【外国人材受入・多文化共生事業】東北らしい多文化共生のあり方とは/多賀城市高橋地区ではじまった町内会サイズの交流

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.01.23

外国人住民と共に生きる、これからの多文化共生のあり方とは

近年、国際交流という言葉に代わり「多文化共生」という言葉をより耳にするようになりました。多文化共生とは、『国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと』※と定義され、一時の交流で「お客様」扱いするのではなく、人種や国籍の異なる外国人住民もその他の住民と共に地域社会の一員としてまちづくりに参加していく様子を指しています。

では、なぜいま多文化共生が注目されているのでしょうか。それは日本の少子高齢化にともなう深刻な働き手・社会の担い手不足が、IT技術の活用などとともに、年齢、性別、国籍や文化が異なる全ての住民が活躍することによって緩和できるからです。そうした中で外国人も日本人も同じように出生、入学、卒業、就職、結婚、出産、子育て、老いというライフステージを安心して迎えられる共生の社会づくりが必要になります。JICAは自治体、NPO、企業、町内会や学校などとの繋がりを活用し、日本人でも外国人でもともに多文化共生の担い手となるような、自主的な活動を支援しています。
※多文化共生の推進に関する研究会報告書~地域における多文化共生の推進に向けて(総務省 2006年3月)

多賀城市高橋地区が積極的に取り組んだ、留学生と交流の再開

「JICA東北センターが、多文化共生事業をスタートさせた2020年11月からしばらくは、コロナ禍の影響もあり地域に入っていくような活動がままなりませんでした。活動内容も手探りで、JICAの持つノウハウをどう活かし、どのように進めようかと模索しました」と話すのは、JICA東北センターで外国人材受入・多文化共生を担当し3年目の佐藤 国際協力推進員。東北の自治体や関係団体から多文化共生の取組み例や課題について情報収集を進めていたところ、宮城県多賀城市内のとある町内会と近くの工場で働く技能実習生数名との、小さなサイズの地域防災と交流活動の内容を聞き、『東北らしい多文化共生の形』を考える大きなヒントを得ました。その町内会から「ほかの町内会と外国人をつなげる役目をしてみたら」と勧められたのが、世界中の姉妹校から留学生を受け入れている仙台育英学園高校が立地する多賀城市の高橋地区でした。それを受けて仙台育英学園高校と高橋地区の町内会、それぞれにコンタクトを取ったところ、「あまり交流はなくコロナ前にあったものも途絶えたまま」とのこと。しかし両者ともに前向きな返答があったため、まずは意見交換の機会を設けることにしました。

両者が初めて顔を合わせたのは、2022年秋のことです。JICA担当者と高橋東一区と東二区の町内会長2名が仙台育英学園高校を訪問し、留学生や外国人講師ら10数名と初めて意見を交わしました。まずは多文化共生の考え方や、今回の交流会の目的を伝えた上で他地域の事例を紹介し、互いに興味のあることや得意なこと、地域で一緒に取り組みたいことなどを話し合いました。また、この年には高橋地区に何度も津波や浸水避難指示が出されていたこともあり、いざというときに助け合えるつながりづくりに繋がればというJICAの地域防災推進への思いもありました。

交流や共生の方法にさまざまな意見が出される中、町内会から宮城の伝統的な冬の風物詩である「どんと祭」に参加してもらうのはどうかと意見がありました。後日チラシを配布して外国人留学生らに参加を募ったものの、おそらく全ての準備が整ってから「お客さん」として来てという呼びかけだったからか、参加者はありませんでした。町内会ではこの経験を教訓に、4年ぶりに開催する夏祭りでは、お神輿や盆踊りなどメインイベントへの参加を提案しつつ、当日だけでなく事前の準備や練習、抽選会への景品選びにも参加を促しました。留学生としての「参加者」という立場だけでなく、祭の「担い手」という立場で地域行事を体験してもらいたかったからです。結果、盆踊りの事前練習と出身国の文化紹介的景品選びに留学生が参加し、夏祭り当日は猛暑日にもかかわらず、留学生をはじめ日本人生徒、ウクライナから近隣に避難されているご家族などが参加し、4年ぶりの夏祭りは外国人住民も交えて盛会となりました。

盆踊り事前練習に参加する留学生に婦人会が指導/※町内会アメブロ7月16日記事より

高橋地区のお神輿に参加する留学生たち/JICA東北撮影

高橋地区のみなさんも留学生たちを快く受け入れています/ JICA東北撮影

町内会単位の小さな交流から始まる、多文化共生への足がかり

また、10月29日に行われた高橋地区合同文化祭では、町内会が企画運営し『ウクライナの文化と平和を知ろう』というテーマで、地区に避難しているウクライナ人女性から歴史や文化を紹介してもらう講演会の時間が設けられました。通訳は仙台育成学園高校のウクライナ出身の先生が担当し、JICAからは佐藤推進員が宮城県のリソースを活かしたJICAのウクライナ支援などを紹介。戦争や破壊だけではないウクライナの姿に触れる時間となりました。高橋地区の多文化共生への取り組みは、はじめの一歩を踏み出したばかりですが、町内会が地域の伝統行事に外国人を受け入れる体制を整えたり、外国人住民と地域で一緒に何ができるかと考えたりすることは、これまでとは異なる目線で地域のあり方を考える貴重な経験となったとのことです。JICAは今後も継続して取り組みを進める様子を見守りつつ、必要があればアイデア出しなどサポートをさせていただければと考えています。

住民でもあるウクライナ人女性とJICA東北が高橋地区のみなさんに囲まれながら講演しました。/ JICA東北撮影

東北の歴史と防災知見を活かす、多文化共生を模索

実は東北には、これまでも外国人を含む外からの「よそもの」の力を借りて困難な時期を生き抜いていた経験があります。古くは漁業の維持発展のためであり、また農村の嫁不足解消のため、そして震災後は復興のためと、幾度となく外からの力を借り、ともに発展を目指してきた歴史があります。「高橋地区は外国人関係人口が多い地区であり、また町内会で様々な経験を持つみなさんが活動しているところだから、多文化な住民も受け入れようとする素地があるようと感じました」と佐藤推進員は話します。このような町内会の小さな伝統行事や普段のご近所づきあいにも、積極的に外国人住民を招き入れ、ともに楽しめる時間を作ることが互いを認めあうきっかけとなりそうです。

JICA東北センターでは、高橋地区のような小さなサイズの多文化共生や異文化理解のきっかけ作りをこれからもサポートしていきます。主体となるのは地域住民の方々やその地域の学校や企業になりますが、ご要望があればそれに応え、各所と調整したり、アイデアを発展させたり、動き出しを応援したりすることができます。町内会サイズで「『だれも取り残さない』まちづくりに外国人も参加させてみたいがどうすればいいか」というお悩みがございましたら、ぜひ一度ご相談ください。

【お問い合わせ・ご依頼】

JICA東北 市民参加協力課 外国人材受入・多文化共生担当 
TEL:022-223-4772
E-mail:thicjpp@jica.go.jp

関連リンク

多賀城市髙橋東二区町内会ブログ
https://thigashi2.exblog.jp/ 
JICA外国人材受入れ・多文化共生支援事業
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/multicultural/index.html 
JICAウクライナ
https://www.jica.go.jp/overseas/ukraine/index.html

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