概要
- 活動概略
- 「人間の安全保障」が目指すのは、人々を貧困や紛争、災害などの脅威から守り、一人ひとりの人間が可能性を実現する機会と選択肢を手にし、自ら脅威に対処できるようになること。そのためにJICAは、開発途上国の政府が持続的に人々を脅威から「保護」し、人々のニーズに的確に応える行政サービスが提供する体制や能力を獲得できるよう支援するとともに、人々自らが問題を解決し自立して生活を改善していけるよう、地域社会や人々の「能力強化」に努めるなど、包括的な協力を展開しています。
「人間の安全保障」とは?
「人間の安全保障」とは、どのような概念なのでしょうか。
緒方貞子(前JICA理事長)、アマルティア・セン(現ハーバード大学教授)を共同議長とする「人間の安全保障委員会(注1)」が作成した最終報告書(2003年)Human Security Now(邦題「安全保障の今日的課題」)では、「人間の安全保障」を「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義しています。
今日、国家による安全保障のみにより個々の人間の安全を守ることは困難になっています。紛争、地球温暖化、武器や薬物の拡散、感染症の拡大、これらの問題は国家の枠組みを容易に超え、人々の生命や生活を脅かしています。こうした現象から、ひとりひとりのいのちの尊厳や生活を守るために必要と考えられるのが「人間の安全保障」という概念です。中心に捉えるのは「人間」であり、人々が着実に力をつけ自立することを重視する考え方です。
(注1)人間の安全保障委員会:2000年の国連ミレニアムサミットにおける日本の呼びかけに応じ、2001年1月に緒方貞子国連難民高等弁務官とアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長を共同議長として設立された。同委員会は国連・各国政府からは独立した委員会だが、その事業はUNHCRや国連開発計画、ロックフェラー財団等との密接な連携の下で進められた
「人間の安全保障」が生まれた背景
冷戦終結後、国家間の戦争は減少しましたが、民族、宗教、文化の違いなどの要因による国内紛争や地域紛争は多発しています。また、国が機能していない状態や多数派が地域を支配し少数派を圧迫している地域もあります。そのため、国家が国民の生命と財産を守るという使命を充分に果たせない場合があり、たくさんの一般市民が紛争や国内の混乱の犠牲になっています。また、グローバリゼーションが進み、人・物・サービス・金・情報などが、大量にかつ瞬時に移動することにより、国境を越えた経済活動、人々の結びつきが深まりました。これにより国際社会に繁栄がもたらされた一方で、国際テロ、国際犯罪、感染症などが国境を越えて拡大しています。また、どこかで経済危機が起これば、それが瞬く間に世界各地に影響を与えることもあります。さらに、気候変動やエネルギー問題などの地球的規模の問題もより深刻となりつつあります。
その結果、国家としての枠組みだけでは対応することが困難な脅威、一ヵ国だけでは対応できないさまざまな脅威に人々は晒されるようになりました。このように、国家を単位とした安全だけではなく、人間一人一人の安全に注目する必要性が高まり、「人間の安全保障(Human Security)」の考え方が生まれたのです。
日本のODA政策としての「人間の安全保障」
日本政府は、2003年に定めた新ODA大綱で、この「人間の安全保障」の概念を取り入れたODAの実施をうたいました。さらに、2005年2月に策定した新しいODA中期政策では、「人間の安全保障」を「ひとりひとりの人間を中心に据えて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威に下にある個人及び地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目指す考え方である」と定め、「開発支援全体にわたってふまえるべき視点」として位置付けました。
JICAの取り組み
JICAにおける『人間の安全保障」導入
新JICAは、「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発」(Inclusive and Dynamic Development)という新しいビジョンを掲げ、このビジョンを実現するため4つの使命を果たします。
このJICAが組織として自らに課している4つの使命の一つに、「人間の安全保障の実現」があります。JICAがこれを最重要な使命のひとつに掲げる背景には以下の3つ問題認識があるからです。
第一に、半世紀を迎えたODAの歴史をふまえ、いま改めて「人間中心の援助」をうたう必要が生じています。これまで、ODAを含む国際協力は、開発途上国の多様なニーズによりよく応えるために、さまざまな工夫を凝らしてきました。その結果、集中と分業が高度に進み、教育や保健、農業といった分野ごとに、あるいは技術協力や無償資金協力、有償資金協力などの援助形態ごとに、細分化されて援助が行われる傾向にありました。しかし人々を取り巻く問題はさまざまであり、またそれぞれの問題は複雑に絡み合っています。その現実に応え、人々が抱える問題に適切に対応するためには、それらの複合的な問題を的確に把握し、総合的に取り組むことが不可欠となってきています。
第二に、冷戦構造の崩壊を契機として、「開発」と「平和」に対する包括的な取組みがますます必要となってきているという点です。貧困にあえぐ途上国の人々の多くは、同時に、武力紛争がもたらす影響を直接、あるいは間接に受け、それによって生命、生活、尊厳が危機にされています。また開発途上国の貧困問題や社会的な格差が紛争要因となっているのも事実です。
第三に、「より困難な状況にある国や地域」に対する取組みを強化しなければならないという認識です。以前は、より効果がみこまれる国・地域に対して支援した方が良いという議論もありました。しかし、「より困難な状況にある国や地域」の人々が直面している問題の改善に取り組むことなくして、国際社会全体の平和と発展はありえない、という共通認識が世界的に形成されてきています。
「人間の安全保障」とJICAの実践方法
私たちは、JICA事業の実施に際して、「人間の安全保障」の考え方を常に念頭におき行動しています。「人間の安全保障」の実践とは、決して画一的なものではなく、それぞれの国・地域の人々が置かれた多様な状況に応じたきめ細かな対応が必要である、と考えています。
これまでのJICAの活動にも、これらの視点が盛り込まれた事業は数多くありましたが、今後はこれまでの事業の活動内容をいま一度見直すとともに、さらに、人々に届き、より大きなインパクト(波及効果)を与える協力をめざしていきます。
JICAでは、「人間の安全保障」の実践を目指すため、人々を中心に捕らえ、人々に確実に届く援助を実践することを基本方針として、協力事業を実施します。そのため、旧来のJICAにおける「人間の安全保障」の7つの視点を「協力の実践方針」および「重要なアプローチ」に整理し、4つの実践方針と4つの重要なアプローチを定めました。
詳細情報
パンフレット
国際協力総合研修所・調査研究
「人間の安全保障」の観点を組み込んだ貧困削減戦略の基本的アプローチはどうあるべきかを分析
JICA広報誌
フロンティア
特集
- 「特集/実践!『人間の安全保障』」(2004年10月号)
プロジェクト「人間の安全保障」
(注)人間の安全保障の視点を色濃く反映したプロジェクトの紹介
- 「プロジェクト『人間の安全保障』第1回 アジア太平洋障害者センター」(2005年5月号)
- 「プロジェクト『人間の安全保障』第2回 ザンビア ルサカ市プライマリーヘルスケアプロジェクト・フェーズ2」(2005年6月号)
- 「プロジェクト『人間の安全保障』第3回 アフガニスタン 女性の経済的エンパワーメント支援プロジェクト」(2005年7月号)
- 「プロジェクト『人間の安全保障』第4回 ネパール 公立小学校教育向上事業」(2005年8月号)
- 「プロジェクト『人間の安全保障』第5回 アフリカのHIV/エイズ対策」(2005年9月号)
monthly Jica
特集
- monthly JICA 2006年1月号「特集『人間の安全保障 人々に力と希望を』」
Zoom in Human Security
(注)「人間の安全保障」再考
- 第1回 「 "Zoom in Human Security"今さら聞けない? 『人間の安全保障』とは…」
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第2回 「 "Zoom in Human Security" 『人間の安全保障』に基づく援助とは?」(PDF/96KB)
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第3回 「 "Zoom in Human Security" 『ミレニアム開発目標』と『人間の安全保障』の関係は?」(PDF/36KB)
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第4回 「 "Zoom in Human Security" 対ボリビア支援における『人間の安全保障』」(PDF/30KB)
Zoom in Human Security
(注)「人間の安全保障」の視点を取り入れることによって、JICAの実践はどう変わったのか
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第5回 「 "Zoom in Human Security" 『人間の安全保障』自由自在 in アフリカ」(PDF/42KB)
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第6回 「 "Zoom in Human Security" 『人間の安全保障』の考え方により研修の効果が高まる!(PDF/68KB)
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第7回 「 "Zoom in Human Security" JICAとNGOの強みを生かすような連携で人々を支援」(PDF/44KB)
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第8回 「 "Zoom in Human Security" 『人間の安全保障』の実践には、人々が置かれている現状の把握がカギ」(PDF/45KB)
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第9回 「 "Zoom in Human Security" シャーガス病対策そのものが、人間の安全保障を実現!」(PDF/52KB)
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第10回 「 "Zoom in Human Security" 復興の成否は被災者主体の復興プロセスを想定できるかどうかにかかっている」(PDF/47KB)
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第11回 「 "Zoom in Human Security" 援助コミュニティー全体に人間の安全保障の考え方を」(PDF/48KB)
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第12回 「"Zoom in Human Security" 障害者を"弱者"にしない社会へ(PDF/46KB)
実践!人間の安全保障
(注)各国でのJICA事業における人間の安全保障の視点
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第1回「紛争で人生を翻弄された人々に未来を」(スリランカ)(PDF/253KB)
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第2回「今の暮らしを変えるためではなく、残すための援助を」(ラオス)(PDF/240KB)
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第3回「疎外された人々への理解と信頼関係の構築が重要」(ペルー)(PDF/205KB)
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第4回「取り残された農村に焦点を当てた経済・社会開発を」(モロッコ)(PDF/113KB)
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第5回「理想を正しく共有し、真の弱者支援を」(ホンジュラス)(PDF/49KB)
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第6回「人生を自分自身で選択できる社会に」(ネパール)(PDF/330KB)
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第7回「人々の力を信じ、信頼されるような協力を」(ウガンダ)(PDF/68KB)
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第8回「地方に潜む格差問題に目を向けてほしい」(ヨルダン)(PDF/57KB)
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第9回「地域住民の自立を促す支援を」(ガーナ&シエラレオネ)(PDF/59KB)
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第10回「成長の果実を、すべての人々へ届けるために」(ザンビア)(PDF/43KB)
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第11回「特定の民族・集団に偏らない公平な支援を」(西バルカン地域)(PDF/46KB)
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第12回「発展を下支えする人々に光を」(タイ・アセアン地域)(PDF/49KB)
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第13回「政府と市民社会をつなぐ支援を」(ミャンマー)(PDF/48KB)
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第14回「地域住民の能力強化を」(セネガル)(PDF/48KB)
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第15回「住民一人一人に防災の力を」(パキスタン)(PDF/121KB)
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第16回「食の安全保障」を実現するために(パプアニューギニア)(PDF/54KB)
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第17回「自然とバランスの取れたよりよい暮らしを」(ブラジル)(PDF/93KB)
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第18回「住民との協働で農村の就学率向上を」(エチオピア)(PDF/45KB)
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第19回「人々の安全保障に、地道かつ誠実に取り組む」(マラウイ)(PDF/129KB)
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