「地域輝かせ隊」の諸橋康太朗氏、「主役は地域に住む人々」

2024.03.13

「地域輝かせ隊」は、JICA海外協力隊として「持続可能な観光開発」に取り組む隊員のグループ名です。今回はドミニカ共和国のシバオ北部地域で活動中の諸橋さんを紹介します。

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愛知県名古屋市出身の諸橋康太朗さんは、旅行会社の海外営業部門で11年間勤務し、キューバ、パナマ、トルコ等、計6か国にある観光地の発掘調査を企画・実施されたほか、山口県阿東地区にある青空図書館の観光開発支援にも携わられており、国内外各所の観光振興に貢献されてきました。現在はJICA海外協力隊員として、ドミニカ共和国のシバオ北部地域でコミュニティ・ベースド・ツーリズム関連の活動に従事されています。

(JICAスタッフ 佐藤知美)諸橋さんの任地は、ドミニカ共和国の中で観光開発がかなり進んでいるプエルトプラタを含む北部地域ですが、概要について教えてください。

(諸橋さん)透明度の高い美しいビーチが数多く点在し人気のある地域です。

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カジョ・アレーナ(北部地域の有名観光地)

最近では山でのキャンプやグランピング、川や滝でのアクティビティも注目されている、とても自然豊かな地域で、マイカーを持つ若者等に特に人気な観光地です。また、スペインの面影が見られる建築物や大航海時代の遺跡もたくさん保存されており、ノスタルジックな雰囲気も残しています。
更に、ドミニカ共和国の北部地域は「メレンゲ・ティピコ」というテンポの速いラテン音楽の発祥地域としても有名であり、街中では陽気な音楽に合わせて楽しく踊る人たちを見ることができます。

(佐藤)ドミニカ共和国の中でも特に自然・歴史・文化を感じることが出来る観光地なのですね。他方で、この地域はオールインクルーシブホテルも多く、既存の観光の仕組みがもたらすネガティブな影響も多いと聞きます。詳しく教えてください!

(諸橋さん)ドミニカ共和国の海外観光客数は年々増加していますが、海外から来訪する観光客の多くは、ビーチに隣接するオールインクルーシブホテルに滞在し、外出する事なくホテル内に留まる傾向にあります。
その結果、一部企業や一部地域にのみ利益がもたらされており、観光の経済的効果が地元に還元されないということが課題となっています。また、リゾート施設建設によるサンゴ礁破壊などの自然環境への影響が確認されている地域や、外資系企業を誘致しすぎてしまったことにより、地元産業の継続が困難になっている地域も数多く見受けられています。
私の活動地域であるシバオ北部地域もまたその一例となっています。さらに、北部地域では主要都市からのアクセスの不便さも課題の一つです。旅行の動機となりうる、地域や地元団体の魅力をさらに引き出す必要があります。

(佐藤)JICAも、「北部地域における持続的なコミュニティを基礎とした観光開発のためのメカニズム強化プロジェクト | ODA見える化サイト (jica.go.jp) 」を通して、コミュニティ・ベースド・ツーリズムを促進してきましたが、住民のニーズを反映した中長期的な開発計画を作ることが重要ですよね。さて、諸橋さんの活動について教えてください!

(諸橋さん)私は、北部地域の観光業を営む団体や企業、政府自治体などとともに、観光業で地域利益につながるシステムの構築、お土産品などの商品開発や、観光地の現状分析・改善・観光ルート発掘支援などを行っています。
現在取り組んでいる活動で、特に大きなプロジェクトを3つ紹介致します。

1つは風力発電所での「折り紙プロジェクト」です。
風力発電所の広大な敷地内に、ペットボトル、牛乳パックや古紙などのリサイクル資源で作った風車をお花畑のようにカラフルに飾っていくプロジェクトです。フォトスポットとしての集客はもちろん、学生向けスタディツアーを企画し、折り紙の風車作りのワークショップを通して、風力エネルギーの仕組みや魅力を体感するとともに、自然環境やゴミ問題についての学びの場を作るプロジェクトを現在進めています。
また、地元の女性住民を対象に、折り紙で作るピアスやアクセサリー作りの講座を開講予定で、将来的には風力発電所内での製造・販売を行い、地域住民の収入源を作りたいと思っています。

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2つ目は、お土産品の商品開発です。ドミニカ共和国では、キャッサバ芋を潰し薄くのばして焼き上げる「カサベ」という煎餅のような食べ物が普及しています。ある団体では、カサベを球体状に曲げて焼き上げる技術を有しています。また、別の団体では、バナナの木の皮の繊維を使って様々な工芸品を作る技術を有しています。この2つの団体の技術を掛け合わせ、バナナの皮で作ったメッシュバッグに球体のカサベを入れてお土産品として2拠点で販売しようというプロジェクトを進めています。

団体の収入向上とともに、2拠点の連携・協力を促し、デスティネーションの難点を克服できるような魅力作りの支援や、2拠点を繋ぐツアールートの新設を目指しています。

3つ目は「お客様アンケートの導入」です。
活動が進むにつれて、北部地域のみならずドミニカ共和国全土、観光客対象の満足度アンケート調査が全く普及していないことに気付きました。
観光客の意見を汲み取り、改善点を見つけ、より魅力的な観光地となる為に、アンケート調査をこの国で定着・習慣化させていきたいと考えています。そのためにも、アンケートをただ導入するだけでなく、アンケートを回答した観光客側のメリットとして、Wi-Fiの無料利用や、近隣レストランと連携することで、割引チケットやドリンク無料サービスなど地域のサービスとも連携し、地域全体で更なる利益を生み出す仕組みを現在検討しています。

(佐藤)諸橋さんは学生時代から続けていたバンド活動を通して中南米地域に興味を持ったことから、海外に携わる仕事を希望して観光業界に入られたと聞いています。地域に根差した発想力あふれる活動、素晴らしいです! 諸橋さん、最後に一言お願いします。

(諸橋さん)自分の活動の主役はあくまでも「地域に住む人々」だということを常に念頭において対話を重ね、地域の人たちが率先して自発的に行うことが出来るコンテンツを生み出していきたいと考えて活動しています。私の任期が終わった後も、地域住民の自発的な観光開発が進むようなきっかけを作れるよう、日々奮闘しています。この国に住み約1年が経過しましたが、日本のビジネスシーンでは想像できないような事もしばしば起き、その度に計画の変更を強いられる日常です。想いを強く持って、適宜冷静に柔軟に対応することを心掛けています。

この国での観光開発経験を糧に、日本人としてのアイデンティティを活かした活動を国内外問わず行っていきたいと考えており、今後も中南米地域の発展に色々な形で携わりたいと考えていると共に、インバウンド向けに日本の農村部にある古民家開発も併せて行ってきたいと考えています。

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ドミニカ共和国の伝統シャツ、チャカバナを身にまとった諸橋さん。手に持っているのは楽器のグイラ。

本記事は2024年3月に作成・公開されました。

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