パレスチナ官民連携による持続可能な観光振興プロジェクト

背景と目的

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生命の樹を描いた、ヒシャム宮殿に残るモザイクの一部

パレスチナには豊富な観光資源があり、観光業は重要な産業として位置づけられています。中でもジェリコには、豊富な文化・歴史遺産が存在しています。

1万年前に遡る世界最古の都市遺跡「テル・エス・スルタン」。氷河期後に人類が狩猟・採取生活から穀物栽培を行う定着型生活に最初に移行した場所として価値を持つだけでなく、新石器時代やブロンズ時代など23層にも亘る時代の遺跡が発掘されています。

新約聖書からは、ヘロデ王が住んでいた冬の宮殿遺跡、イエスが洗礼を受けたヨルダン川や40日間修行した「誘惑の山」。

中東最大といわれるモザイクを持つウマイヤ朝の「ヒシャム宮殿」。

ジェリコは様々な時代や宗教の遺産を持つだけでなく、海抜マイナス300mにある自然環境、人種の交流点として多彩な住民文化もあります。しかし、現状では、文化遺跡の活用、情報発信、観光商品開発などが進んでおらず、観光産業のポテンシャルを十分に生かせていないという課題を抱えています。このような背景から、観光産業の振興を図るために官民が一体となって観光開発を進めてゆく体制を構築することを目的として、本プロジェクトを実施しています。

事業概要

  • 協力期間:2009年3月〜2012年2月
  • プロジェクトサイト:ジェリコ
  • 実施機関:パレスチナ観光遺跡庁、ジェリコ市役所

1.Jericho Heritage Tourism Committee(JHTC)の設立と能力強化

JICAは観光振興のコンセプトや戦略立案を、官民連携して行うため、ジェリコにおいて観光振興を担う委員会、 JHTC設立・強化のための支援を行っています。パレスチナの観光・遺跡庁、県庁、市役所、関係行政機関、ホテルなどが委員会メンバーとなっています。

現在、ジェリコ祭、バザールの開催、LAG(Local Action Group、以下参照)の活動の支援といった観光振興のパイロットプロジェクトの実施を通じ、観光振興のコンセプトや戦略を立案するというJHTCの能力強化を行っています。また、JHTCが主体となって、LAG、住民組織、NGOsなどと一緒に観光振興を担っていけるよう、機能強化へ向けた協力を続けています。

2.観光プロダクト開発とLocal Action Group(LAG)の能力強化

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観光遺跡庁とジェリコ市役所が観光標識の設置状況を確認

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YWCAで仕事に励む女性たち

JICAは、観光用の地図や遺跡パンフレット、観光標識設置など、観光客向けの基礎的な観光プロダクト開発を支援しています。遺跡では、解説フィルムの作成や上映施設整備への支援を行いました。現在、観光案内所の整備やジェリコの観光ガイド育成の検討を行っています。

また、今後、観光産業を現場で担っていくのはジェリコの住民です。この観点から、観光プロダクトの開発を行うLAGの発掘や、組織強化の支援行っています。例えば、女性によるパンやクッキー作りの活動をしてきた団体(YWCA)が高付加価値で観光客向けのクッキーを開発したり、難民キャンプの蜂蜜グループが蜂蜜商品のパッケージ開発を行うことをサポートをしています。

住民が観光振興に積極的に関与することで経済的裨益者を増やすだけでなく、これまであまりよく理解されていなかったジェリコ観光資源の価値や重要性を認識するきっかけを作り、地域への誇りと主体的な観光振興を促すことで、観光産業の成長・持続可能性を高めることが期待されています。

事業エピソード 地域が参加できる観光システム作りを

プロジェクトで行ったバザールに出店したジャマールさんは、「誘惑の山」の近くで砂絵工房を営んでいます。「地域を巻き込んだ観光開発はとても良い方法だと思います。観光は、政府や外国、一部資本家だけに任せていては住民が恩恵を受けられないのです。JICAのプロジェクトを通じ、私たち自身が参加して観光振興を行っていけるようになることを期待しています。」こう語ってくれました。

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カラフルな砂を使って自在にデザインする

ジェリコにやって来る観光客は観光バスによる日帰りグループツアーが多く、また宿泊してもホテルから出ない場合も多いため、地域住民が観光業の恩恵を受けることが難しいのが現状です。遺跡や大型土産物店などのツアー会社が事前に決めた見所だけでなくジェリコの街の多くの他の場所も訪れてもらう必要があります。このためには、官民が連携して地域住民と共にツアーのコース作り等観光振興の方策を作り、地域住民がそれを実践し、また魅力的な観光プロダクトを開発することが必要です。

本プロジェクトでは、設立したJHTCとLAGの能力強化を通じ、ジェリコの観光振興への土台作りを継続していきます。

事業ハイライト

ジェリコ観光情報センター

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観光案内所の外観

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観光案内所の女性職員

JICA の支援を受けて2012年4月にオープンしたジェリコ観光案内所(TIC)には地元出身の二名の女性が営業窓口として勤務している。

開業以来3か月、33か国から425名の来訪者があった。来訪者には地図の提供、遺跡の紹介、訪問先の方向案内、宿泊施設の紹介、銀行ATMや両替所の案内などの情報提供が行われている。団体旅行の一経由地だったジェリコにも滞在型観光のための基盤が整いつつある。

「この近くにおいしいレストランはありますか?」と調査団員が聞くと、女性職員は観光地図を広げて地元で評判のグリルレストランを紹介してくれた。

リンク/参考資料