事業評価外部有識者委員会(2021年11月)の概要

1.日時

2021年11月5日(金)13時00分~15時00分

2.開催方法

オンライン(Zoom)開催

3.出席者

高橋委員長、源委員長代理、石本委員、今田委員、木内委員、黒崎委員、功能委員、近藤委員、竹原委員、舟越委員
(JICA)中村理事、評価部長他

4.議事概要

今回の議題は、1)テーマ別評価の実施状況、2)開発協力事業の新たなマネジメント方式(グローバルアジェンダ・クラスター)に関する評価方式の検討状況、の2点。今次委員会での助言等を踏まえ、テーマ別評価の結果の取りまとめ及び新たな事業マネジメント方式における評価方式の検討を進める。

(1)テーマ別評価の実施状況

目下JICAでは、1)留学生事業の評価手法分析、2)保健医療セクター(感染症対策)におけるJICA協力の開発効果のインパクトと途上国の経済社会開発、3)多角的アプローチによる栄養改善、4)Human Well-being/Happinessに関する評価手法、5)Leave No One Behind実現に向けた社会的弱者に関する評価手法の検討、の5つのテーマ別評価に取り組んでおり、その実施状況を報告。委員からは4)・5)を中心に、下記のコメントがあった。

委員コメント

Human Well being/Happiness(人々の幸福)に関する評価手法

  • 事前評価時点では想定されなかったインパクトの可視化を行うのは良いアプローチ。
  • Human Well being/Happinessの捉え方は難しい。「自分自身が価値のあるものとして社会に認められているか」という点も重要な一面であり、多種多様かつスケールが大きいプロジェクトを行うJICAとして、どこにプライオリティを置くのかについて議論が必要。
  • Human Well being/Happinessは包括的な概念であり、収入・教育歴など、客観的な指標として把握出来る面もある。主観的な満足度や幸福度が全てではない点に留意すべき。また、プロジェクトの評価と結び付けた際のレポーティング・バイアス(特定の情報を選択的に膨らませて語ること)にも留意が必要。
  • 「プロジェクトが主観的幸福度に与える影響の有無・大きさの評価」について、全体の価値判断を目的としたものではない、という整理に同意。すべてのプロジェクトに共通するJICAの事業評価6項目とHuman Well-beingは、レベルが異なる概念であり同列に扱うべきではない。Human Well being/Happinessは評価項目というより観点であり、案件形成段階でしっかり確認し、実施段階でもフォローして行くべき事柄。
  • 主観的幸福度に影響を与える領域を「コア領域」「サブ領域」と整理しているが、どの領域のウエイトが大きいかは、国や地域、その人が置かれている状況によって異なる。その中で、どの程度普遍性と多様性を確保するのか、要検討。

Leave No One Behind(誰一人取り残さない)の実現に向けた社会的弱者に係る評価手法の検討

  • 「社会的弱者」の定義はコンテクストによって変わり得る。事業のフォーカスグループをどのように設定するか、というテクニカルな問題でもある。対象となるグループが置かれた領域内での格差も重要であり、それを如何に事後評価の枠組みに落とし込むか。単純に「幸福度」を規定するファクターから「社会的弱者」を特定するのではなく、人権の観点に重きを置き、格差のない平等が保証されるかが、今後の援助において非常に重要な視点。
  • 人権とも密接な関係のある概念であるため、「社会的弱者」のワーディングについては、慎重に再考する必要がある。
  • "Leave No One Behind"の評価は、細かいメッシュをかけたデータがないと、どこで誰が取り残されているか補足できず、実際にはかなり難しい作業となろう。ターゲットとする国や地域レベルのデータを細かくモニタリングする体制が必要。

(2)開発協力事業の新たなマネジメント方式に関する評価方式の検討状況

今後JICAは、SDGsゴールへの貢献を念頭に、課題解決に向けた大きな纏まり(グローバルアジェンダ、クラスター)で事業の実施及び評価を行う予定。最新の検討状況を報告。

委員コメント

  • JICAの大きな転換点となる取り組みと理解。選択と集中により、開発インパクトの最大化に向け、包括的に開発協力を捉える新マネジメント方式の導入は、素晴らしい取り組み。相手国や地域にも事前に説明を行い、十分な理解を得ておくことが大切。
  • 20のグローバルアジェンダはセクター名だが、どういう社会を目指すのかを示すことが重要。グローバルアジェンダの先にJICAが目指す世界観が何か、提示を工夫して欲しい。
  • 常時クラスターのシナリオの強化・修正を行うということだが、弊害の有無にも要留意。強化も大事だが、変化への柔軟な対応が重要。クラスターとプロジェクトの関係性としては、一方向(クラスター→プロジェクト)ではなく、プロジェクト→クラスターも重要であり、双方向のフィードバック・ループに留意すべき。
  • JICAのインプットだけでは相手のニーズは達成できない他、JICAの目指すところと相手国の目指すところも、必ずしも一致しない。対話を通じて相手国政府の考え方・要望の吸い上げにも重点を置き、サプライドリブンにならないよう、留意が必要。

(3)委員長まとめ

  • 今回JICAが行おうとしている新事業マネジメントは、複雑かつ壮大。このことを念頭に、本変革に関しては、JICA外の人々・一般国民に対してよく説明することを求める。
  • 「Human Well-being/Happiness」「社会的弱者」は、SDGs・DAC評価6項目化の潮流の中で大変重要な概念。特に「弱者」とされるステータスはコンテクストによってもダイナミックに変わり得る。これらの概念をどのように事業評価の枠組みに落とし込めるか、本日の議論をもとに引き続き検討を深めていただきたい。これまでの評価手法では確認し難かったが、重要な観点に眼を向けて検討を開始された、という点は大いに評価したい。
  • 「開発協力事業の新たなマネジメント方式」はJICAにとってチャレンジングな改革。大切なことは相手国が何を達成するのかであり、その点を計画・評価するために適した方法は何か、を考えていただきたい。個別の事業を超えたJICAとしての新しいマネジメントの必要性は、新評価項目であるCoherence(整合性)の観点からも非常に大切。具体的対応に関しては、JICAの現実的なリソースも考慮して、検討・工夫を重ねていくことが重要であろう。

以上