「人間の安全保障委員会」最終報告書は、人間の安全保障を以下の四つの観点から、国家の安全保障の概念を補完し、人権の幅を広げるとともに人間開発を促進するものと説明しています。
- 人間中心であること:国家よりも個人や社会に焦点をあてていること
- 国家の安全保障では、好戦的あるいは敵対的な他国の存在が念頭にあり、敵国から国境や制度、価値観、国民などを守るために強力な安全保障体制をつくりあげる。これに対し、「人間の安全保障」は外敵からの攻撃よりもむしろ、多様な脅威から人々を保護することに焦点をあてる。
- 脅威:国家の安全に対する脅威とは必ずしも考えられてこなかった要因を人々の安全への脅威に含めること
- 国家の安全保障の意味するところは、軍事力により軍事力から国境を守ることである。これに対し「人間の安全保障」は、環境汚染、国際テロ、大規模な人口の移動、HIVエイズをはじめとする感染症、長期にわたる抑圧や困窮までを視野に入れる。
- 担い手:国家のみならず多様な担い手がかかわってくること
- 国家のみが安全の担い手である時代は終わった。地域・国際機関、非政府機関(NGO)、市民社会など、「人間の安全保障」の実現にははるかに多くの人が役割を担う。
- 能力強化:その実現のためには、保護を越えて、人々が自らを守るための能力強化が必要であること
- 安全を確保することや人々や社会の能力を強化することは密接に結びついている。人間は危険な状況に置かれていても、たいていの場合自ら解決の糸口を見出し、実際に問題を取り除いていくことができる。
人々は、紛争・テロ、災害・環境破壊、感染症の蔓延、経済危機などの「恐怖」や、貧困、栄養失調、教育・保健医療などの社会サービスの欠如、基礎インフラの未整備などの「欠乏」という多様な脅威に脅かされています。また、それらは相互に関連し合っており、人々はこのような脅威によりさらに状況が悪化する危険性(ダウンサイド・リスク)を抱えています。「人間の安全保障」とは、人々が「恐怖」や「欠乏」から解き放たれ、安心して生存でき、人間らしい生活ができる状態をつくることを指しています。
これらをふまえ端的にいえば、「人間の安全保障」の考えとは、人々が安心して生活できるような社会づくりを行うための枠組み、といえるのではないでしょうか。
開発分野における「人間の安全保障」 人々を取り巻く脅威とその相関関係
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