私のなんとかしなきゃ! 弘兼 憲史 漫画家

誠意を大切に、win-winのビジネスで世界へ

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®弘兼憲史/講談社

漫画「島耕作」を書き始めたのは、海外で活躍する日本企業の姿を描こうと思ったからです。今年で34年目になるこのシリーズでは、ニューヨークやフィリピンなど、世界のさまざまな国を飛び回る主人公の目を通して、日本のビジネスマンの仕事ぶりや現地社会の様子を伝えてきました。

連載を開始したときは課長だった島耕作も、部長、専務、社長と出世。入社43年目には会長に就任しました。以来、舞台となっているテコット社の利益だけでなく、日本全体の将来を考えるようになった彼は、経済同友会をモデルにした「経済校友会」の一員として、日本経済の活性化にも取り組んでいます。

今年4月、私はミャンマーを訪れた島耕作を描きました。同国は、アジア経済の中で今後、大きな地位を占めることが期待されています。私自身、昨年2月に初めて取材に行き、現地でさまざまな側面を目の当たりにしました。街灯がなく薄暗い街角や、あちこちに水たまりができた未舗装の道路は昭和30年代の日本のようでしたし、交通渋滞のひどさにも驚きました。籠の中の小鳥を空に放って功徳を積む人や、決して裕福そうには見えないのに進んで周囲に施しをする人の姿には温かさを感じました。何より、日本とミャンマーが官民挙げて開発を進めるティラワ経済特区(SEZ)をはじめ、各国から投資が押し寄せている様子は、今後の発展を確信させるものでした。

そんな同国で島耕作が着目したのが、酒米の山田錦を現地で栽培し、日本酒を製造するビジネスです。電機業界の人間がなぜ、と意外に思うかもしれませんが、彼は日頃から日本の食料自給率の低さに危機感を抱き、農業振興の必要性を感じているからこそ、日本酒を売り出そうと考えたのです。実際、ベトナムでは現地産の酒米を使って日本酒が製造されており、ミャンマーでも十分に可能性があります。

既に手掛けている漁業ビジネスをさらに深めようとしているのも同じ理由です。天然の魚を捕獲するだけでは、いずれ資源が枯渇する。その前に、産卵・生育・回遊を1カ所で行う「海洋牧場」を作ってはどうか−。これからのビジネスには、そうした大胆な着想と、実現する技術力が必要です。

海外、特に開発途上国でのビジネスには、現地にどれだけ潤いをもたらし、かつ環境に配慮するかが、かつてないほど問われています。幸い、日本企業は世界から高い信頼と好感を得ています。今年2月には、キューバでも「誠意をもって交渉にあたる日本人を尊敬する」と言われました。日本の経済力が低下する中、日本企業にはこの姿勢を忘れず、win-winのビジネスを心掛けてほしいと思います。

PROFILE

1947年、山口県生まれ。早稲田大学を卒業し、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)で3年間勤務後、1974年に漫画家としてデビュー。サラリーマン経験を生かした作品を多く発表している。1983年から始まった「島耕作」シリーズの舞台は、松下電器産業がモデルの総合電機メーカー、テコット(旧初芝電産)。今年4月には、会長になった島耕作がミャンマーを訪れ、日緬両国が官民共同で開発を進める「ティラワ経済特区(SEZ)」などを視察する様子を描き話題を呼んだ。画像は『会長 島耕作』第7巻より。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。