のよさを本人や学級の仲間に伝えたり、通訳サポーターとも情報交換をしたりと、さまざまな面から外国にルーツを持つ生徒を支えている。
青山さんは「外国にルーツを持つ生徒は一人ひとりがさまざまな背景を持っています。彼らにとって自分が認められる居場所があることは、学校に来る理由になります。私たちの社会の担い手として、日本人の生徒も、外国にルーツを持つ生徒もたがいを認め合い、つながり合う場所をつくっていきたいです」と話している。
JICA中部が実施している開発教育指導者研修の一場面。参加型学習の体験や実演などを行う。
人口:約10万1,500人(2020年12月1日現在、可児市統計)
県内最大規模の工業団地があることや、周辺地域に自動車や家電関連の製造企業が多くあることで外国人労働者が増えた。フィリピン、ブラジルの国籍を持つ人が多い。