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JICA留学生にも日本人にも「Win-Win」となる、JICA開発大学院連携プログラム-日本の開発経験を学ぶフィールドスタディの活用in立命館大学-(2023年6月)

プロフィール

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氏名:黒川清登
所属:立命館大学大学院経済学研究科 教授
研究分野:開発経済学/地域経済学/防災経済学

JICA開発大学院連携プログラム(JICA-DSP)の個別プログラム(各大学におけるプログラム)に参加する大学では、近代日本の開発経験(日本自身の開発とODAとして他国に協力した経験を含む)についての授業科目をJICA留学生に提供いただいています。立命館大学で本プログラムを担当している黒川清登教授は、日本の発展の過程を現場で学べるフィールドスタディを積極的に実施しています。立命館大学のプログラムの特徴や、JICA-DSPの意義などについて伺いました。

個別プログラムの意義-フィールドスタディを積極的に実施-

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立命館大学では、黒川教授の所属する経済学研究科と国際関係研究科で個別プログラムを提供しています。両研究科で5名の教員が、JICAやJICA緒方貞子平和開発研究所での勤務を経験しており、黒川教授もその一人です。「どの先生も、開発途上国の問題に強い関心があるスペシャリストです。JICA-DSPに参加する留学生の多くは、日本の開発経験を学んで自国の発展に活かしたいと考えている実務家ですので、アカデミアだけでなく開発現場での経験も豊富な教員陣に指導を受けられることは、大きなメリットではないでしょうか」と話します。

個別プログラムには、「せっかく日本に来たのだから、留学生に現場を見てほしい」との想いが反映されています。経済学研究科が提供する個別プログラムのうち、黒川教授が担当するApplied Economics (Socio-Economic Survey)は、社会調査の技法を学ぶ講義ですが、滋賀県長浜市のまちづくりを学ぶフィールドスタディが組み込まれています。これ以外にも、京都・滋賀のさまざまな企業を訪問するスタディツアーが実施されており、多くの留学生が参加しています。「訪問先の中には世界の大企業もいくつかありますが、こうした企業も最初はごく小さな会社だったのです。現場を訪れて成長の軌跡を目で見て学ぶことで、初めて納得できることがたくさんあるはずです」と、黒川教授はフィールドスタディの意義を強調します。

アカデミックな学びを実務に活かすことも大切

一方、「大学院という研究の場で、実務家が学ぶべきことも多い」と黒川教授は話します。「大学院で執筆する学術論文では、公平性と客観性がきわめて重要です。適切な引用をしながら根拠を示し、論理的で説得力のある説明をしなければなりません。こうしたスキルは、実務家のリーダーを目指すうえで不可欠です」

アカデミックライティングのスキルを身につけてもらうための工夫として、留学を終えて帰国した先輩たちによる修士論文執筆セミナーを開催しています。「修士論文の書き方が分からない後輩たちに向けて、経験者から指導をしてもらっています。また、論文執筆の経験をどのように実務に活かしているか話してもらいます」。自国からオンラインで指導してもらうこともあれば、実際に来日してもらうこともあるといいます。帰国した後もコミュニケーションを取り続けるとともに、後輩たちとの新たな交流を広げるきっかけにもなっています。

教員や訪問先企業まで、すべての関係者に好影響

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JICA-DSPによって刺激を受けるのは、学生だけではありません。教員の学びのきっかけにもなると黒川教授は話します。「開発途上国の研究を専門としていない先生方にとっても、世界各地から留学生を受け入れることは、今まで焦点を当てていなかった研究領域に視野を広げるチャンスになるはずです」。今後は、教職員にもJICA-DSPの意義をもっと伝えていきたいとのことです。

影響は学内にとどまりません。フィールドスタディで訪問する企業や自治体にも刺激を与えています。日本人が当たり前だと信じて疑わないような点に、留学生から質問が飛ぶことも。「留学生から多数の質問を受けることで、日本の開発経験がいかに貴重なものなのか、企業や自治体の方々が改めて知る機会になっているはずです。JICA-DSPは、関係する全員にとってWin-Winのプログラムだと思います」

留学生だけでなく、日本人学生にも大きな意義が

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個別プログラムやスタディツアーには、「将来は開発分野に携わりたい」「開発途上国のビジネスを担いたい」と考えている日本人学生も参加しています。「JICA-DSPの素晴らしい点の一つは、世界中のさまざまな国から学生が留学してくること。国ごとに話す英語も違いますし、社会や生活も違います。さまざまな国の問題を知ることが、日本の抱える問題に気づくきっかけにもなっています。今までイメージできていなかった多様な世界を知ることで、開発途上国のことをもっと学びたいと好奇心を掻き立てられる日本人学生も多いですね」

実際に個別プログラムを受講した日本人学生の声を聞いてみました。スタディツアーで通訳も担った経済学研究科の高木冬太さんは、多数の留学生とともに学べることに魅力を感じて受講を決めました。「開発経済学の理論と実践を同時に学ぶことができました。中小企業と開発途上国の協力関係についても初めて知りましたし、留学生との交流を通して視野が大きく広がったと思います」。将来は、開発途上国にかかわる仕事に就くことを考えています。

学部生の頃は、JICA-DSPの存在を知らなかったという高木さん。「こんなにも多くのJICA留学生が立命館大学に来ているとは思っていませんでした。留学生と交流できる機会に関心を持つ学生は、他にもたくさんいるはずです」。大学院進学を検討している学部生に、JICA-DSPについて話すこともあるといいます。