事業評価外部有識者委員会(2024年3月)の概要

1. 日時

2024年3月1日(金)14時00分~16時00分

2. 場所

独立行政法人国際協力機構(JICA)本部会議室

3. 出席者

高橋委員長、源委員長代理、石本委員、今田委員、木内委員、黒崎委員、功能委員、近藤委員、竹原委員、山形委員
(JICA)宮崎理事、評価部長他

4. 議事概要

今回は、(1)事業評価年次報告書2023(案)、(2)クラスターマネジメントの導入に向けたモニタリング・評価の試行の進捗状況、の2点を議題とした。今次委員会での助言等を踏まえ、2023年度の事業評価年次報告書の最終化、新事業マネジメント方式における評価手法の更なる検討を進める。
委員からの主な助言・コメントは、以下のとおり。

(1) 事業評価年次報告書2023(案)

JICAでは事業評価にかかる取組や評価結果をわかりやすく公表するため、事業評価年次報告書を作成・発行している。事業評価年次報告書2023では、2023年度に確定した事業評価結果や、横断的な評価・分析結果等を掲載している。

委員コメント

  • 「ウェルビーイング」の考え方を踏まえた事後評価は、同テーマに取り組む国際NGO等にとっても励まされる内容である。一方、ウェルビーイングの向上を直接の目的とした事業の評価というよりは、結果的にウェルビーイングがいかに改善したかという観点の評価と思われる。これらの評価結果を事業にフィードバックし、より直接的にウェルビーイングの向上を意識した案件形成等がなされることを期待したい。
  • 「整合性」は、事前評価での確認が重要である。また「妥当性・整合性」は、事前評価と事後評価での視点は異なるのではないか。事後評価では、事業の実施中に妥当性に課題があれば適切に軌道修正したかを確認するべき。評価6項目は項目毎に評価するのではなく、各項目の関係性を全体で見ることが重要である。
  • コロナ緊急支援借款は、迅速な対応等で成果が出たことは理解できる。一方、借款であり、相手国の過重債務問題等に関しても記述があれば、バランスが取れたレビューとなり良いと感じた。また、今後への示唆で記載されていることは、1980年代の構造調整の頃から一般的な財政支援融資についての提言と変わらず、コロナ対応に特有な教訓があった方が良いと感じた。

(2) クラスターマネジメントの導入に向けたモニタリング・評価の試行の進捗状況

前回(2023年8月)の委員会に引き続き、課題解決に向けた事業の大きなまとまりである「クラスター事業戦略」の評価手法等に関する最新の検討状況を報告。

委員コメント

  • グローバルアジェンダ及びクラスター事業戦略は、JICAが外部機関とどう協調するつもりかという視点で、各途上国や各ドナーでもかなり注目度が高い。SDGsの4つのP (Prosperity(豊かさ)、People(人々)、Peace (平和)、Planet(地球)) に留まらず5つ目のPであるパートナーシップに焦点を当て、 外部機関等との協働を意識した枠組みであると理解した。
  • グローバルアジェンダ及びクラスター事業戦略では、どこまで外部機関との協働が可能なのか。クラスター事業戦略は何を目指すのか、その目標は可変なのか等が課題と考える。柔軟性を持たせて運用するのであれば、これまでのJICAの事業運営・マネジメントから、かなりの変革を伴うものになる。パートナーを巻き込みながら、サステナブルな社会を目指すという目的のためには、なるべく柔軟に、多義的に、複雑性に対応できるよう、可変的な枠組みを作る必要がある。
  • クラスター評価では、各途上国別の実施状況、他ドナー別の支援状況、日本(JICA)としての達成状況等がある。どこに焦点を当てて評価するのか。クラスター評価での達成指標の取り方は非常に難しいのではないか。
  • クラスター評価が次年度以降の事業評価年次報告書にどのように記載されるのか関心がある。個別案件の終了時レビューとクラスターマネジメントの関係性はどうなるか。事業部と評価部の役割分担は。ご提案されているクラスターマネジメントの図では、形成的評価はクラスター単位の年次モニタリングにかかっているが、事業の見直しや教訓は現場からしか情報は出てこない。現場の情報を踏まえてその都度事業の内容を変えていくことが重要。クラスターは中期目標を意識していると聞いているので、それにあわせて総括的な評価の実施を検討すると理解した。Theory of Change(以下「TOC」という。)は行動変容やインパクトを捉えるが、形成的な見直しには適さない。むしろクラスターマネジメントは、知の共有や蓄積に使っていく、また、外部発信や、パートナーとの共創という点ではよいのではないか。

(3) 委員長まとめ

  • 国際的課題では、ルールメイクが重要。開発援助の世界では、アメリカが世銀を設立してルールメイカーであった時代、イギリスが援助協調の枠組みを作って主導的であった時代等があった。重要なことは、途上国のニーズをしっかりと把握し適切な対応を取ることである。各国のセクターの課題に対応するには、相手国政府が中心であることに変わりはない。日本は個別の案件を実施すれば良いのではなく、相手国政府と一緒に多くのパートナーを巻き込みセクター全体の改善に取り組んで欲しい。新興ドナーはそのような協調枠組みに関わった経験がない。日本がリーダーシップを取り、新興国を巻き込んでいくルールメイカーになってほしい。
  • クラスターは、国横断的な開発戦略と各国のセクター開発戦略の2本立てと考える。各国でのセクター全体を他のアクターと共にどう改善していくのか、今の枠組みでは良く分からない。
  • 現在良く議論されているTOCは、取扱を留意すべきと個人的には考えている。TOCを安易に活用するのではなく、まずは、そのセクターやプロジェクトがこれまで経験してきた蓄積や知見をしっかりと踏まえた上で、その対応を検討すべき。
  • クラスター評価と国・事業別の評価との整合性を取り、ラーニングの充実とともに説明責任の確保をいかに戦略的に両立させるかを、評価部でさらに検討を深める必要がある。
  • 長らく本委員会の委員長を務めさせて頂いた。委員各位、評価部はじめJICA関係者等のこれまでのご支援・ご協力に感謝したい。

以 上