地域の「幸せ」と向き合う

今回は、2020年10月に福井県立大学 地域経済研究所に准教授として着任された元JICA職員の、高野 翔さん(元JICA職員)にお話を伺いました!

福井県立大学 地域経済研究所 准教授
高野 翔さん(福井県福井市出身)

JICA職員としてのエピソード

 「緒方貞子氏の存在を知ったこと」それがJICAに入構したきっかけだと高野さんは言います。大学院生時代、緒方JICA元理事長を通してJICAを知ったという高野さん。緒方氏が提唱した「人間の安全保障」の概念や、JICA事業が開発途上国の人々の課題解決に資するものであることに魅力を感じ、2009年にJICAに入構、以来約20か国のアジア・アフリカ地域で持続可能な都市計画・開発に関わってこられたそうです。
 高野さんが2014年から3年間過ごしたブータンでは、「国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)」を開発の基本理念として掲げており、これは、経済成長のみに偏重せず国民が幸福感を持って暮らせる社会を国の目標とするものだそうです。「開発の対象が『人』であり、一人ひとりの『心』に目を向けているんですよね。」そう高野さんは言います。高野さんはブータン国内で、国民の幸せの状況を測るGNH調査にも関わってきたそうなのですが、地域を巡回し住民一人ひとりに対し「幸せ」に関する質問をし、その調査結果をもとに国づくりの一部について現地の同僚たちと一緒に考えられたことが最も印象的だったと話されていました。
 同じくJICA職員として東ティモールの仕事にたずさわられていた頃は、都市計画マスタープランの策定に関わる現地政府の職員との出会いに刺激を受けたと言います。当時、高野さんと同じ年齢だったというその職員の地域づくり、国づくりに対する想いや行動はとても熱く、何より、現場で課題に向き合う彼の言葉には「重み」を感じたそうです。その出来事を通して、開発途上国の人々と向き合い、彼らの背中を押していく上で、高野さん自身も彼のような人になりたい、と仕事に対する使命感がより一層強まったと言います。

地域住民の想いを行動に

 高野さんはJICA職員の頃から、地元福井県でのまちづくりに関わってこられました。2018年2月の福井豪雪の際には福井市の財政難に伴い、市内のさまざまな事業が中止または規模縮小となりました。そこで高野さんは地域のリソースパーソンと協働で、豪雪によってできなくなった事業を市民一人ひとりのできることで復活させる「できるフェス」を企画されたそうです。福井市中央公園で開催されたこのイベントでは、学校のプール開放事業の代替企画として、家庭用のプールを持ち寄って水遊びの場を設けたり、本の交換市や野外での映画上映などが行われたりしました。地域住民目線のさまざまなエッセンスを取り入れられたこのイベントは、グッドデザイン賞2019も受賞されたそうです。
 また、2019年には、福井の幸せを探究する「未来の幸せアクションリサーチ」にクリエイティブディレクターとして関わられた高野さん。この取り組みでは、福井の人々の幸せについて、そして、幸せを実感できる地域社会の未来シナリオについて、県民とのワークショップやAIによる分析データを用いて探ったそうです。幸福度が全国的にも注目されている福井県ですが、地域住民の視点からどんなときに幸せを感じるかを、「家族・友人」、「時間の使い方」、「自然」など合計9つの分野で分類し、「幸せ150指標」としてまとめたり、AIがシュミレーションした2050年の福井の社会像に向け、小さな幸せアクションを皆で考えたりしたと言います。

地域に根差した取り組みを

 「地域でのWell-being(ウェルビーイング)について考え、それを地域づくりに生かしていきたい」と、自身の研究テーマを話す高野さん。日本全体として主観的な幸せ(Well-being)を示す指標は停滞傾向にあるそうです。福井県でも多様な問題がありますが、これまで途上国のフィールドで培ったものの見方や経験を生かし、今度は地元福井で地域の「幸せ」と向き合っていきたいという高野さんの強い想いが伝わってきました。

<編集後記>
「未来の幸せアクションリサーチ」のワークショップには筆者も参加する機会をいただいたのですが、福井に関わりがある多様なバックグラウンドを持つ方々との意見交換はとても白熱したひとときで、あっという間に時間が過ぎてしまったのを覚えています。参加者間の自然な対話を生み出しながらアクティブな議論の場へと導かれる高野さんの姿はとても魅力的でした。高野さんの今後の益々のご活躍を祈念しております!