昨今の物価上昇から考える:食料の大切さと「考える農家」の育成

2023.11.15

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緒方貞子平和開発研究所「開発協力戦略」領域 領域長 天目石 慎二郎

昨今の日本でのアルコールや食料品の値上げの影響

 最近の物価上昇はボディブローのように家計を圧迫しています。10月の酒税改正で第3のビールの税率が上がり、私を含む愛飲家は酒量の抑制を余儀なくされました。10月は4,500品目以上の食料品が値上げされ、この数はバブル崩壊後最大級とも言われています。少々我慢して財布のひもを締めて乗り切っている人達も多いのではないでしょうか。好みのお酒のお供が40円上がり、おまけにいつの間にか内容量まで減っており、世の中の世知辛さを実感しています。

開発途上国で食料価格が上昇すると:2022年はアフリカ食料危機発生

 日本ならこれくらいで済みますが、これが開発途上国で発生するとこの程度の我慢では済まず、健康・生命にも影響を与える事態となります。2020年に深刻化したCOVID19は世界を混乱に陥れ、世界的な食料価格上昇の引き金となりました。追い打ちをかけるように2022年2月のウクライナ侵攻により、食料価格の高騰が発生しました。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の穀物価格はピーク時(2022年10月)には2014~16年比で1.5倍以上に高騰しました。特にアフリカでは食料自給がままならず輸入依存度が高い国が多いため「アフリカ食料危機」が発生し、各国で大きな問題となりました。

飢餓人口の増加:SDGゴール2「飢餓をゼロに」はどこへ

 その結果、異常気象や紛争などの影響も相まって飢餓人口は増加の一途を辿っています。FAO他によると、2022年には世界で推定7.35億人が飢餓に直面し、COVID-19以前より1.22億人増加しました。「持続可能な開発目標(SDGs)」のGoal2では2030年に飢餓をゼロにすることを目指していますが、現状は程遠い状況です。これはSDGsの前身の「ミレニアム開発目標(MDGs)」で2015年までに飢餓人口の割合半減を掲げ、着実に低下してきた時とは大違いです。安定的に十分な食料にアクセスすることは全ての人々にとって不可欠なことであり、「人間の安全保障」の観点からもとても重要です。

世界の飢餓人口の推移

世界の飢餓人口の推移

・PERCENTAGE(縦軸左):飢餓人口の割合
・MILLIONS(縦軸右):飢餓人口(100万)
・黒線(折れ線グラフ上):飢餓人口の数(100万)
・オレンジ線(折れ線グラフ下):飢餓人口の割合

*FAO、IFAD、UNICEF、WFP、WHO「世界の食料安全保障と栄養の現状:2023年報告」より
ニュース | FAO駐日連絡事務所

アフリカでのレジリエントな農業を目指して:「考える農家の育成」

 食料事情が厳しいアフリカは、気候変動や紛争をはじめ様々なリスクに晒されており、これまで以上に食料安全保障の観点からレジリエントな農業生産の実現が求められています。そこで必要となるのが、国レベル・世帯レベルともに状況に応じて適切に対応する能力です。農家であれば、マーケット情報を基に市場が求める作物を生産し実入りを増やすこと、気象条件に応じて作期や作物を適切に判断し行動することなどです。JICAでは小規模農家のマインドを「作ってから売る」から「売るために作る」に変革するなど、ビジネスとしての農業を推進する「SHEP(Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)」の推進に取り組んでいます。今年9月のケニア出張時に訪れたある農家グループは、SHEPアプローチの有効性を聞きつけ自ら学びの機会を求め、学び、そしてSHEPアプローチを実践していました。男女の垣根なくみんなで議論し、市場が求める品種のトマトやオクラを生産し収入を増やし、栽培用の水タンクも設置していました。農家グループの能力強化が徐々に進めば、異常気象など様々なリスクへの対応能力が高まるはずです。

SHEPを実践する農家グループとともに

栽培用の水タンクを設置

 10月よりJICA緒方平和開発研究所で勤務していますが、SHEPアプローチの研究を含め、真の意味で持続的な開発の推進につながる研究に取り組んでいきます。
*SHEPアプローチについて
SHEP(市場志向型農業振興)アプローチ | 事業について - JICA
*緒方研究所ではSHEP研究に取り組んでいます
SHEPアプローチの小規模農家への効果に関する実証研究(SHEP研究) - JICA緒方研究所

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